地ビールメーカーの出荷量、猛暑で好調続く 2023年1-8月の出荷量 前年同期比9.1%増

~ 第14回「地ビールメーカー動向」調査 ~

主な地ビールメーカー65社の2023年1-8月の総出荷量は1万118.0kℓで、前年同期を9.1%上回った。コロナ禍の2020年は、調査を開始以来、初めて1-8月の出荷量が前年同期を下回った。だが、感染対策の浸透などで2021年、2022年は出荷量が回復。2023年は5月に新型コロナが5類に移行し、街や観光地に客足が戻り、自社販売やスーパー、コンビニ、酒店向け販売も好調だった。

ビール大手4社が発表した2023年1-6月のビール系飲料(ビール、発泡酒、第三のビール)の販売数量は、2年ぶりに前年同期を1.0%下回った。新型コロナの5類移行で飲食店など業務用は3割増えたが、一方で市場規模が大きい家庭用は7%減少した。
7月以降の記録的な猛暑の影響などで、ビール大手4社のビール系飲料の合計販売数量は増加。8月は前年同月比5.0%増となった。猛暑や人流の回復で業務用が約3割伸び、家庭用も2022年9月以来11カ月ぶりにプラスとなり、順調に推移した。
一方、地ビールメーカーもスーパーやコンビニに加え、ビアパブの新規開拓など地道な営業で出荷量を伸ばした。地ビールを小規模で生産し、店舗で提供する「店舗併設ブルワリー」が各地で増えたほか、新規参入も相次ぎ、地ビールブームの底上げに一役買っている。

地ビールメーカー各社は香り、泡、炭酸、風味にこだわり、本来の美味しいビール作りで消費者の取り込みに努めているが、大手メーカーも地ビールに参入し、市場競争は激化している。地ビールの希少性を生かし、根強い地ビールブームを継続できるか、各社の戦略が注目される。

※本調査は、2023年9月1日~29日に全国の主な地ビールメーカー239社を対象にアンケート調査を実施、分析した。出荷量は2023年1-8月の出荷量が判明した65社(有効回答率27.1%)を有効回答とした。その他の項目は、回答が得られた67社(有効回答率28.0%)を有効回答とした。
※本調査は、2010年9月に開始し、今回で14回目。


2023年1-8月の主要65社の総出荷量 前年同期比9.1%増

出荷量が判明した全国の地ビールメーカー65社の2023年1-8月の総出荷量は、1万118.0kℓ(前年同期比9.1%増)だった。
2023年は1月の出荷量は934kℓ(前年同月比10.0%増)と好調にスタートした。2月は951kℓ(同31.7%増)、3月は1,313kℓ(同27.2%増)と急伸した。4月以降、伸び率はやや鈍化したが、6月の1,301kℓ(同3.1%減)を除き、月次の出荷量は増加が続いた。需要期である7月は猛暑が続き、1,656kℓ(同9.1%増)と2023年1-8月で月次最多の出荷量を記録した。8月は、近年は天候不順などで出荷量が落ち込むことが多かったが、1,414kℓ(同5.4%増)と1,000kℓの大台を維持した。

出荷量 約8割の50社が増加

2023年1月-8月の回答が得られた65社のうち、出荷量の「増加」は50社(構成比76.9%)、「減少」が12社(同18.4%)、「横ばい」が3社(同4.6%)だった。
出荷量が増加した要因(複数回答)は、「外出、遠出が増え需要が伸びた」33社、「飲食店、レストラン向けが堅調」30社、「スーパー、コンビニ、酒店向けが好調」24社と、コロナ禍後の人流回復と需要開拓が功を奏した。また、積極投資による生産設備の強化もプラス効果を生み、「生産設備の増強」も8社あった。
一方、減少の要因(複数回答)は、「スーパー、コンビニ、酒店向けが不調」「物価上昇による消費の抑制」「在宅需要の喪失」が各3社だった。

地区別出荷量 8地区で増加

65社の実質本社の地区別では、出荷量は北海道を除く8地区で増加した。最多は、関東の4,880kℓ(前年同期比6.4%増)だった。
増加率トップは、九州の340kℓ(同21.9%増)。出荷規模の大きいメーカーが出荷量を大幅に伸ばした。北海道は684kℓ(同4.6%減)で、出荷量が唯一、減少した。
地ビール、クラフトビールのブームは全国に広がり、大消費地の関東や中部、近畿圏のメーカーが出荷量を伸ばした。

自社販売への注力で、イベント・催事の売上を伸ばす

売上比率が一番大きな販売先(有効回答61社)は、最多が「自社販売(イベント販売含む)」で24社(構成比39.3%)だった。次いで、「スーパー、コンビニ、酒店」の20社(同32.8%)、「飲食店、レストラン」の12社(同19.7%)が続く。
2023年の商流の変化について(有効回答67社、複数回答)は、最多は「イベント、催事で売上が伸びた」が27社だった。次いで、「レジャー需要、観光地が伸びた」が21社とコロナ禍が落ち着き、イベント再開やレジャー需要回復が商流に影響したことを示している。
また、「スーパー、コンビニ、酒店向けの販路を拡大した」14社、「飲食店、レストラン向けの販路を拡大した」13社と続き、「スーパー、コンビニ、酒店向けの売上が伸びた」が12社、「インターネット通販の売上が伸びた」が10社だった。

