【記者コラム】中国の声援、戦闘機のごう音並み? アップルウオッチのアプリが警告

 【杭州】「聴覚が損傷するおそれがあります」。杭州アジア大会でボクシングの試合を撮影中、観客の大歓声に腕時計型端末「アップルウオッチ」の音量測定アプリが反応し、警告画面が表示された。中国選手の試合中は一段と会場が盛り上がり、100デシベルを超える瞬間も。アプリなのであくまで参考値だが、在日米軍基地近くで耳にする戦闘機のごう音に匹敵する音量だ。(共同通信・小向英孝)

 冒頭の警告に目を丸くした10月4日は、国慶節(中国の建国記念日)に合わせた大型連休中に当たる。中国国営通信・新華社のカメラマンは「国慶節の間は旅行に行く人が多いから、観客は減るんじゃないかな」と話していたが、約4千人を収容する会場はほぼ満員。関心の高さをうかがわせた。

 中国選手が登場すると、観客の誰かが「加油(頑張れ)!」と発し、それに続く形でコールが始まる。まるで事前に練習してきたかのような一体感だ。

 「右!右!」と選手に指示するような声も上がり、強烈なパンチを浴びせると雰囲気は最高潮に。アップルウオッチのアプリ上の数値は80、90と徐々に上昇し、ついには100デシベルを超えてしまった。耳をつんざくような声援に、耳の奥がまひしたようだった。

 カメラマンの私は普段、福岡支社を拠点に沖縄の米軍基地について取材することが多い。100デシベルという音量は、米軍嘉手納基地が立地する街で聞こえる、戦闘機の飛行音に相当する。

 2022年12月、基地のすぐ隣にある「道の駅かでな」に設置された騒音測定器は、米空軍のF15戦闘機などが飛び立つと100デシベル以上を表示していた。隣にいる人と会話がままならないほどの音で、今大会の大合唱の際も確かに似たような状況だ。

 日本選手に金メダルが懸かる試合などは、ノートパソコンを経由せずカメラから直接写真を本社に送信している。写真の内容を伝える音声も録音して一緒に送るが、周囲の大合唱にかき消されないよう、声を張り上げている。そのせいで喉がガラガラになってしまった。

 中国以外の選手にとっては、かなりアウェーな環境なのではないか、と感じる。一方で、ウズベキスタンなど他国の選手に声援や手拍子を送る一幕もあった。

 どの国が勝っても、自然と拍手が湧く。観客の女性は「私たちはスポーツが大好き。(この大会で国同士の)友情が深まることを望んでいます」と話していた。

 次回大会は3年後の2026年に愛知県と名古屋市で共催となる。杭州大会ほどの動員を期待するのは難しいかもしれない。だが、日本の観客がどのように選手を鼓舞し、声援を送るか、とても注目している。

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