国内初!6本のアクティブETFが新規上場。組入銘柄から投資のヒントを探る

2023年9月7日、東京証券取引所に6本の「アクティブETF(上場投資信託)」が上場しました。いきなりそう言われても、何のことかわからないという方もいるはず。これらアクティブETFの上場は、もしかしたら株式投資をするうえで、大きなヒントになるかもしれません。このコラムでは、アクティブETFとはいったい何なのか、これらが上場することでどんなことが期待できるのか、あるいはどういったヒントになり得るのかなどについて解説していきましょう。


国内初のアクティブETFが上場

まずは、「アクティブETFって何なの?」から解説します。ETFとは、「証券取引所に上場している投資信託」のこと。メディアの記事では、「ETF(上場投資信託)」と紹介されます。投資信託は注文してから価格が決定して約定するまでにタイムラグがありますが、ETFは株式の個別銘柄と同じように、リアルタイムの価格で売買することが可能です。また、投資信託を保有すると発生する手数料「信託報酬」は、ETFではかかりません。

“アクティブ”ETFと聞くと、「積極的に売買する」というような印象を持たれるかもしれません。しかし、ここでいう“アクティブ”は、指数の値動きを目標にした「パッシブ型(インデックス型)」投資信託投信との対比で使われます。パッシブ型が何らかの株価指数と同じ値動きになるよう設計、運用されているのに対し、アクティブ型は特に目標となる株価指数を設定せず、さまざまな運用テーマに基づいて運用が行われるのです。また、アクティブ型の中には、株を保有している企業に対して、自分たちが掲げる運用テーマにもとづいた“モノ言い(議決権の行使)”をする投信もあります。

実は、アクティブ型のETFが日本の株式相場に上場するのは、今回が初めて。上場した6本は、「政策保有解消推進ETF」や「投資家経営者一心同体ETF」などユニークな名称が多いのが特徴です。これらのETFは、2024年から始まる新NISA(少額投資非課税制度)に向け、新たにマーケットに入ってくる資金の受け皿としての役割を期待して、新たに設定されたと考えることもできるでしょう。

「PBR1倍回復」が一大相場テーマに!?

さて、この度上場した6本は以下の通りです。

(1)PBR1倍割れ解消推進ETF(証券コード:2080)

(2)政策保有解消推進ETF(同:2081)

(3)投資家経営者一心同体ETF(2082)

(4)日本成長株アクティブ上場投信(2083)

(5)日本高配当株アクティブ上場投信(2084)

(6)高配当日本株アクティブ上場投信(2085)

(1)から(3)はシンプレクス・アセット・マネジメント、(4)と(5)は野村アセットマネジメント、(6)は三菱UFJ国際投信が、それぞれ運用会社です。注目したいのは、(1)の「PBR1倍割れ解消推進ETF」でしょう。注目する理由は、日本の株式相場で、いま「低PBRの水準訂正」が大きなテーマになっているからです。

PBRとは「株価純資産倍率」のこと。各銘柄の株価を1株当たり純資産(BPS)で割って算出される、株式投資において基本中の基本ともいえる株価指標の1つです。日本の株式市場には、PBR=1倍を割り込んでいる銘柄が少なからずあり、その状況を改善する必要があると言われ続けてきました。

東証は今年3月末、PBRが1倍を割り込んでいる企業に対して、株価の水準を引き上げ、PBR1倍割れの状況を解消するように要請を行いました。PBRは「株価÷BPS」なので、株価が上がればPBRも上昇します。この“異例”とも言える東証の要請を受け、株式市場では「今後、PBRが1倍を割り込んでいる銘柄の中から、株価を上げようと努力する企業が出てくる」ことに期待が高まっています。実際、この東証の要請後にPBR1倍を割り込んでいた銘柄が買われ、PBR1倍を回復する銘柄が続出しました。

その代表と言えるのがトヨタ自動車です。世界的な自動車メーカーであるトヨタのPBRは、2022年の終わりごろから1倍を割り込んで推移していました。ところが、東証の要請から数か月、2023年の6月には1倍を回復。このトヨタ自動車のPBR1倍回復は、株式市場でもちょっとしたニュースになりました。もちろん、トヨタ自動車の株価上昇には、株式相場自体が大きく上昇したことが大きく影響していますが、低PBRであることを材料に買われた側面があったことは否定できません。

日経平均株価を形成する日経225社全体では約1.3倍(9月29日現在、以下同じ)と、PBRの平均値は1倍を超えています。しかし、内訳をみると、225社のうち1倍を割り込んでいるのは88銘柄。中には日本ハムや東急不動産、神戸製鋼所など、誰もが知るような企業も含まれます。また、三菱東京UFJ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループのメガバンク3行は、いまだにPBR1倍を割り込んで推移しているのは、日本の長期デフレを象徴する事象ではないでしょうか。

投信の組み入れ銘柄に投資のヒントが眠る

シンプレクスが運用する「PBR1倍割れ解消推進ETF」では、投資家から集めた資金を、PBRが1倍を割り込んでいる企業の中から、株価の水準訂正が期待できる銘柄を選んで投資します。ETFの純資産額は約151億円。投資信託としての規模は小さく、「このETFが買うから低PBRが解消される」というわけではありません。

ただ、この銘柄選定のプロが各企業のデータを精査した結果、購入、保有する銘柄を決めたわけなので、「PBRの水準訂正」という大きな相場テーマに沿って、どんな銘柄を買えばいいのかという疑問を解決するヒントが眠っていることは確かです。このETFの組み入れ銘柄は、シンプレクスのサイトから確認することができるので、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

ちなみに、日本の株式市場全体で見ると、PBRが1倍を割り込んでいるのは1700銘柄超。上場銘柄の約4割が1倍割れとなっており、まだまだ東証の要請に応じることができていないのが現状です。PBRは相場全体の動向に大きく影響を受けるため、株式相場が大きく下がれば、1700銘柄からさらに数が増えることは間違いないでしょう。

東証の「PBRの改善」という要請に法的拘束力はなく、要請を受けた企業が直ちに行動を起こさなくても罰則を受けることはありません。ただ、東証は今後も同様の要請を続けると思われるため、企業側にも中長期的な経営努力が求められることになるでしょう。つまり、「低PBR株の水準訂正」は、今後も注目の相場テーマになる可能性が高いということです。

流行テーマが投信の新規ラインナップに反映

ここでは、「PBR1倍の解消」というテーマを取り上げましたが、ETFをはじめ、投資信託はその時々の人気テーマをベースに設定される傾向があるようです。それは、投信の販売会社が「顧客の利益」より「よく売れそうなもの」に力を入れるという、日本の金融業界の悪癖が影響していると言われています。その結果、ETFを含む投資信託の数が無制限に増えすぎてしまったと弊害が指摘されていますが、裏を返すと、「新規に設定された投信を見れば、その時々に株式市場で流行っているテーマがわかる」ということ。その投信が何を買っているのかをチェックすることで、どのような銘柄がそのテーマに沿っているのかを窺い知ることができるかもしれません。

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