自分の義眼をデザインする女性 心無い声に負けず自分ウケを貫く

「片目失明してます。見えない目は半分以下のサイズに萎縮して白く濁ってるので、今は自分でデザインした義眼をつけてます。」
そうX(旧Twitter)に画像とともに投稿しているのはリブ(@Right_rib)さん。リブさんは右目を失明しており、仕事をしている傍ら自分用の義眼をデザイン、製作している。

続けて投稿には「顔に障害がある特性上「キモい」「怖い」って言葉を飽きるほど言われてきたけど、 通常義眼をつけてても、デザイン義眼をつけてても、義眼をつけてなくても、どの私も、その汚い言葉が出る口や指より美しいよ。」と綴っている。

リブさんが製作した鳥の眼モチーフの義眼(@Right_ribさんより提供)

リブさんが身に着けている義眼には、星をイメージしたという美しい義眼や、光る義眼、さらに「EYE」と書かれているユニークなものなどがある。

リブさんについて話を聞いた。

義眼をデザインした背景には心無い言葉があった

リブさんが義眼をデザインしようと思ったきっかけは2つあった。

リブさんは子どもの頃、あまり思い出したくない環境、出来事により外傷を負ったことで右目を失明した。

そんな環境から抜け出した後も、リブさんの姿を見てすれ違いざまに「気持ち悪い」と見た目をさげすむ言葉を投げかけられたり、容姿を理由にアルバイトの面接を断られたこともあったという。

そういった出来事を受け、「ならいっそのこと宝石のような美しい目を手に入れよう」と思ったことが義眼をデザインしようと思ったきっかけの一つだった。

『デザイン義眼を新たに身に着けたとき、イメージイラストを描いてます。イラストの人物は自分自身ではなくて、私が空想した世界のキャラクター。デザイン義眼を身につけると、その空想の世界の片隅にいれるような気がしてワクワクします。』(@Right_ribさんより提供)

二つ目は昔から好きだった映画や漫画、小説が関係している。
リブさんが影響を受けた映画の登場人物や著名人は3人。

「ラスト・アクション・ヒーロー」に出ているベネディクトという義眼の悪役。毎回義眼のデザインが変わる彼は“永遠の推し”だという。

また、「ダークナイト」のジョーカーからも気づきを与えられた。頬に傷を負っているジョーカーは、「俺の傷の理由を聞きたいか?」と毎回話し出す。しかし、その理由はシーンごとに毎回内容が変わる。

リブさんは失明した理由について周りから聞かれると、トラウマを思い起こすストレスにより気を失って倒れてしまう「血管迷走神経反射性失神」を引き起こし、上手く話せないことが多かった。症状が一番酷かった時期は毎日のように症状が出てしまい、時には救急車を呼ばれることも。中学校の同級生たちには「話しかけると失神する」という印象から距離を置かれていた。
しかし、「私もジョーカーのように嘘をつけばいいんだ」と思い立って実行してからは劇的に改善し、高校に入学してからは症状が一度も出ずに学校生活を送れるようになったという。

「高校生活では彼に憧れて傷の理由や生育環境に関する話題は毎回話す内容を変えていました。そのため、あまり仲良くない人たちから裏で“虚言癖”と言われていたことには気づいていましたが、表立っていじめられることは一切なく、今でも交友関係が続いている理解ある友人たちに恵まれたので楽しい学校生活を送ることができました。」

そして、現在SNSでデザイン義眼について発信しているリブさんに影響を与えたのがマイケル・ジャクソンだった。

本来の皮膚の色が抜け落ち、次第に全身がまだらになる「尋常性白斑」という病気を抱えていたと公表されたマイケル・ジャクソン。最終的には白く抜け落ちた肌の方が殆どになってしまったため、全身に多量の褐色ファンデーションを塗るより白いファンデーションを少量塗ることを選んだという。

晩年謂れのないバッシングを受け、罵詈雑言を浴びせられても、最期までずっと表舞台に出ていた彼の姿を見て、リブさんも「近づきたい」と思ったという。

『このピンクラメの義眼、TikTokにあげたら「充血してるみたい」「肉みたい」って言われまくったな 暖色系で派手にキラキラしない/発光しないものはウケが悪いと学んだ義眼  でも他人ウケより自分ウケじゃい』(@Right_ribさんより提供)

「義眼をつけてもつけなくても、揶揄する人が多い。なら自分がつけたい義眼をつけて自分に自信を持とうと思いました」と語るリブさんのSNSにも「他人ウケより自分ウケじゃい」と力強い言葉が見受けられた。

デザインした義眼がSNSでバズった!?

