【子育て】発達障害の子どもを「平均的な子」に合わせる時代は終わりつつある。新しい向き合い方とは

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発達障害の子どもの生活の中で、子どもとどう向き合えばいいか、悩んでいませんか。

障害児通所支援事業などを展開するデコボコベース株式会社で最高品質責任者CQOの北川庄治さんは、自身が発達障害(ADHD)特性があることから「当事者の感覚・視点」を持ちながら支援の現場に立ち、多くの発達障害児の療育に携わってきました。

今回は、北川さんに、多くの親が抱えがちな気持ちに対してヒントをいただきました。人それぞれ、悩みも環境も異なりますが、参考になることはたくさんあると思われます。ぜひ確認してみてください。

分からないところもあって当然

よくある親の悩み:「親なんだから、我が子のことを分からなければいけない」とプレッシャーを感じてしまう。けれど正直、我が子のことが分からないこともある。

北川庄治さん(以下、北川)「そもそも『発達障害は障害とは言えないのではないか?』という考え方が今、広まってきています。左利きを障害だと考える人がいないように、発達障害も、少数派ではあるけれども『平均的な子ども』と違いがあるだけなのではないか、ととらえられるようになってきています。

親がこれまでに、どちらかというと『平均的な子ども』として育ち、人生を送ってきた場合、『平均的ではない我が子』と向き合っていくのはむずかしくて当然です。

『親なんだから、我が子のことを分からなければいけない』という考え方を少しゆるめてみましょう。分かってあげられるところがあればもちろんハッピーですが、分からないところもあって当然です」

「平均的な子ども」に合わせる時代は終わりつつある

よくある親の悩み:周りの子どもと我が子を比べて、落ち込んでしまう。

北川さん「『平均的な子どもと比べないように』と思っても、そんなに簡単にはできません。幼稚園や学校というものに子どもが行っている限り、周りには何十人もの平均に近い子どもたちがいるのです。その子たちを見るな、というほうが無理でしょう。

一昔前までは、左利きの子どもは、右利きに矯正をされていました。今では、左利きであっても、そのまま左手で字を書き、ご飯を食べ、はさみや楽器も左利き用のものを、少ないけれども手に入れることができるようになってきています。

『左利きでもそのままで生きていく方法や道具』がそろっていない時代であれば、右利きの子どもに合わせることが生きていくための方法だったかもしれませんが、時代とともに生き方は変わっていきます。

発達障害を持つ子どもにも、同じような時代の変化が何十年か遅れてやってきています。

発達障害がある子どもを、周りの『平均的な子ども』に合わせることを一生懸命考える、という時代が終わりつつあります。周りに合わせるのではなく『自分を分かり、自分に合わせる』子どもを育てていくことが、これからの時代には必要になってくるでしょう」

「子どもの未来を信じる気持ち」を持つために

よくある親の悩み:いつもの我が子が幼稚園など集団や社会に出ると違う顔を見せて戸惑う。

北川さん「当事者でない人が、当事者の視点に立つことはとてもむずかしいことです。

例えば、発達障害の一つであるADHDで衝動性が強く、ちょっとしたことで周りのお友達に暴言を言ってしまう子がいたとしましょう。その子自身は『友達に暴言を言ってはいけない』ということは分かっているのです。

そんな子に親が『なんで暴言を言っちゃうの!』と言っても、本人も『なんでだろう…言っちゃいけないって分かってるのに…』となってしまいます。衝動性のせいでコントロールできずやってしまっていることなのですから。

発達障害のある子ども自身は、まだ幼く、自分と周りの違いを自分の言葉で説明する、なんてことはできなくて、それに本人が苦しんでいるのであれば、ますます説明する余裕なんてありません。

でもそんなとき、親として信じたいことは『本当はこの子は優しい子なのに』ということではないでしょうか。心の中ではそう信じる気持ちがあっても、実際に我が子が暴言を言ってしまえば、信じる気持ちがゆらいでしまうこともあります。

そんなときには、第三者から『特性があってコントロールができなかっただけで、お子さんは、本当は優しい子ですよ』と説明してもらうことで、親にとっても心の余裕と未来を信じる気持ちが生まれます。

療育というのはその『信じる気持ち』の先にあるものです。まずは親が第三者に頼ることで、少しでも多くの余裕を持てる環境を作るのをおすすめします」

支援者に通訳になってもらおう

第三者に上手に頼る方法について、北川さんは次のように話します。

北川さん「頼るべき第三者とは、少数派の子どもたちの、見えない心の中を読み取って、『こうなんですよ』と教えてくれる』人です。そうした支援者とつながって、『少数派のことが分かる人』を上手に通訳に使おうと考えられるようになると、色んなことが楽になってきますし、そうすることで少数派であることがもっとステキに見えてきます。

今まで『なんでこうなるの?』と理解できず不安になっていたことが『そんな風に考えていたのね!』と理解できるようになるかもしれません。

『発達障害のある子ども=感じ方や考え方が多数派と違う子ども』を理解しながら育てるというのはむずかしいことです。その子を周りの子どもたちと比べない、ということもむずかしいことです。今はそういう時代ではなくなってきている、と言われても何をどうしたらいいか…と思うのも当然です。

まだ多くはありませんが、それを助けてくれる支援者はいます。そんな人たちと一緒に、子どもたちと『向き合う』のではなく『並んで同じ方向を見られる』ように、少しずつ前に向かっていきましょう」

発達障害の子どもを育てる親の悩みはまだまだたくさんあり、人それぞれ違います。しかし、大きなものの考え方についてはヒントになります。ぜひ参考にして、親子ともに元気に成長していきたいですね。

【取材協力】デコボコベース

1979年生まれ、東京大学文学部卒。東京大学大学院教育学研究科(教育学修士)。デコボコベース株式会社 最高品質責任者CQO、一般社団法人ファボラボ 代表理事。公認心理師/ NESTA認定キッズコーディネーショントレーナー 高等学校教諭専修免許(地理歴史科)/中学校教諭専修免許(社会科)所持。

(ハピママ*/ 今村 梓)

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