【5つの歩法をもつ馬】「アイスランディック・ホース」の魅力

突然ですが問題です。馬の歩法はいくつあるでしょうか?

「常歩・速歩・駈歩・襲歩の4つ」と答えた方。正解です。

この4種が基本歩法ですが、実はこれ以外の歩法で走る馬がいるのをご存知でしょうか。
今回はそのうちの一品種、アイスランディック・ホースについてご紹介します。

アイスランディック・ホースの歴史

アイスランディック・ホースは「火山の国」アイスランドの在来馬。
アイスランドがどのような国か、馬たちがどのような歴史をたどってきたか、みてみましょう。

アイスランドはこんな国

北ヨーロッパの北大西洋に浮かぶ島国で、首都はレイキャビク。
北海道と四国を合わせた面積の国土に、およそ34万人が住んでいます。

多くの火山や温泉があり、火山性の土壌はやせていて、漁業が盛ん。

高緯度に位置し、国土の一部は北極圏にかかっていますが、暖流が流れているため2月の平均気温は氷点下3度ほどで、寒さはそれほど厳しくありません。

アイスランディック・ホースの歴史

西暦874年頃

アイスランドにノルウェー人が初めて上陸。その後、同じノルウェー人やスコットランド人、アイルランド人が馬などの家畜を連れて移り住み、入植は60年ほどで完了したと考えられています。

10世紀

世界最古の議会、アイスランドの「アルシング」が国内への馬の輸入を禁止。

これ以降、アイスランディック・ホースは他国の馬と1,000年以上交配されず、
純粋な血統を保っています。

この頃には馬どうしを戦わせる闘馬が行われ、勝った馬を種牡馬として選抜することもありました。

1783~1785年

ラキ火山の噴火により飢饉が起こり、人口の5分の1が死亡。
アイスランディック・ホースも4分の3が死に、生き残ったのは6,000頭でしたが、その後100年ほどかけて元の頭数まで回復することができました。

1879年

5つの歩法の質を基準とした育種を開始。

1882年

アイスランディック・ホースの血統と海外からの病気の侵入を防ぐため、改めて馬の輸入を禁止。国外に出た馬は、国内に戻ることはできません。

1993年

海外からの病気の侵入を防ぐため、馬だけでなく、使用済みの馬具の持ち込みも禁止されました。アイスランディック・ホースがこの国でいかに大切にされているかが伝わります。

5つの歩法

3つの基本歩法

常歩、速歩、駈歩・襲歩の3つです。

アイスランディック・ホースの血統登録団体は駈歩と襲歩を区別せず、1つの歩法としてカウントします。

独特な歩法その1:トルト(tölt)

アイスランディック・ホースの独特な歩法で、「リズムを変えずに、足踏みからスピーディな動きへと素早く加速できる」走り方。上の写真はアイスランドの交通標識、トルト中のアイスランディック・ホースを描いたものと思われます。

一見、側対歩※のように見えるのですが、右後肢、右前肢、左後肢、左前肢の順に着地する4節※※の動きです。トルトは難しく、2節に近い動きになってしまったり、駈歩が混ざってしまったりする馬もいるとのこと。

正しいトルトは揺れが少なく乗り心地が良いのですが、正しい動きができていないと乗り心地が悪くなるそうです。

※ 斜対歩と側対歩:通常の速歩は斜対歩(しゃたいほ)。対角にある右前肢と左後肢、左前肢と右後肢がそれぞれ同時に着地します。一部の馬は側対歩(そくたいほ)、同じ側の前肢と後肢が同時に着地する速歩をします。

※※ 4節の動き:“節”とは動きのリズムを表し、1セットの動きで足音がいくつ聞こえるかを数えます。常歩・襲歩は4節、速歩は2節、駈歩は3節です。

独特な歩法その2:フライングペース/スケイド(skeið)

短距離を速く移動するときに使う歩法。滞空時間が長い側対歩で、時速48kmに達する馬もいます。全ての馬がこの歩法で走れるわけではなく、調教が必要です。

アイスランディック・ホースの5つの歩法については、こちらの動画をご覧ください。基本の歩法も美しく、たてがみと尻尾が見事なアイスランディック・ホースを見ることができますよ。
(Horse of Iceland、5 gaits of the Icelandic Horse、https://www.youtube.com/watch?v=RV9P0w8vZi8

アイスランディック・ホースのワイルドな生活

現在は厩舎で飼われているアイスランディック・ホースもいますが、半数は飼料を与えられずに年間を通して屋外で過ごします。

馬たちは自分で食べるものを探してたくましく生き、たまにアイスランドでは大量に獲れるニシンを干したものを与えられることもあるとか。

特徴、性格と用途

特徴

体高はおよそ135~142cmで、大きめの頭部と筋肉が発達した頚、がっしりした体格をしています。

毛色は鹿毛、栗毛、芦毛、パロミノ、斑毛など様々。

ゆっくり成長し、完全に成長が終わるのは7歳。牡馬・牝馬ともに繁殖能力は25歳まであるといわれています。スタミナがあり、成人男性を1日中乗せて荒野を走ることができるそうです。

性格

アイスランド国内にもともといた哺乳類は北極ギツネのみ。アイスランディック・ホースには天敵が存在しなかったため、物事に動じず簡単には怖がらない傾向があります。

従順で扱いやすく、フレンドリーで温厚。そんな性格が多くの人々に愛されています。

用途

車や道路が発達するまで、アイスランドの荒野では馬が最も優れた移動手段でした。また、羊の群れを管理する作業や荷物の運搬、農地を耕す農耕馬としても活躍します。

競馬やクロスカントリー、馬場馬術競技などに出場したり、レジャーで乗馬を楽しむ人を乗せたり、今も昔も人に寄り添ってくれる馬たちです。

まとめ

アイスランディック・ホースはアイスランド国外でも人気があり、世界各地で飼われています。

アイスランド国内の飼養頭数はおよそ80,000頭、国外ではおよそ10万頭が飼われ、そのうちドイツに5万頭いるそうです。

せっかくならオーロラも見えるアイスランドまで会いに行って、他の馬では味わえないトルトの乗り心地を試してみたくなってしまいますね。

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