【陸自ヘリ墜落】自衛隊の装備品だけでなく予備品の大幅増額を|奈良林直 今年4月、沖縄県の宮古島周辺で発生した陸上自衛隊のヘリコプターUH60JAの墜落事故。原因究明が急がれるが、筆者は、「あること」に気がついた。もし、れに気が付かず、改善されなければ、また新たな事故が……。

佐賀での事故との共通点

今年4月、沖縄県の宮古島周辺で陸上自衛隊のヘリコプターUH60JAが墜落した事故では、搭乗していた坂本雄一第八師団長ら、尊い隊員10人全員の命を失いました。

原因究明には時間がかかるでしょうが、私は本当の原因が究明されず、第二、第三の墜落事故が起こってしまうのではないか、と心配しています。

なぜ、私はそんな不安を抱いているのか。実は、2018年に自衛隊で同様のヘリ墜落事故があり、その事故原因を見誤っている可能性があるからです。

4月の事故発生当時、「近くを通った中国艦船の攻撃によるものではないか」など、いろいろ憶測が飛び交いました。なかには、「低空飛行してホエールウォッチングでもしていたのでは」(自衛隊OB)などの荒唐無稽なコメントもありました。ネットのヤフーに掲載された事故のニュースを読んでいると、読者のコメントに目が止まりました。

「今回の墜落事故は、2018年に起きた事故と似ている」

2018年の事故とは、佐賀県神埼市千代田町の民家に陸上自衛隊目達原駐屯地所属のAH64D戦闘ヘリコプターが墜落し、家のなかにいた女児が怪我、隊員二人が殉職した事故です。

原発事故の原因究明を長年行い、安全対策を策定し、日本保全学会の会長も歴任した専門家として、今回のヘリ墜落の類似性から、佐賀で起きた自衛隊ヘリ墜落事故について、改めて情報を集めてみました。

すると、今回の墜落事故と共通点が多くあったのです。

どちらもローターに異常が

まず、メインローター(主回転翼)周りの折損です。佐賀県の事故は、ハブボルト(ローターヘッドのボルト)が何らかの原因で破断し、ローターブレード(回転翼)の一枚が飛んでしまったことが原因でした。四枚あるブレードが一枚でも外れたらバランスが崩れ、ブレードの角度調整が不能となり、どんなに上手な操縦士でも全く制御できなくなります。角度調節できなくなったブレードは機体を叩いて異常音が響き、瞬時に墜落しました。
一方、宮古島の事故でも、メインローターの折損が疑われます。サルベージ船によって引き揚げられた機体の残骸の写真(読売新聞撮影)を観察すると、メインローターが4枚とも引きちぎられているのです(写真1)。

写真1 引き上げられた機体の残骸

急降下している点も似ています。
佐賀の事故では偶然、現場近くの自動車教習所の車のドライブレコーダーにヘリが墜落する動画が記録されており、軌跡が分かるように1枚のカラー写真に集約された時事通信の新聞記事が掲載されていました(写真2)。それを見ると、水平飛行から突然急降下して、墜落しています。

写真2 佐賀で墜落した陸自ヘリ

今回の事故は、映像こそ残っていませんが、墜落する直前の様子が回収されたフライトレーダーに記録されており、公開されました。

〈同機のエンジンが異常な音を立て、機体のトラブルを知らせる警報音も鳴る状況が記録されていた。エンジンの出力が下がる中で、機長と副操縦士が高度を保とうと声を出し合う様子も残されていた。機体はその直後に海面に墜落したとみられ、「あっ」という声を最後に音声は途絶えた」〉(5月24日『読売新聞』)

おそらく、佐賀と同じように、一瞬で墜落したのでしょう。ヘリに積んであった救命ボートが収納されたままの状態で発見されていますから、乗員たちは救命ボートを膨らます余裕さえなかったことがわかります。

