小中学生の自殺“過去最多” 近年増加「市販薬のオーバードーズ」による死が統計に含まれない事情

令和4年度の児童生徒の自殺は411人に上った(msv / PIXTA)

小中学生の自殺者は過去最多。高校生を含めても過去2番目――。

文部科学省は4日、「問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(問題行動調査)を公表した。昨年度に自殺した児童生徒数は411人で、昨年度比で43人増えた。直近10年間は増加傾向にあり、過去2番目に多い数となった。

「自殺した児童生徒が置かれた状況」では依然として「不明」が多く、6割を超えた。「いじめ」による自殺は5件、今回の調査から新設された「体罰・不適切な指導」による自殺は2件だった。

411人という人数は、調査開始以来最多だった20年の415人よりは4人少ないが、前年度よりも43人多い。内訳は小学生が19人、中学生が123人、高校生が269人だった。同調査は、調査範囲が年度により拡大してきたため単純比較はできないものの、小中学生の自殺者は過去最多。高校生の自殺者は過去2番目の多さだった。

しかしこれらの数値には、近年10代の間で目立っている、市販薬の過量服薬(オーバードーズ)による死亡は「自殺」と分類されず計上されていない可能性がある。

「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患実態調査」によると、10代の薬物使用における「市販薬」の割合は14年には0%だったが、16年には25%、18年には41.2%、20年には56.4% 、22年には65.2%と増加している。その結果として、市販薬のオーバードーズによる死亡が後を絶たない。

たとえば、新宿・歌舞伎町の「シネシティ広場」に集まる、いわゆるトー横キッズの中でも市販薬のオーバードーズが流行。今年8月にも、10代の女性が、市販薬をオーバードーズした後に歌舞伎町のホテルの上層階から転落、死亡した。周辺の取材によると遺書はなく、直前に「死にたい」などの自殺願望についての会話もなかったという。このケースでは警察がどう判断しているかはわからないが、「遺書がなく、積極的に自殺しようとした形跡がない場合」自殺と判断されないことがあるのだ。

自殺はどう統計に計上されているか

「自殺」はどう定義されているのか。元自殺予防総合対策センター長で、現在は川崎市総合リハビリテーション推進センター所長・竹島正氏は、こう解説する。

「自殺の定義は、その行為をすることによって死に至ることが、本人にあらかじめわかっているかどうか。つまり、故意があるかどうかだ。先のケースを前提にすると、『自殺』と判断するのは困難。『事故』という可能性も否定しにくいためだ」

令和5年度版の「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」では、自殺は「死亡者自身の故意の行為に基づく死亡で、手段、方法は問わない」とされている。「故意」というのは、自身の行動の結果によって死亡することがわかっていることを言い、故意があると判断できない場合には「交通事故」、「転倒・転落」、「窒息」や「中毒」などに分類される。

「故意による死亡を確認できる情報が十分にそろわない場合、警察は『自殺』と計上しないだろう。警察は事件性の有無は捜査し、死因究明に関わるが、事件性がなく自殺と扱うだけの十分な情報がない場合は自殺と扱わないと考えられる。近年、その傾向が高くなってきたように感じている」(竹島氏)

竹島氏の実感を裏付けるようなデータもある。厚生労働省の「人口動態統計」によると、「故意の自傷及び自殺」は徐々に減少を続けていた(20~21年は微増)が、「診断名不明確及び原因不明の死亡」は上昇傾向になっており、この2項目の数字はほぼ同数になっている。

「致死性が低い手段であっても、本人が死のうと思った場合、“自殺未遂”として扱われる一方、致死性が高くても、本人がつらい気持ちから離れるために行った場合は“故意の自傷”に扱われている。しかし、実際には自殺(未遂)か故意の自傷かはそんなにきれいに分けられないはずで、区別する意味も乏しいのではないか」(竹島氏)

なお、児童生徒の自殺の統計は、今回発表された文科省の「問題行動調査」のほか、警察庁の「自殺統計」がある。文科省は年度での発表だが、警察は年間でまとめる。そのまとめによれば、昨年の児童生徒の自殺者は514人だった。「問題行動調査」と同様の年度に補正すると485人となり、「問題行動調査」よりも74人多くなる。この差があるのは、「問題行動調査」をとりまとめている文科省が、統計に計上する自殺を「学校が児童生徒の自殺を知り得るケースというのは、ご家族から連絡があった場合」としているためだ。

自殺が起きた「背景調査」運用状況の調査結果は…?

「問題行動調査」には「自殺した児童生徒が置かれていた状況」という項目があるが、6割近くが「不明」となっている。しかし本来、児童生徒が自殺した場合、「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」に基づいて「基本調査」や「詳細調査」が行われることになっている。

今回の問題行動調査により、その指針の“運用状況”が初めて明らかになった。

それによると、基本調査は全件で行われていたが、詳細調査について遺族に説明を行ったのは244件で、全体の59.4%。そこからさらに詳細調査に移行したのは19件と全体の4.6%にすぎない。これでは「不明」が多いのは当然だ。

ただ、今回の問題行動調査から「自殺した児童生徒が置かれていた状況」の中に「体罰・不適切な指導」という項目が新たに加わった。これには不適切な指導をきっかけに亡くなった生徒の遺族らでつくる「安全な生徒指導を考える会」の働きかけが影響している。「考える会」の要望によって、22年末に改訂された生徒指導の基本書「生徒指導提要」にも、「教職員による不適切な指導等が不登校や自殺のきっかけになる」との文言が入った。

「考える会」の共同発起人の一人、はるかさんは「『不適切な指導』の概念は『生徒指導提要』で打ち出されたばかりで、まだ十分に普及していません。また、学校側もなかなか認めにくい問題だと思います。そんな中、今回の統計で2件ですが、不適切な指導による自殺が可視化されました。教師が適切な指導をしていれば、少なくともこの2人の命は救えた可能性があります」と話した。

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