「ドラえもん」誕生秘話 伝説の予告トビラ、苦肉のキャッチコピー「すごーくおもしろいんだ!すごーくゆかいなんだ!」

Q太郎、ドラえもん、パーマン1号とのフォトセッションに臨む河井常吉氏(右端)と作家の辻村深月=都内

「パーマン」「キテレツ大百科」「エスパー魔美」など数多くの名作を残した漫画家、藤子・F・不二雄の生誕90周年企画発表会が4日、都内で行われた。「ドラえもん」初代担当編集者の河井常吉氏、直木賞作家で2019年公開の「映画ドラえもん のび太の月面探査記」では脚本を担当した辻村深月氏によるトークイベントでは、1969年に学習誌「小学四年生」での第1話発表時に繰り広げられた秘話が明かされた。

1969年に連載が開始され、1996年に藤子・F・不二雄が逝去してもなお、日本を代表するコンテンツであり続ける「ドラえもん」。河井氏は「先生は第一に奥様と3人の娘さんを愛していた。第二に『ドラえもん』や漫画を描くことが好きでした。そして第三に人をビックリさせること」と藤子Fさんの人柄を語った。食事の好物はハンバーグライスだったといい、打ち合わせ後の食事を「ステーキ、ボルシチ、ほかに聞いたことがないようなおいしそうなものがメニューにあったんですけど、先生はハンバーグライス。しょうがないからハンバーグライス2つとビール1本がいつものパターンでした」と回想した。

「人をビックリさせること」では印象深い出来事がある。第1話「未来の国からはるばると」のラストのコマ、ヘリトンボ(タケコプター)にズボンをはぎ取られたのび太が町を歩く場面では、電柱に「河井質店」の張り紙が描かれるサプライズがあった。

当時、河井氏は24歳で入社1年目。「ウメ星デンカ」を前担当から引き継ぎ、「ドラえもん」開始5カ月前に初めて対面した藤子Fさんは11歳年上だった。「私が小学校の頃の思い出を話すと、先生が喜んで聞いてくださいました」。そのエピソードは作品に反映されたという。

さらに驚かされたのが連載開始1カ月前の予告カット。タイトル、主人公の姿がなく、机の引き出しから〝何か〟が飛び出し、「出た!」という吹き出し、メガネをかけた男の子が驚く様子が描かれた。その時点で「ドラえもん」のアイデアが確定していなかった逸話は広く知られている。

トークショーで「河井質店」が描かれた「ドラえもん」第1話のラストカットを語る初代担当編集者の河井常吉氏=都内
企画発表会の会場で展示されたドラえもん新連載予告カットの原画=都内 ©藤子プロ・小学館

河井氏は「上司から、タイトルは何だ、これ(メガネ姿のキャラ)は男の子か、何も分からない原稿をよく受け取ってきたな、と本当に怒られました」と振り返った。予告カットの周囲のデザイン、あおり文は自らが作成。原画にはあおり文をテープで貼った形跡が今も残る。「今にして思えば、素晴らしい出来ですよね」と自画自賛した。

辻村氏は「この『すごーくおもしろいんだ!すごーくゆかいなんだ!』『でも、どんなお話かは、正月号のお楽しみ!』のネームを河井さんが切ったんですね」と楽しそうに原稿の感想を話し、「ここから始まったのが、もう54年ですもんね」と感慨深げに語った。

辻村氏は自身が手がけた大長編映画の脚本を振り返り「大長編は全てにおいて先生の『好き』が舞台から出ている。脚本を受けた時、最初に苦しんだのもそこで、ドラえもんたちが行ってない場所がないんです。宇宙にも、地底にも、恐竜とも大冒険をしてきた。漫画を描くためではなく、先生の人格を通した『好き』が作ってきた世界だと思う」とも語っていた。

今なお続くドラえもん人気。河井氏は「本当に嬉しい。連載が始まってもなかなか人気が出なかった。その年にアポロ11号が月面に着陸して、翌年に大阪万博とイベントがめじろ押しの時代。地味にスタートしたんですが、皆様にここまで大きく育てていただいて、先生も喜んでいると思います」と語っていた。

藤子・F・不二雄生誕90周年企画発表会は来春公開の「映画ドラえもん のび太の地球交響楽(ちきゅうシンフォニー)」が来年3月1日に公開され、ゲスト声優として女優・芳根京子が参加することなどが発表された。司会はテレビ朝日の萩野志保子アナ、声優のかかずゆみが務めた。

◆その他の発表事項 単行本「ドラえもんプラス」7巻の12・1発売、単行本「ドラミちゃん」の12・1発売、「T・Pぼん(タイムパトロールぼん)」全5巻の来年刊行開始、生誕90周年記念デザイン、ゲーム「ドラえもん のび太のゴーゴーライド!」制作、ゲーム「ドラえもん パズルdeリゾートメーカー」制作、ゲーム「ドラえもんのどら焼き屋さん物語」制作、NHKドラマ「藤子・F・不二雄 SF短編ドラマ」シーズン2来春放送決定、ネットフリックスアニメ「T・Pぼん(タイムパトロールぼん)」来年配信、「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」新企画展

Q太郎、ドラえもん、パーマン1号とのフォトセッションに臨む河井常吉氏(右端)と作家の辻村深月=都内
企画発表会の司会を務め、会場に展示されたドラえもんと一緒に収まる萩野志保子アナウンサー(右)、かかずゆみ=都内

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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