エンジン出力低下や異常音が聞こえるのも、メインローターのハブボルトの破断と同様の事象が発生したと仮定すると、辻褄が合います。

まずブレードの角度異常によるガスタービンエンジンの出力低下があり、折れたブレードがエンジンカバーを叩き、損傷してエンジンに異常音を発生、残りのブレードが機体を叩いた。その証拠に、折れたブレードと、真っ二つに割れた燃料タンクも発見されています。

メインローターの折損、異音、急降下……佐賀の事故と今回の事故は、非常に共通点が多いのです。

常態化していた「共食い」

佐賀の事故原因について、陸自は「主回転翼を回転軸に固定する部品のボルトが破断した」とし、ボルトが破断した原因については、「さび止め剤の劣化による摩耗」と「元からボルトに亀裂があった」という二通りの可能性を示しただけで、最終報告書は出されておらず、確たる原因を特定できずに終わっています。

私は、陸自の示したボルト破断の原因について、3つめの可能性を示唆したい。高サイクル疲労、いわゆる「金属疲労」の可能性です。

高サイクル疲労とは、荷重の回数が百万回ほどに達すると、金属の強度の半分以下の小さい荷重でも亀裂が進展して、最後は瞬時破断する現象のこと。「金属疲労」による事故の例は、数多くあります。

2003年、横浜で大型トラックの走行中、前タイヤのハブ折損、トラックから外れて歩いていた母子2人に直撃、死傷した事故がありました。海外でも1998年に、ドイツの超高速列車「インターシティ・エクスプレス」の車輪の外輪が金属疲労で破損。脱線転覆し、死者101名、負傷者200名に達する大事故が起こっています。

他にも、東京電力福島第二原子力発電所三号機の大型ポンプ溶接部の損傷やJAL機の圧力隔壁破断など、金属疲労によるトラブルは枚挙に遑がありません。

なぜ私が、自衛隊が発表した「さび止め剤の劣化による摩耗」 「元からボルトに亀裂」ではなく、「金属疲労」を疑っているのか。

それは、「共食い」整備の問題があるからです。「共食い」とは、航空機を整備する際に部品の在庫が不足し、整備中などで使用していない他の機体から部品を外して転用すること。

この「共食い」、昨年の産経新聞の報道によると、10年以上前から常態化しているといいます。事態を重く見た防衛省が昨年4月以降に調査したところ、2012年度に約2000件だった「共食い」の件数は年々増え、2018年度には約5600件に増加。2021年度中には少し改善して約3400件になりましたが、それでも多い。

金属疲労が除外された理由

これらの調査は空自が対象ですが、陸自の航空機整備でも同じような「共食い」が行われていたのではないか。月刊『正論』2023年7月号、岡部俊哉(元陸上幕僚長)、福江広明(元空将)、村川豊(元海上幕僚長)三氏による鼎談「使える戦略にしないと国家を守れない」のなかで、岡部氏はこう語っています。

「部隊では『共食い』をやっている。動かなくなった装備品から部品を外して、動くものを作っていく」

村川氏もこんな事例を示しました。

「海賊対処行動のような実任務につく護衛艦の艦橋の窓は防弾ガラスが取り付けられるが、任務を終えて帰国すると外して次に行く艦艇に取り付けられる」

陸自、海自でトップだった二氏がこう言っているのですから、空自以外でも「共食い」が行われていると見て間違いないでしょう。

先述したように、金属疲労による事故事例は多くあり、想定される原因の一つに入ってくるはずですが、佐賀の事故では除外されています。

「ボルトのさび止め剤の劣化による摩耗」 「元からボルトに亀裂」と仮定しているところを見ると、少なくとも新しいボルトでなかったことは間違いない。すぐに金属疲労が頭に浮かびそうなものなのに、なぜ除外されたのか。

金属疲労がスルーされた理由は2つ考えられます。1つは、検証した人たちが金属疲労についての知見がなかった。もう一つ、あくまで邪推ですが、金属疲労とわかっていながらスルーした。

