住宅浸水、女性「助けて」 茨城県内大雨 北茨城の鈴木さん、釣り用ボートで救出 夜間、消防団と協力

釣り用ボートで高齢女性を救出した鈴木悌さん(左)=北茨城市関南町関本下

台風13号に伴う大雨の影響で住宅530棟以上が浸水した茨城県北茨城市。水位が上がり始めた9月8日夜の住宅地で、1人暮らしの80代女性が自宅に取り残された。救出に向かったのは釣り用ボート。所有者の鈴木悌さん(42)は暗闇の中、消防団員とともに浸水した道路を進み女性を救出した。

氾濫した里根川に近い北茨城市関南町関本下は8日午後8時半ごろ、水位が膝上に達し、田んぼや道路は湖のように姿を変えた。

鈴木さんは当時、知人と連絡を取りながら、冠水した自宅周辺をパトロールしていたが、「どんどん水が来た」。線状降水帯の通過に伴う断続的な雨。上昇する水位は明らかに危険を知らせていた。

近隣住民に車の移動や避難を呼びかけて回り、一息ついた頃、母親から聞かされていた女性の存在が脳裏をよぎった。「(女性は)足が悪くて逃げようがない。自宅にいるはずだ」。タイミングよく訪れた消防団員2人に女性の存在を伝え、「行くならボートしかない」。愛用のボートを運び出し、雨が再び激しさを増す中、救援に向かった。

趣味の釣りで福島県北塩原村の桧原湖へ毎週出かけており、操船技術は熟練の域。しかし、外は暗闇で、水の流れができていた。

意を決して500メートルほど先の女性宅に向かったのは午後9時半ごろ。懐中電灯で激流を照らしながら進んだが、エンジン全開で航行してもボートは斜めに流された。

女性宅に到着すると、平屋建て住宅の玄関は、半分以上が浸水していた。

「助けて」。奥から届く叫び声に、鈴木さんはボートを消防団員に任せて屋内へ。女性はびしょぬれになりながら、辛うじて浸水を免れた台所の流し台に座っていた。

「もう大丈夫」。そう女性に声をかけて抱きかかえ、鈴木さんにしがみつく女性をボートへ。安全な場所まで送り届けると、消防団員らと周辺のパトロールを続けた。

当時の状況について、鈴木さんは「女性を助けられる自信はあったが、1人ではできなかった。消防団員がいてくれて助かった」と語る。

鈴木さんは「地域に高齢者が多く、どこに誰が住んでいるか、常に認識しておく必要があると思った」と振り返る。それぞれが災害に対する心構えを持つ必要も痛感し、「助けられなくなってからでは遅い。早めの避難の大切さを実感した」と話した。

水位が下がりパトロールから引き揚げてきたボート=北茨城市関南町関本下(鈴木悌さん提供)

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