有田哲平や棚橋弘至が「俺の猪木」を語る!『アントニオ猪木をさがして』は伝説のレスラーを“決めつけない”ドキュメンタリー

写真:原 悦生 ©2023「アントニオ猪木をさがして」製作委員会

アントニオ猪木という巨大で奥深い存在

昨年10月1日に亡くなったアントニオ猪木は、あまりにも巨大で奥深い存在だった。

誰もが知るトップ・プロレスラー。憧れのヒーロー。そういう側面はもちろんある。少年時代にブラジルに移住、コーヒー農園で重労働に勤しみ、現地で日本プロレス界の父・力道山にスカウトされたことも有名だ。

ボクシング世界ヘビー級王者のモハメド・アリと異種格闘技戦を闘い、引退後には格闘技イベント<PRIDE>に関わり、バラエティ番組にも多数出演。時代によって、あるいは見る人によってアントニオ猪木の姿は違ってくる。かつては「猪木とは何か?」という本も発売されたほど。

このたび公開されるドキュメンタリー『アントニオ猪木をさがして』は、猪木という巨大で奥深い存在にふさわしいものだと言える。

猪木を知る人々が語る「俺の猪木」

ブラジル取材を敢行し、少年時代の猪木を知る人々にインタビュー。その歴史を辿っていくのが作品の縦軸だ。しかし、伝記のように本人の歴史だけを追っても捉えきれないのが猪木でもある。

愛弟子でありボディガードのような存在でもあった藤原喜明。レスラー生活を通して猪木に憧れ、追い続けた藤波辰爾。“猪木後”の時代を作った棚橋弘至とオカダ・カズチカが語る猪木論も興味深いものだ(とりわけ棚橋のパートは、本作のハイライトと言っていい)。

さらに有田哲平が、神田伯山が猪木を語る。伯山は猪木vsマサ斎藤、伝説の一戦が行われた巌流島で講談を披露。ある猪木ファンの人生を描いたドラマパートもある。

そうしてたくさんの人間が、さまざまな角度から「俺の猪木」を語り、表現していく。そういう形でしか、アントニオ猪木を「さがす」ことはできないのだろう。

いや、猪木の巨大さ奥深さばかりを強調すると、とっつきにくくて小難しいものだと思われるかもしれない。だが、そうではないのだ。

迫力、色気、茶目っ気…猪木を“決めつけない”ドキュメンタリー

今の若い人たち、今のプロレスファンにも猪木に触れてほしい。猪木は巨大で奥深くて、だからどんな接し方をしてもいい。その意味で、本作は“入門編”にもなっている。

映画の中で俳優・安田顕が対談を望んだのが、猪木を撮り続けた名カメラマンの原悦生氏。そこで語られる猪木のエピソードはもちろん、写真の数々がとにかく雄弁だ。その迫力、色気、さらには茶目っ気。

もちろん過去の映像も豊富に使われている。「こんな試合を続けていたら、10年もつ選手生命が1年で終わってしまうかもしれない」という名言を生んだストロング小林戦。キャリア晩年に信じられない“受け”を見せたビッグバン・ベイダー戦。

あるいは控室での「やる前に負けること考えるバカがいるかよ! 出てけ!」に、北海道での「猪木問答」(お前は何に怒ってる)などなど。

「プロレス、昔よく見てたな」という人も「あんまり知らないんだよな」という人も。どういうスタンスであれ、見たら何か感じるのが『アントニオ猪木をさがして』という映画だ。アントニオ猪木はこういうものだと決めつけなかったところに、本作の美点がある。

文:橋本宗洋

『アントニオ猪木をさがして』は2023年10月6日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

© ディスカバリー・ジャパン株式会社