ロシアはウクライナ侵攻でクラスター(集束)弾を多用している。ウクライナも実戦投入し、双方で死傷者が出ていると報告されている。親爆弾から多数の子爆弾をまき散らすクラスター弾は、使用国にとっては広範囲を一気に制圧できる軍事的な利点があるが、民間人の犠牲が多い非人道兵器だ。2006年にイスラエルが大量投下したレバノン南部には数十万個が不発のまま残っているとされ、17年たった今も爆発が市民を脅かし続けている。(共同通信=日出間翔平)
▽土地を「汚染」、難しい完全除去
2020年の初夏。レバノン南部ナバティエ郊外の農家マハムード・ムーサさん(63)の小麦畑は収穫期を迎え、黄金色に染まっていた。ムーサさんは、そこで大きめの乾電池のようなものを見つけた。「またか」。拾い上げると途端に爆発し、左手の人さし指から小指までが吹き飛んだ。傷痕が閉じた後も気温が下がるとうずき、痛み止めの薬が手放せない。右目の視力はほぼ失った。
イスラエルは2006年、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘で400万個ものクラスター弾を使用したとされる。ナバティエ一帯の住民にとって、不発弾の発見は珍しくない。ムーサさんも、これまでに15個は見つけた。最初はその都度当局に連絡していた。だが次第におっくうになり、自分で爆発させて「処理」するようになった。周囲の農家もそうしていた。経験則で、震動を与えなければ大丈夫だと思い込んでいた。「慣れと油断があった」と振り返る。
不発弾は雨が降れば重みで地面にのめり込む。目視できなくなり、一度使われたら完全な除去は難しい。ナバティエ郊外の住民によると、国連や軍、ヒズボラ、非政府組織(NGO)による除去作業は期間の経過とともに縮小され、近年はほぼなくなった。住民は「土地の汚染は終わらない」と諦観している。
▽不発弾「気を付けるしかない」
指を4本失ったムーサさんは、今後も不発弾が残る土地で農業を続ける意向だという。「農地を捨てれば生活できない。離れるわけにいかない」からだ。もし再び不発弾を発見したらどうするのかと尋ねると「気を付けるだけ。できることはそれしかない」と話した。
首都ベイルートにあるヒズボラ系のリハビリ施設は、これまでに子どもを含め120人以上のクラスター弾による負傷者を受け入れ、治療に当たってきた。今年2月にも鉄くずを拾い集めていた男性(21)が不発弾の爆発で大けがを負ったという。
匿名を条件に取材に応じたレバノン軍関係者は、イスラエルがクラスター弾を撃ち込んだ土地の約9割では除去が完了したとする一方、不発弾は約50万個残っていると推定されると語った。イスラエルが使ったクラスター弾が展示されているヒズボラ運営の博物館の男性ガイドは「敵は投下した場所や数を明らかにしていない」と説明した。
▽後遺症に苦しむ負傷者、大国に不信感
クラスター弾の規制や被害者救済に取り組む国際的なNGO「クラスター弾連合」(CMC)は今年9月、2022年のクラスター弾による死傷者が8カ国で1172人に上ったと明らかにした。2010年にクラスター弾禁止条約(オスロ条約)が発効後の年間被害で過去最悪になった。うち死者312人、負傷者604人は、ウクライナに集中した。
オスロ条約には日本を含む110カ国以上が加盟しているが、米国やロシア、ウクライナは加盟していない。
米国はロシアの侵攻後、ウクライナへのクラスター弾供与を決定した。国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は「効果的な使い方」がされていると述べた。バイデン政権はロシアが使用しているものと比べ不発率が極めて低いと強調し、批判回避に努めている。
「確率の問題ではない。政治的な目的達成のために民間人の犠牲を黙認していいのか」。レバノンで起きた不発弾の爆発で左脚の太ももから下を失ったマハムード・アブドルナビさん(34)は米国への不信感を口にした。ロシアによる使用も非難した。
義足生活のアブドルナビさんは、ロシアとウクライナの市民の将来を心配している。「敵を弱体化させたいという意図は分かる」。だが不発弾は戦闘が終わってからも「静かに闇に潜み、無差別殺人の機会をいつまでもうかがい続ける」と指摘した。