長崎くんちとともに半世紀…娘と歩く最後の花道 桶屋町の杵屋佐都緑さん「3日間、弾き切る」

現役として最後のくんちを迎えた杵屋佐都緑さん(左)と娘の杵屋佐緑依さん=長崎市、諏訪神社

 朝一番の諏訪の舞台に三味線の音が響くと、唄が響き、踊り子が舞う-。桶屋町の「本踊(ほんおどり)」で、「地方(じかた)」として三味線を担当する杵屋佐都緑(さとみどり)さん(70)=本名・本木晋美子(ふみこ)さん=は現役最後のくんちを迎えた。隣には娘の杵屋佐緑依(さろくい)さん(36)=同・本木依都美(いつみ)さん=。くんちとともに生きて半世紀、最後の大舞台が始まった。

 佐都緑さんと地方との出合いは小学3年の時。母の勧めで日本舞踊を習い「いつか(地方が座る)台に乗りたい」とあこがれた。21歳で築町の「本踊」に踊り子として出演。翌年、樺島町の太鼓山(コッコデショ)を見て、くんちにすっかりほれ込んだ。出演しない時はシャギリの音を追いかけ、夜はファンたちの「裏くんち」も楽しんだ。
 24歳から三味線と唄を始め、28歳の時、三味線で念願の出演。2005年ごろ「みどり会」を立ち上げ、15人の弟子を抱える。
 くんちは何より特別な舞台。石畳の上に座り続け、庭先回りで歩き続けても、多くの歓声の中で演奏すると、体の疲れが吹き飛ぶような、心が高鳴る気持ちよさがある。出演の話があると二つ返事で受けてきた。
 20年2月、藤間流藤栄会の藤間金彌会主(68)から桶屋町での出演を依頼された。体力や後進の育成、周囲の声もあり、現役引退を考えた。しかし「もう一度くんちに出たい」という気持ちが強く、次のくんちまで出演すると決意した。
 その直後、新型コロナウイルス感染症が拡大し、稽古もできなくなった。中止となった3年間、自身の決意を周りに話すうちに、「次が最後なんだ」という思いが強くなった。
 今年春、待ち焦がれた開催が決まった。「最後の花道ができる」。「みどり会」の文字がくんちのプログラムに初めて載り、最後の共演者には佐緑依さんも肩を並べる。
 佐緑依さんは小学1年で唄を始め、中学1年で三味線を始めた。諏訪町の長ラッパも務め、一時は県外から稽古に通うほどのくんち好き。今年夏、出演に合わせて師範免許を取得した。「くんちは若い人にも三味線や唄に触れてもらえる機会。楽しく仲良く、母を横でサポートしながら役割を全うしたい」
 佐都緑さんは現役を退くが、今後も指導などで関わる予定。「くんちは人生の楽しみ。寂しいが、まずはこの3日間、集大成として気持ち良く弾き切りたい」と目を潤ませながら、次の「会場」に足を進めた。


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