「走ってみたい」 夢をかなえた小学生 物心ついたときから義足の少年が “初めて走った” 日

「走ることができるなら、走ってみたい」―。そんな夢がかないました。広島県福山市に住む小学生の男の子が、初めて競技用の義足をつけました。

「走れるかなってあんなふうに走れたらいいけど…」。小学6年生の 佐藤楓馬 さんです。東広島市で開かれる、誰もがパラスポーツを体験することができる「インクルーシブスポーツフェスタ」に参加しました。

楓馬さんは、先天性脛骨欠損症という、右足の「スネ」の骨がない病気で生まれました。足を残すために2度の手術をしましたが、術後の経過はおもわしくなく、2歳のときに右ヒザから先を切断しました。

佐藤楓馬さん
「(家では結構外してる?)はい、ずっと付けていると熱くて、汗疹とかになってしまうので外してます」

楓馬さんにとっては物心つく前の出来事で、当時のことは、ほとんど覚えていないそうです。

楓馬さん
「そこまで嫌だなとかじゃなくて病気なんだなって…受け止めました」
母・真由美さん
「勝手に親が切断を決めてしまったので申し訳ないと思う。本人が性格がすごくポジティブなので、落ち込んだってのがなくて息子にはありがとうと思う」

楓馬さんは、福山市にある伊勢丘小学校に通っています。普段は、日常生活のための義足を使っています。

楓馬さん
「困ること…特にないかな体育のマット運動とかは義足が邪魔になるので外してます」

機敏に動く楓馬さんですが、日常用の義足は本来、走ったり、ジャンプしたりする激しい動きには対応していません。

楓馬さん
「走れるのなら走ってみたいです」

「“世界は広い”と知ってほしい」

日常生活のための義足は、国の補助によって1人1本まで作ることができます。医師の診察のもと、義肢装具士によって一人一人の状態に合わせて作られるため、時間や手間がかかります。子どもの場合は成長にあわせて何度も作り替える必要があります。

父親の伸成さんは、大人用と比べて子ども用の義足に関する情報が少ないことにも不安を感じているそうです。

伸成さん
「九州の佐賀までいって車中泊しながら朝、診察してもらって(義足を)合わせて夜中帰ってきて次の日仕事と学校で…。義足だけの金額というよりも、周りの色々かかるお金も結構多くかかっているのは事実ですね。切断部分の状態と場所もあるので、じゃあ自分の子に、どこがあてはまるのか、難しかったのが現実です。今も、作る度に手探り状態で…」

そんなある日、義足ユーザーが「走る」ことができる体験会が広島であると聞いて、すぐに申し込みました。

伸成さん
「本人に相談した上で本人が興味あるって言ったらそこは積極的に協力する」
真由美さん
「障がいがあるから世界がせまいのじゃなくて、障がいがあってても世界が広いってのを見てほしくて」

「競技用の義足で走る」体験会を開いたのは、ギソクの図書館です。「ひとりでも多くの人に走る喜びが感じられる環境を作りたい」と、クラウドファンディングによる支援をうけて、2017年にスタートしたNPO法人です。

ギソクノ図書館・義肢装具士沖野敦郎さん
「歩くの大変なのに走ることができるの?ってなったときに、走ることが出来るかもしれない、可能性があります。では、道具を貸してよってなったときに、買ってください20万ではなくて、安い値段で借りれますよってのがギソクの図書館」

今回の参加者は5人。それぞれ、自分に合ったサイズの競技用義足を図書館の本のように貸りて試すことができます。まず膝継手(ひざつぎて)とブレードと呼ばれる板バネでできている競技用の義足を、義肢装具士がそれぞれの人に合わせて調整します。

「これが今日の楓馬くんの相棒」。沖野さんから受け取った競技用の義足ではじめて歩いてみることにしました。

「走りたい。走ることって楽しい!」

最初は緊張気味におそるおそる歩いていた楓馬さんでしたが、ほんの数分で小走りができるようにまでになっていました。板バネの感覚を楽しむ余裕も出てきたようです。

楓馬さん
「感覚的には跳ねるかな(怖さは?)ちょっとこけたらいやだなってのはある」

「ギソクの図書館」は、義足を貸し出すだけではありません。走り方指導もついています。指導あたるのは世界パラ陸上女子走り幅跳びの銅メダリスト中西麻耶選手です。

中西選手
「楽しかったって思って、その余韻が長く続いて、走るってことが生活のどこかに残ってくれたらいいな」

参加者はゲーム感覚で走り方を学んでいきます。

楓馬さん
「運動だけだったら飽きそうだけど、毎回毎回ゲームなので、楽しい(ちょっとずつ機敏になってる?)そうなのかな」

母・真由美さん
「楽しいんだね…。連れてきて良かった。色んなことができそう明るい未来が見えます私的には」

体験会の後に走りたい場合どうすればいいのでしょうか。1つ数十万円もする競技用義足の購入には、国からの補助は認められていません。ギソクの図書館は、参加者に、競技用義足の処方箋を作り、安くレンタルできる仕組みも作っています。

楓馬さんは、レンタルするために必要な「自分自身で義足を交換する」する技術も学びました。

義足を日常用に戻すると「うわー変な感じ。競技用の義足がいい」と即答していました。

父・伸成さん
「(本人が)やりたいようであれば、むしろ身近なのかな。レンタル方式は」

今回、ギソクの図書館の広島初開催を企画した谷口公友さんは、義足のユーザーだけでなく周囲も「走る」ことへの理解を深めることが必要だと話しましす。

谷口公文さん
「笑顔がこぼれていたので実施できて良かった。県内の義肢装具士にも興味もっていただいて走りたい人が現れたら、義肢装具士も交えてギソクの図書館の第2弾第3弾を開催できれば」

楓馬さん
「この義足付けていたら走りたいって思った。出来ることが増えてうれしい走るってこと…楽しい!」

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