宝石のような美しい義眼を手に入れるべく、数年かけていくつかの製作所に声をかけオリジナルデザインの義眼を作れるところを探した。しかし、何件も巡っても見つからず、瞳を大きくさせるデザインでさえ断られてしまうことも。「ならば自分で製作しよう」と義眼技師としての技術獲得を模索するも難航し、諦めかけていたところにやっとデザイン義眼をつくってくれるという製作所が見つかった。そして、ともに試行錯誤しながら試作を作ってもらいSNSに掲載したところ、瞬く間に拡散された。

星をイメージしたデザイン義眼(@Right_ribさんより提供)

そして、本格的に自らの手で義眼を製作したのは2023年からだった。

前職で働いていた会社では、見た目のことを揶揄する人が多かった。我慢していたものの、「自分のアイデンティティをけなされるところにいるのは辞めよう」と決心し2021年に退職。退職後はNHKのオーディションに応募し、番組「バリバラ」に出演したり、Creative Hack Awardに義眼アーティストとして応募しグランプリを獲った。

リブさんの義眼たち(@Right_ribさんより提供)

また、2021年より会社を辞めたフリーの時間を使って諦めかけていた義眼についての勉強を再開した。2年かけて義眼技師としての技術を習得し、2023年より一からデザインし、医療用の樹脂を使って自分用の義眼を作り始めた。

リブさんの義眼は、様々な作品などからインスピレーションを受けデザインしている。今まで自分でデザインして製作したものは8つほど。製作所で作ってもらった義眼を合わせるとデザイン義眼は11個ほどになる。

選択肢を増やす活動がしたい

現在、自分の分を作っているのみで、義眼の販売はしていない。今後の活動についてリブさんに話を聞いた。

「今までの発信活動で義眼ユーザーの方から『リブさんのような義眼を作りたい』と問い合わせが来ることがあります。以前は最初にデザイン義眼を作成頂いた製作所を紹介していましたが、現在は健康上の理由で長期休業されている状況です。その製作所さんにデザイン義眼を作成してもらえたおかげでとても救われた過去があるので、代わりに私が義眼製作所を今すぐにでも開業できれば良いのですが金銭的余裕・時間的余裕がなく、他の製作所を提示できない現状や業界に歯がゆさを感じています。そんな現状でまず出来ることとして、デザイン義眼の存在を周知するための発信活動・様々な表現方法を模索していきたいと思っています。それと同時に、数年単位の計画になってしまいますが、さらに技術を磨き、お金を貯めて環境を整えていつか自身の製作所を作りたいです」とリブさんは語る。

リブさんによると、デザイン義眼は日本よりもアメリカなど海外諸国のほうが確立されているという。デザイン義眼を発信している最も有名な方はアメリカ人で、「製作所を自分で開いたところで、自分一人だけですべての需要を賄いきれないと思います。発信することで、義眼のデザインの自由度の認知がないので、業界が少しでも変わればいいなと思っています」と話してくれた。

さらに、「義眼に限らず、体の一部を失った人たちにとって見た目の自由は限られていると思います。健常者といわれる方々はそれぞれなりたい姿があってファッションを楽しむけど、義眼など補装具を使用する方々はその枠の中で頑張りなさいと言われている気がして、少しでも選択肢を広がられるようになればいいなと思います」と語る。

義眼アーティストとして発信活動を続けて、いつかは自分の製作所を作りたいと語るリブさんは取材中、明るく話してくれた。今後、リブさんの活動、発信は多くの方を勇気づけるだろう。

ほ・とせなNEWS編集部

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