もし「共食い」したボルトの金属疲労が事故の原因だった場合、ボルトの使用時間の管理ができていないので、空自のときのように整備士たちを含め、重大な責任問題になる。それを恐れてあえて除外した、と考えるのは穿ち過ぎでしょうか。ちなみに、佐賀の事故について、陸自は「処分対象者はいない」と結論付けています。

除外された原因が前者にせよ後者にせよ、仮に今回の宮古島の事故も、同じように「共食い」ボルトの使い回しの金属疲労が事故原因だった場合、佐賀の事故のように、またスルーされてしまう可能性が極めて高い。

自衛隊には、「共食い」ボルトによる金属疲労も視野に入れて、しっかり原因究明をしてもらいたい。

このままでは新たな事故が

米軍は、こういった原因究明について非常にしっかりしています。

たとえば、米海兵隊は昨年発生したオスプレイの墜落事故(五名死亡)について、今年七月に事故の報告書を発表しました。

オスプレイはプロペラが2つあり、片方のプロペラエンジンが故障すると、バランスがとれなくなって墜落してしまいます。そのため、片方のエンジンが止まったときのために、まだ生きているエンジンを止まったプロペラに動力を伝えるクラッチがついている。

そのクラッチが離れて再結合する際、衝撃が起きる現象「ハード・クラッチ・エンゲージメント」が発生し、うまくプロペラに動力を伝えられなかったことが事故原因と公表しました。対策についても徹底的に調べ上げ、クラッチを定期的に交換することで、事故発生率は99%下がるといいます。

海兵隊の報告書は誤魔化さず、正直にファクトベースで書いてあり、米軍の底力を感じました。

宮古島の事故が、仮に「共食い」が原因だったとしても、私は自衛隊を責める気になれません。元をたどれば、国防費増額を許さなかった朝日新聞に代表される左翼メディアや日本共産党など、立民の議員の反自衛隊の人々にこそ責任がある。

彼らが露骨な自衛隊差別運動を展開することで、未だに六割以上の地方自治体が募集協力を拒否しているといいます。自衛隊を批判しているくせに、災害が起こったときには便利屋のごとくこき使う。一方で、国防費増額の議論をすれば「戦争ができる国になる!」と大騒ぎし、増額を認めない。あまりにも身勝手過ぎます。

そういった状況のなかで、自衛隊は予算を増やすことができずに少ないなかでやりくりするしかなく、部品が足りないから、「共食い」でしのぐしかなかったのです。

今年、ようやく国防費がGDP二%になりましたが、正面装備だけでなく、裏方である予備品や点検整備も充実させなくてはいけません。

通常整備は部品を交換するだけで済みますが、「共食い」では取り外す作業も加わり、2倍の作業が必要となるため、整備員の負担が増加。部隊によっては、可動率の低下で訓練時間を極力減らすなどの影響も出ているといいます。一刻も早く、「共食い」問題を解消しなくてはいけません。

宮古島の事故の原因究明は、まだされていないにもかかわらず、陸自はすでに同型ヘリの運用を再開しています。

原因が有耶無耶なまま飛ばしてしまえば、「しっかり飛んでいるからいいではないか」と、原因究明が疎かになってしまいやしないかと、私は心配しています。

国家基本問題研究所の企画委員会でも私の発言に対し、「これは日本だけの問題ではありません。同型ヘリは世界で6000機が運用されていますから、原因究明がおざなりになれば、世界中で墜落事故が起こる可能性もある」と重要性を元自衛隊幹部の方からご指摘いただき、国家基本問題研究所の「今週の直言」(6月6日付)に掲載され、英訳されて海外にも配信されました。

海外の専門家から、私の記事の「金属疲労説」に賛同する意見が届いています。私の本稿での推論を、ぜひ再発防止に役立ててほしいと思います。

奈良林直 (ならばやし・ただし)

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