がん手術後の病床にカープ松山選手から贈り物 病と闘う勇気に

松山選手のレプリカユニホーム姿でコーヒーを運ぶ脇さん

 愛する「コイのアンパンマン」に病と闘う勇気をもらった。広島県東広島市黒瀬町で喫茶店を営む脇邦彦さん(69)は昨冬、膵臓(すいぞう)がんの手術直後に広島東洋カープの松山竜平選手(38)からサイン入りのグッズを贈られた。「病床の友を励まして」という中学時代の同級生の願いを松山選手がかなえた。

 昨年10月、脇さんを突然の病魔が襲った。血液検査で膵臓の数値が異常を示した。精密検査でがんと分かり、「一度は死を覚悟した」という。幸いステージ1にも至っていないと判明。11月下旬に手術を受け、膵臓と十二指腸を全て摘出した。

 手術は成功したが、眠れぬ夜が続いた。「臓器を二つも失って日常生活ができるのか」。家族との面会も禁止され、1人で不安を募らせた。

 退院を控えた12月上旬、妻からの知らせに驚いた。中学時代の同級生で50年来の友人2人が、松山選手のサイン入りのレプリカユニホームと打撃用の手袋を店に届けてくれた。脇さんの病状を知った11月下旬、松山選手宛ての手紙を球団関係者に送っていたという。「2人の気持ちと松山選手の優しさに感動した」と目を潤ませる。

 がんと分かってから1年近くたった。ユニホームと手袋は額に入れ自宅玄関に飾っている。体力は戻っておらず、毎朝500メートル離れた自宅からゆっくり歩いて店に行く。常連客にコーヒーをいれながら、普通に暮らせる幸せをかみ締めている。

 手術の影響で、今季はテレビ観戦。それまでは毎月のように友人とマツダスタジアム(広島市南区)に通っていた。松山選手のファンになったのは「鹿児島に住むじいちゃん、ばあちゃん、きょう俺やったよ」と叫んだヒーローインタビューがきっかけだ。優しく温かい人柄に引き込まれた。球場で観戦する時は「まっちゃん打ってくれ」と声をからす。

 夏場まで優勝争いをした今季のカープ。「Aクラスはすごいが、やっぱり優勝してほしかった」と脇さんは悔しがる。1週間後の14日からクライマックスシリーズが始まる。「まっちゃんは大事な場面に強い」。今度は自分がエールを送る番だ。

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