十和田湖ヒメマス不漁/4~9月 漁獲量 昨年の3割/飲食店 書き入れ時に打撃

十和田湖増殖漁協のふ化場でオスとメスに選別される人工ふ化用のヒメマス親魚=2日
ヒメマス不漁のため一部メニューの休止を周知する、飲食店の立て看板=3日、十和田湖畔休屋

 青森県と秋田県にまたがる十和田湖の名産ヒメマスが今年、不漁に見舞われている。昨年8月の豪雨の影響で餌のプランクトンが減ったためか、4~9月の漁獲量は昨年同時期の3割程度の2.2トンに落ち込んだ。今夏の猛暑で水温が上がったためか遡上(そじょう)も遅れ、人工ふ化や放流に取り組む十和田湖増殖漁協(十和田市)は親魚の確保に苦慮。市は毎年行っているヒメマス料理関連のキャンペーン中止を余儀なくされ、湖畔の飲食店は「これから紅葉シーズンで書き入れ時なのに」とため息をついている。

 例年なら塩焼きやムニエル、お造りなど工夫を凝らしたヒメマス料理で観光客をもてなしている十和田湖畔休屋の飲食店や宿泊施設。今年は「本日分は完売しました」などといった張り紙や立て看板が目立つ。

 「1日に入荷できるヒメマスが1、2匹と、昨年の10分の1程度しかない。十和田湖のブランドであるヒメマスが湖畔で食べられないなんて、とんでもないこと」と、ある食堂の社長(79)は表情を曇らせる。ヒメマス料理は朝、開店した途端に売り切れてしまう。別の店の女性店員(40)も「自然現象なのでどうしようもないが、ヒメマスを楽しみに来てくれたリピーターのお客さんから『残念』という声を聞く。でも、他の店を勧めようにも、どの店にもないし…」と、ため息をついた。

 ホテル十和田荘では、ヒメマスの塩焼きなどがメインの宿泊プラン「ひめプラン」を今春時点で中止。岩城知巳支配人によると「これまでは不漁の年でも、プランの集客を抑えるなどして対応できていたが、完全にストップせざるを得なかったのは初めて」という。

 湖のヒメマスは十和田湖増殖漁協が「十和田湖ひめます」として地域団体商標登録しており、青森県と秋田県の関係団体によるブランド推進協議会や市などが周知を図っている。しかし、漁協によるとヒメマス漁は昨年8月までは順調だったが、大雨で湖に土砂が流入した時期を境に不漁に見舞われ、今年4~9月はさらに悪化した。漁協などでは土砂の流入の影響でヒメマスの餌となるプランクトンが激減したことや、今夏の猛暑で湖上層の水温が上昇したことが原因の可能性があるとみている。

 ヒメマス不漁を受け、ブランド推進協は、本年度の「食べようキャンペーン」を中止した。同協議会が認証した店舗でヒメマス料理を食べて応募すると、抽選で十和田市や秋田県小坂町の名産品が当たるイベントだが、同協議会事務局の同市とわだ産品販売戦略課の浦田陽子課長は「現状の水揚げでは食べたい人に提供できない」と話す。

 紅葉シーズンに向けて、ヒメマス料理の代わりにガーリックポークやきりたんぽ鍋、バラ焼きなど地元産品のメニューに力を入れるホテル十和田荘の岩城支配人は「来年以降、漁獲が回復し、再びヒメマス料理を安定して提供できるようになることを祈る」と話す。

 漁協の小林義美組合長は「店舗に十分に出荷できる漁獲がなく、迷惑をかけているが、人工ふ化や放流の努力を今後も重ねて、元の『捕れる湖』に戻していきたい」と力を込めた。

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