本番間近、稽古に熱 秋祭りで「奉納芝居」地域の人が役者や裏方に、和歌山

杵荒神社の奉納芝居に向けて稽古に熱が入る関係者(4日、和歌山県田辺市中辺路町で)

 富田川筋にある和歌山県田辺市中辺路町栗栖川の杵荒神社と上富田町市ノ瀬の春日神社で秋祭りに向けて、江戸時代に始まったとされる奉納芝居の稽古が大詰めを迎えている。ともに地域住民らが役者や裏方となって運営しており、4年ぶりの「復活」となる杵荒神社は8日、春日神社は12、13日が本番。関係者は「伝統を絶やさない」「多くの方に楽しんでほしい」と意気込んでいる。

■杵荒神社 8日披露

 杵荒神社では9月中旬からほぼ毎晩、関係者が境内で稽古に励んでいる。

 今年は時代剣劇「雪の渡り鳥」を披露する。出演する役者12人以外にも、音響や大道具、着付けといった30人ほどのスタッフが裏方として芝居を支える。

 楽器を扱う「チャッパの太郎吉」という役を務める橋戸健太朗さん(37)=田辺市南新万=は中辺路町内で仕事をしており、なかへち清姫太鼓での経験を買われて今回初参加。「芝居の経験はないので、迷惑だけはかけないよう全力で頑張りたい」と話す。

 祭典奉納芝居実行委員会の宮井章実行委員長(56)によると、近年は2日間で3演目の芝居を奉納してきたが、今年はコロナ禍によるブランクも考慮して1演目に集中。「伝統を継承するため、今年はとにかく復活させることが大事。分かりやすい時代剣劇なのでぜひ楽しんでほしい」と呼びかけている。

 8日は午後3時半から大人による寿式三番叟(さんばそう)と餅まき、7時から中辺路小学校児童による寿式三番叟と奉納芝居などを予定している。

■春日神社は12、13日

 春日神社の芝居は、祭典恒例芝居実行委員会(池口公二実行委員長)が受け継いでいる。コロナ禍で中止が続き、昨年は本宮の日に3年ぶりに実施。従来通り宵宮と本宮の2日間上演するのは4年ぶり。

 今年は役者約20人が出演する。舞台を支える化粧や衣装、大道具、照明、音響などの裏方にも10人ほどが参加している。

 上演するのは、生まれた子どもに長い名前をつける落語の「寿限無」と、歌舞伎の演目「与話情浮名横櫛(切られ与三郎)」。9月上旬から毎晩2、3時間ほど稽古をしている。

 「寿限無」には今回、上富田町市ノ瀬や田辺市の小中学生4人が出演。主役を務める田辺市明洋中学校2年の小幡衣那さん(13)は「お客さんに見て良かったと思ってもらえる、笑いを届けられる舞台にしたい」と意気込む。

 また、今回初めて参加し、名前について助言する役を演じる市ノ瀬小学校3年の大木谷明音さん(8)も「面白い演目なので、みんなが笑ってくれる舞台にしたい」と笑顔を見せる。

 歌舞伎の世話物「与話情浮名横櫛」は、池口実行委員長(67)が演出を手がけている。「時代の変化はあっても、地域の良さや伝統は次の世代に残していく必要がある」と語る。

 12日は「寿限無」と弁慶鬼若太鼓の演奏、13日は「与話情浮名横櫛」を上演。小幡さんによる「三番叟」も両日、奉納する。開演は午後7時。12日が雨天の場合は13日のみに変更する。

春日神社の奉納芝居本番に向けて、稽古に励む出演者(和歌山県上富田町市ノ瀬で)

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