ケーブルカーで朗読劇 筑波観光鉄道のストーリーテラーズ列車が今秋も登場 今はなき筑波鉄道の歴史もご案内(茨城県つくば市)【コラム】

朗読劇が演じられる赤い車体の「もみじ号」(筆者撮影)

2022年秋に話題を呼んだあのイベントが、今年も帰ってきました。茨城県の名峰・筑波山観光の足、筑波観光鉄道のケーブルカー車内で繰り広げられる8分間のドラマ。プロの声優が朗読劇を聞かせる、「ストーリーテラー’s レールウェイ」が2023年10月1日からスタートしました。

2年目の今秋は、一段とパワーアップ。筑波山山頂では、地元の伝統芸「ガマの油売り口上」を披露。展望台では、大型水鉄砲を発射してストレス解消の「天空のガマスプラッシュ」もお目見しました。本コラムはイベントのレポートともに、かつて土浦と筑波山を結んだ筑波鉄道のストーリーもスピンオフでご案内します。「さあ~お立ち会い。ご用とお急ぎでなかったら、ゆっくり見ていっておくれ!!」(油売りの口上から)

ケーブルカーの車内で観光気分に浸る

筑波観光鉄道は京成電鉄の連結子会社で、筑波山ケーブルカーは、山ろくの宮脇駅と筑波山頂駅を結ぶ1.6キロの鋼索鉄道です。高低差495メートル、大正年間の1925年に開業しました(戦後は一時休止)。関東エリアでは箱根登山ケーブルカーに次ぐ、2番目に長い歴史を持ちます。

1954年に撮影されたケーブルカー駅。詳細は不明ですが、何らかの催しで多くの人がホームに集合しています(写真:筑波観光鉄道)

ケーブルカーの乗車時間は片道8分間。「わずかな乗車時間でも観光気分に浸ってもらおう」と編み出したのが朗読列車です。初回の昨年は、乗客が増えたほか、出演声優が地元・つくば市の学校に招かれて朗読を披露するなど、大反響を呼びました。

2023年のストーリーテラー’s レールウェイは、10月1~29日の土日曜日と祝日、11~14時台の列車で演じられます。車両は赤の「もみじ号」と緑の「わかば号」の2台ですが、このうちもみじ号を「ストーリーテラーズレールウェイ号」として運行し、朗読劇を上演。紅葉を模した装飾で車内を飾り、特製ヘッドマークを取り付けます。

声優が語るのは、茨城の民話をアレンジした「しっぺいたろう」や、宮沢賢治の「注文の多い料理店」。出演は水野谷泰我さん、菊池将司さん、上原悠希さんの3人。いずれも22歳の若手声優で、これからの活躍が約束されます。現在は人選中ですが、女性声優の登場もアナウンス。気になる方は、筑波観光鉄道の情報をチェックしてください。

コスチュームもりりしいストーリーテラーの声優3人=筑波山ケーブルカー宮脇駅で=(筆者撮影)

上野発筑波行き臨時「つくば号」

後半、ガマの油売りに行く前にスピンオフ。現在の筑波山観光は、つくばエクスプレス(TX)つくば駅からケーブルカー宮脇駅まで、筑波山ライナー(つくばセンター~筑波山神社入口間の関東鉄道シャトルバス)の利用が一般的ですが、かつては鉄道ルートもありました。

土浦ー岩瀬間40.1キロを結んでいた筑波鉄道。国鉄常磐線と水戸線を短絡する性格の筑波鉄道は、1918年に全通。1945年に常総鉄道、1965年に参宮鉄道とそれぞれ統合されて関東鉄道になりましたが、経営悪化にともない1979年に再度分社化されて、2代目筑波鉄道が誕生しました。

筑波駅の隣駅(土浦寄り)・常陸北条駅付近を走る筑波鉄道の気動車(写真:関東鉄道)

茨城を代表するスポット・筑波山にアクセスする観光路線でしたが、時代はマイカー全盛。国鉄改革前日の1987年3月31日に最終運行、翌4月1日付で廃止されました。

筑波鉄道には1980年代まで、国鉄の直通列車が乗り入れ、上野ー筑波間に12系客車6連の臨時「つくば号」が運行されたこともありました。

TX延伸、筑波山ルート採用ならず

筑波鉄道の車両は現存しないのですが、かつて鉄道があった証しが線路跡。線路敷きは茨城県などが自転車道の「つくば霞ヶ浦りんりんロード」に再生し、〝サイクリストの聖地〟として親しまれます。

筑波鉄道の線路跡を再活用した「つくば霞ヶ浦りんりんロード」。筑波山を遠望しながらのサイクリングが快適です(写真:つくば市経済部観光推進課)

筑波山と鉄道をめぐってはもう一題、2022年に茨城県がTXの延伸構想を打ち出し、4ルートの一つとして「筑波山方面」が登場。〝筑波鉄道の復活〟として、一部で話題を呼びました。

県の第三者委員会は2023年3月末、「TXの延伸は土浦方面が最善」とする報告書をまとめ、筑波山ルートは消滅した格好です。あくまで空想の世界ですが、鉄道ファンなら「TXがJR水戸線方面に延びて、つくば~筑波山~岩瀬~水戸のルートで列車が運転される」と考えるのも一興かもしれません。

江戸末期発祥のつくば市の無形文化財

ラストは、初登場の「ガマの油売り口上」。江戸時代末期に始まり、つくば市の無形文化財に指定されます。
行商人は侍の格好で傷薬の効能を述べ、客を引き付けます。現代でいえばテレビCM、はたまた人気ユーチューバーなのかも。

伝統芸を保存・伝承するのが「筑波山ガマ口上保存会」で、9月27日の内覧会で披露した筑波和弘(活動名)師範によると会員約100人。10月の土曜日は山上展望台、日曜日と11月の土日曜日は山ろくの筑波山神社で演じられます。

山上展望台屋上で口上を披露する筑波さん(筆者撮影)

このほか、新登場のウォーターガンアトラクション「天空のガマスプラッシュ」(有料)は、10月29日までの土日曜日と祝日限定。山上展望台のレストランでは、特別メニューに「カレー紅葉仕立て」が提供されます。

記事:上里夏生

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