角田の人間的な成長も評価。将来は「世界一を目指すのに必要なピースになってほしい」/渡辺康治HRC社長インタビュー

 HRC(ホンダ・レーシング)の渡辺康治社長が、F1第17戦日本GPを訪れた。この週末はHRCがチームパートナーを務めるレッドブルがコンストラクターズ選手権で2連覇を達成し、また角田裕毅のアルファタウリ残留が発表されるなど、日本のファンにとって明るい話題が多かった。

 渡辺社長は現時点での角田について、「3年間で人間としても大きく成長した」と評価しているという。またF1を目指す岩佐歩夢の現状、そして正式にF1に復帰する2026年に向けたパワーユニット(PU)の開発状況について語った。

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──F1日本GPの決勝日の9月24日は、ホンダにとって会社創立75周年の記念日。決勝当日のスターティンググリッドには、本田技研工業の三部敏宏社長、青山真二副社長の姿もありました。ホンダにとって、F1活動はどんな意味を持ちますか?

渡辺康治HRC社長(以下、渡辺社長):本田宗一郎という創業者がレースを愛し、何事にもチャレンジしていった。それが我が社のDNAとなり、ホンダという存在を示すアイデンティティとなった。それを我々もしっかりと受け継いできたつもりです。我々は何者かということを考えるとき、やっぱりバックボーンはモータースポーツだし、挑戦だと。その象徴がF1です。

左から渡辺康治HRC社長、F1ステファノ・ドメニカリCEO、FIAモハメド・ビン・スライエム会長、本田技研工業の三部敏宏社長、青山真二副社長
FIAのモハメド・ビン・スライエム会長と握手を交わす本田技研工業の三部敏宏社長(写真中央はF1のステファノ・ドメニカリCEO)

──ホンダはF1活動を通して、ドライバー育成も行っています。そのひとりである角田裕毅(アルファタウリ)選手が、日本GP期間中に2024年もアルファタウリからレースに参戦するという発表がありました。今シーズンの角田選手の活躍をどう評価していますか?

渡辺社長:元々、速さはあったドライバーですが、3年間で人間としても大きく成長したように思います。今シーズンはポイントを獲得できる状況があったにも関わらず、さまざまな理由で実現できなかったのですが、そんな状況でもあきらめずにチャレンジし続けていますね。

 トストさんとは、まず3年間はじっくりと見て、3年目の夏ごろに一緒に評価して(2024年についての)議論をしましょうということになっていました。基本的にはアルファタウリには欠かせないドライバーになっているという共通の認識でした。

 発表までに時間がかかったのは、細かいところを煮詰めていたためです。2025年までのホンダのアルファタウリへのサポートのあり方について、セットでいろいろと議論していました。オペレーションをどうするかとかですね。

 また9月にHPD(ホンダ・パフォーマンス・デベロップメント=ホンダの北米におけるレース活動をサポートするための会社)を2024年からホンダ・レーシング・コーポレーション USA(HRC US)へと社名変更する件で私が渡米していたことも、角田選手の発表が少し遅れた理由でした。

角田裕毅(アルファタウリ)とMAEZAWA RACINGのチームオーナー兼総監督の前澤友作

──今年の日本GPにはFIA F2で活躍している岩佐歩夢も来場して、2024年度からホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)フォーミュラクラスに導入される新型教習用フォーミュラカー『HRS-F24』をHRSでプリンシパルを務める佐藤琢磨とともにデモランを行っていました。岩佐選手の今後については?

渡辺社長:正直、この先のことは決まっていません。我々とレッドブル側との間でお互い合意していることは、『彼には将来的なポテンシャルがあるので、レッドブル・ジュニア、ホンダ育成という位置付けは継続していきましょう』ということです。そのなかで、どういう可能性があるのか。

 あとFIA F2のチャンピオンシップの最終的なポジションがどうなるのか。それによって、スーパーライセンスがどうなるのか。F1のレギュラードライバーになるのは簡単なことではありません。ただ、FIA F2でチャンピオンを獲れなかったから、もういらないです、さようならということではなく、FIA F2を戦い終えた後の彼の状況を見て、一番いいオプションをとろうと思っています。

日本GPでレッドブルのピットガレージでチームの仕事の進め方を学習する岩佐歩夢

──ホンダは2026年から正式にF1に参戦し、アストンマーティンにワークス体制でパワーユニットを供給します。角田選手の将来に関して、どのように考えていますか?

渡辺社長:我々は2026年以降はアストンマーティンと世界一を目指すという目標を掲げているので、そのために必要なピースは手放したくはない。それまでに角田が育ち、我々にとって必要なピースになってほしいという気持ちはあります。ただ、同時に個人としては日本人がさらなる高みを目指すために最適な場所でレースしてほしいという気持ちもある。だから、裕毅には個人的には『どこでもいいから勝てるところに行っていい』と言っています。我々がその場所を提供できるようなチームになっていれば来てほしいし、ダメなホンダ・チームなら来ることはないと考えています。

──2026年のパワーユニットの開発状況はどうなっていますか?

渡辺社長:概ね予定通りです。まずは別々にテストしているエンジンとERSを合体させます。タイミングはまだなんとも言えないけど、想定よりも若干少し遅れるかもしれないですが、来年にはパワーユニットとギヤボックスをくっつけてベンチでテストする予定です。全体のスケジュールはアストンマーティンとも整合をとっています。

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