「曲げない男」の真骨頂 稲森佑貴がFWキープ率80%へ

苦しんだ時期を思い出し涙があふれた(撮影/奥田泰也)

◇国内男子◇ACNチャンピオンシップ ゴルフトーナメント 最終日(8日)◇三甲GCジャパンコース◇7295yd(パー72)◇曇り(観衆2210人)

思わず泣いた。ツアーで自身初となったプレーオフ1ホール目のパーセーブでソン・ヨンハン(韓国)を退けた後、稲森佑貴が手で顔を覆った。

「苦しかった時期を思い出して」。8月「横浜ミナト チャンピオンシップ」で完全優勝を狙った最終日に「72」で5位。豪雨による3時間22分の中断があった。ストレッチ、入浴などで時間を潰しながら「中止になるんじゃ…」という心のスキが少し生まれ、伸ばせず終わった後悔があった。

この日は最終18番で唯一ボギーを打ったが、スキがあった訳じゃない。首位と2打差でスタートして、17番まではノーミスの7アンダー。7季連続フェアウェイキープ率1位の「曲げない男」の真骨頂は7番(パー5)と、POの18番で発揮された。

フェアウェイキープ率は大会1位、今季平均79.740%へ(撮影/奥田泰也)

7番のドライバーショットは「今日1番当たらなかった」と、同組の46歳、近藤智弘に20yd以上置いていかれたが、フェアウェイはキープ。多くの選手がアイアンを持つ2打目が約260ydも残ったが、3Wでグリーン右エッジに運んでバーディを奪った。POの18番も緊張、夕方の冷え込みで「今日イチ飛ばなかった」が、FWには置き、入れてOKのガードバンカーに入れてパーセーブで勝負を決めた。

「僕は飛距離が出ないから、ティショットをフェアウェイに置かないと厳しい。ラフに入れたら、2打目で距離がより残るから」。一見ネガティブにも聞こえる信条だが、フェアウェイにさえ置けば、少々のことはなんとかできる自信の裏返し。シーズンのFWキープ率は大会前の「79.239%」から終了時に「79.740%」と上昇。史上初の「80%超え」にまた一歩、近づいた。

初めてのプレーオフを制した(撮影/奥田泰也)

今季初優勝を勢いに乗り、次週の国内メジャー「日本オープン」(大阪・茨木CC西コース)を迎える。ハードセッティングで知られるナショナルオープンではツアー初優勝、2勝目を挙げている。「飛距離がすべてじゃないセッティング。まずフェアウェイに置いておけば、恩恵がある。そこからピースをはめていくと上にいける」。それが“日本オープン男”の戦略。大会3勝目となれば、尾崎将司、中嶋常幸らレジェンドに続く史上6人目の快挙になる。

「茨木CCは2月に回ったんですけど、雪が降ってて、異常に寒くて、飛ばなくて。多分5オーバーぐらい打ったけど、健闘した方って思いました」。賞金ランク7位に浮上し、19日開幕の米ツアー「ZOZOチャンピオンシップ」(アコーディア・ゴルフ習志野CC/千葉)の出場権獲得(有資格者の同ランク1位金谷拓実と、ランク上位8人)に前進。また今大会も観戦に訪れた妻美穂さんは来年3月に第一子を出産予定。公私にノリにノる稲森が堂々と、今年も大好きなトーナメントに挑む。(兵庫県三木市/加藤裕一)

日本オープンで史上6人目の大会3勝に挑む(撮影/奥田泰也)

<日本オープン3勝以上>
宮本留吉/6勝/1929、30、32、35、36、40年
尾崎将司/5勝/1974、88、89、92、94年
中嶋常幸/4勝/1985、86、90、91年
中村寅吉/3勝/1952、56、58年
小野光一/3勝/1951、53、55年

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