今後の事業展開 地元中心に東京進出も視野、独自の味を追求

今後の事業展開(有効回答61社)では、「自社地元」の販売に力を入れるが43社(構成比70.5%)と7割を占めた。次いで、出荷量の増加が期待できる「東京都市部」への進出に意欲をみせるメーカーも13社(同21.3%)あった。
都市部を中心に根強いビアパブやブルーパブ(醸造所が併設されているビールパブ)の人気にあやかり、都市圏で知名度を上げたい地ビールメーカーは多く、自社単独でアンテナショップを出店するメーカーも増えている。だが、その一方で地元にこだわるメーカーも少なくない。
大手4大メーカーが地ビール、クラフトビールの製造販売に乗り出す動きも本格化している。中小の地ビールメーカーも差別化に意欲的で、「独自の味」に注力するとの回答が39社と約6割のメーカーが独自の味にこだわりをみせる。一方で、「大手を意識せず従来通りの営業を進める」と独自の道を進めるメーカーも36社あった。
「独自の味」「大手を意識せず従来通りの営業を続ける」など、大手メーカーの参入を前向きに受けとめ、独自路線を歩む地ビールメーカーも多い。これまでの成長を糧に、大手メーカーと市場の健全な共存共栄を目指す中小メーカーが増えている。

メーカーの60%強が値上げを実施・予定、原材料の高騰が不安材料

商品価格について、「この1年で値上げを行った」は36社(構成比53.7%)、「まだ実施していないが今年中に値上げを予定」が8社(同11.9%)と、6割超のメーカーが値上げを実施、もしくは値上げを予定している。一方、「値上げの予定はない」は17社(同25.3%)にとどまり、「値上げはしたいができない」が6社(同8.9%)だった。
今後の懸念(有効回答65社、複数回答)は、「原材料の高騰(燃料代含む)」が61社と9割以上のメーカーがコストアップを懸念している。以下、「物価上昇による更なる消費の減退」と「人件費の高騰(採用難)」が各28社、「為替(円安)」が25社など、これらを不安材料に挙げた。また、「クラフトビールが増えすぎることでの競合」が15社、「急な需要増への対応」が13社だった。

出荷量ランキング トップは12年連続でエチゴビール(新潟県)

2023年1-8月の出荷量メーカーランキングは、トップが地ビール醸造の全国第1号のエチゴビール(株)(新潟県)で、12年連続と圧倒的な強みをみせた。出荷量は2,355kℓ(前年同期比2.3%増)と2位以下を大きく引き離した。エチゴビールの阿部誠社長は、「国内では幅広いエリア、チャンネルで自社商品を楽しんでもらえる機会を増やしたい。海外戦略でも米国展示会などに積極的に参加し販路拡大を図る」と、国内外での販売強化に意欲的だ。
2位は「常陸野ネストビール」の(株)木内酒造1823(茨城県)が1,285kℓ(同14.6%増)、
3位は「伊勢角屋麦酒」の(有)二軒茶屋餅角屋本店(三重県)の801kℓ(同22.1%増)、4位は「べアレン・クラシック」の(株)ベアレン醸造所(岩手県)の580kℓ(同9.0%増)、5位は「網走ビール」の網走ビール(株)(北海道)で399kℓ(同17.2%減)と続く。
1-8月の出荷量が100kℓを超えた地ビールメーカーは23社で、前年より5社増えた。


出荷量ランキング第2位の(株)木内酒造1823は、ビール製造設備を増強し、年間生産量を拡大した。「常陸野ネストビール」の輸出に積極的で、これまでに40カ国に輸出し輸出シェアを高めている。また、出荷量第3位の(有)二軒茶屋餅角屋本店も、インドでのビール生産に乗り出すことを明らかにしている。自社ブランドビール「伊勢角屋麦酒ペールエール」を現地メーカーと組み、日本産のブランドビールとして今秋から製造販売する。地ビールの海外生産としては珍しいケースとなる。

出荷量ランキング上位メーカーは、国内だけでなく海外への輸出でも業容拡大に努めている。その一方で、宮城県の地ビールメーカーだったサンケーヘルス(株)(宮城県大郷町)は、コロナ禍に伴う観光客の減少で、地ビール販売量が落ち込み、2023年9月に仙台地裁から破産開始決定を受けた。また、アンケート調査では「地ビール製造・販売を休止した。免許を取り消す予定」との回答もあり、先行きが見通せず解散や廃業に追い込まれるメーカーも出始めている。

国税庁によると、2021年度の地ビール製造免許場数は412カ所、製造者数は380者と過去最多を更新した。1994年の酒税改正でビール製造免許に係る最低製造数量が2,000㎘から60㎘に引き下げられた。また、2017年の税制改正でビールの定義が拡大され、地ビール業界への新規参入が増え続けている。
ただ、今回のアンケートでは「乱立するメーカーの一部には製法がいい加減なものや品質が担保されていないものが見受けられ、中長期的な影響が心配」と、レピュテーションリスクの余波を懸念する声もある。また、今後のクラフトビール市場で、急激な拡大で品質が保たれない商品が市場に出回ることを懸念し、「安全で安心して飲める“美味しいビール”を提供してほしい」との意見もある。第一次地ビールブーム崩壊の再来を危ぶむ関係者も少なくない。
また、アンケートでは、「原材料の高騰(燃料代含む)」「物価上昇による更なる消費の減退」「人件費の高騰(採用難)」など、物価高が大きな懸念材料になっている。原材料高騰を商品価格に転嫁できないメーカーは、6社(構成比8.9%)あった。

10月1日、酒税改正でビールは350mlあたりの税額が70円から63.35円に下がり、地ビールメーカー各社には追い風が吹く。
この機会を生かすことができるか、地ビールメーカーの戦略と経営手腕が問われている。

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