あの「鳥貴族ショック」から6年、インフレによる値上げは再び悪夢となるのか?

「何食べたい?」と聞かれていちばん無難な答えは「焼き鳥」ではないか、とわたしは思っています。基本的には庶民の味方ゆえ、高級焼き鳥店でも上値が限定されること、また庶民派のチェーン店であっても、味に大きなハズレはないこと、つまり店舗による味のブレも、価格のブレもそれほど大きくないので、みんながそこそこ満足できる確率が高いのです。また、少人数でしっぽりいただいてもよし、大人数でワイワイ楽しむもよし、いろんな意味でキャパの大きい食べ物だと思います。

ということで、半ば強引ですが、今回は焼き鳥チェーン店の大手、鳥貴族ホールディングス(3193)の決算をチェックしたいと思います。


過去に値上げで露骨な客離れに

鳥貴族といえば、2017年10月に「全品280円均一」から、298円に約6%値上げを実施。そこからなんと、10ヵ月連続で既存店客数が前年同月比マイナスになりました。この露骨な客離れは「鳥貴族ショック」とも言われ、飲食店での値上げがどれほど怖いものかと、ほか同業者を震撼させました。

あれから6年。コロナショックを経て、世界中で急速なインフレが起こり、日本も例外ではありません。原材料高、輸送費高、人件費高、光熱費高、それらをすべて企業サイドで吸収するのは不可能で、価格転嫁をわたしたち消費者も受け入れる体制となっています。

ちなみに鳥貴族は、2022年4月に319円へ、さらなる値上げに踏み切りました。これにより、あの悪夢が再来したのでしょうか?

9月13日(水)に発表された2023年7月期の①売上高は33,449(百万円)、②前年比64.9%、③営業利益1,417(百万円)となっています。飲食店はコロナの影響で、前年の数字がほとんど参考になりません。

画像:鳥貴族ホールディングス「2023年7月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

決算説明資料には、コロナ前の2019年7月期と比較できる資料がありました。

画像:鳥貴族ホールディングス「第37期(2023年7月期)期末 決算説明会資料」より引用

売上高は、コロナ前にもう一歩届かずですが、営業利益はすでに回復しています。

画像:鳥貴族ホールディングス「第37期(2023年7月期)期末 決算説明会資料」より引用

前年度は赤字ですから、急激に事業環境が明るくなっているようです。売上高に関しても、2023年5月以降の既存店売上はコロナ前をすべて上回っていますので、あの悪夢は繰り返されませんでした。

目指すは「世界の鳥貴族」

新年度予想を見てみましょう。

画像:鳥貴族ホールディングス「第37期(2023年7月期)期末 決算説明会資料」より引用

①売上高予想は39,964(百万円)、②前年比19.5%、③営業利益1,861(百万円)、④前年比+31.3%の二桁増収増益。営業利益では、過去最高益を目指すと意欲的です。

じつは同社は、2014年の上場直後に、全国2,000店舗を目標に掲げていました。当時400店舗程度なので、5倍に増やすという野心的な目標です。しかしその後、思うように店舗展開は進まず、昨年度2022年7月末時点では、622店舗。

ところが、2023年7月末には1,134店舗へほぼ倍に増えています。これは、2022年9月に「やきとり大吉」などを500店舗超手がけるダイキチシステムを買収したことによります。鳥貴族店舗の純粋な増加ではないので、若干のねじ伏せ感はありますが、一気に目標数2,000店舗に近づきました。

今後は米国への進出を果たすとともに、東アジア・東南アジアにおけるパートナー改革などにも取り組むようです。今期は1〜3店舗、TORIKIZOKU U.S.Aを出店予定。米国での反応がよければ、一気に店舗数拡大も十分考えられます。“YAKITORI”は、海外でも受けそうですよね。

そしてなんと、今後の海外展開を見据えて、2024年5月1日(水)より商号を「鳥貴族ホールディングス」から、「エターナルホスピタリティグループ」に変更すると発表しています。ネーミングの是非はともかく、本気で「世界の鳥貴族」を目指すようです。

出店加速が鈍化する懸念

このまま一気に出店攻勢をかけたいところですが、ひとつ大きな懸念があります。よくライバル会社として比較される串カツ田中ホールディングス(3547)が、人手不足の解消遅れによる出店計画の見直しを行なっています。

画像:串カツ田中ホールディングス「2023年11月期 第2四半期決算補足説明資料」より引用

当初66店舗出店予定が、32店舗へと約半分へ計画を変更しています。人手不足は、飲食業界のみならず、日本全体で叫ばれていますので、鳥貴族も例外ではないでしょう。

となると、思ったほどは出店できず売上、利益の伸びが当初の予想より鈍化する可能性も。さらに、人手不足による営業時間の縮小なども懸念されます。

これから来たる忘年会シーズンにむけて、まずは人材獲得がひとつ大きな課題となりそうです。

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

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