アシックス、CO2排出量世界最少のスニーカー開発はサプライヤーとの対話が要に

アシックスが温室効果ガス(GHG)の排出量を世界最少に抑えて開発したスニーカー「GEL-LYTE III CM 1.95」

アシックスはこのほど、温室効果ガス(GHG)の排出量を世界最少に抑えたスニーカーの発売に併せて、開発の経緯を明らかにした。従来のスニーカーに比べ全体のパーツ数を大幅に減らし、複数のバイオベースポリマーを配合した新素材を採用するなどの方法で昨年9月に開発のめどを立てていた製品で、今回の発表によると、サプライヤーと対話を重ねて製造段階での電力を100%太陽光発電で調達するなど、透明性の高いパートナーシップが製品実現の大きな鍵となったという。(沖本啓一)

製品名は、「GEL-LYTE III CM 1.95」。表生地をリサイクルポリエステルで構成し、ミッドソールにはサトウキビなどを原料とした複数のバイオポリマーを配合した新素材の「カーボン・ネガティブ・フォーム」を採用するなど、GHG排出量の削減と品質を両立するための工夫を重ねた。その結果、バリューチェーン全体におけるGHG排出量を同社の標準的なスニーカーと比べ、CO2換算で約4分の1に抑えることに成功=関連記事=。同製品で培った技術やノウハウは今後、他のラインアップでも活用する。

同社によると、フットウェア業界では毎年、約200億足のシューズが製造されていると言われ、GHG排出量全体の約1.4%を占めている。シューズは構造が複雑で構成するパーツ数が多く、使用する材料の種類が多岐に渡り製造工程が複雑で、その他のアパレルに比べGHG排出量の削減が難しいという。

屋上に太陽光発電を設置したアシックスのサプライヤーの工場(ベトナム)

そこで、同社では今回の製品開発に当たり、製造段階では材料のサプライヤーや製造工場とも対話を重ねた。ロスの少なくなる工程の検討やCO2排出量の計算に必要な電力など、これまでに取得していなかったデータを委託先工場に求める必要があったが「透明性の高いパートナーシップ」でこれを実現したという。

再エネ調達でも新たな試みがなされた。同社では従来からグリーン調達方針を設け、サプライヤーに再エネ調達を促しているが、その一環としてサプライヤー側が工場に太陽光発電を設置。 これにより、GEL-LYTE III CM 1.95の製造に関しては、証書ではなく「実際の調達」によって再エネ100%を達成している。

従業員とステークホルダーの意識改革を実現

このほど開かれた製品説明会で、サステナビリティ統括部長の吉川美奈子氏は、今回の製品開発の成功の一因として同社の組織体制を挙げた。同社ではサステナビリティを中長期の基本戦略と位置付け、サステナビリティ委員会を設けて社長を委員長とし取締役会まで議論が継続されるガバナンス体制がある。

それに加え、「実は一番難しい戦略を現場が当事者意識をもって、アイデアをボトムアップしてきた。その可能性と情熱にかけて権限を与え経営資源を投下したことが成功の要因となったと思っている」という。

「サステナビリティを進めるのは簡単ではないが、失敗したとしても学びが大きい。失敗を恐れてやらないことのリスクの方が大きいと考えている。私たちが信じるサステナビリティと、品質を諦めないというアシックスの姿勢が融合され、トップダウンとボトムアップの強い思いがイノベーションにつながった」(吉川氏)

SDGsの専門家として企業のコンサルティングなどを行う慶応義塾大学大学院特任教授の横田浩一氏は「従業員や取引先の一人ひとりが自分事として環境への課題意識を持っていないと、なかなかうまくいかない。売り上げやタスクを優先してしまうケースも多いが、サステナビリティと商品開発という両立が難しいテーマに挑戦することによって従業員、ステークホルダーの意識改革を実は成し遂げられたのではないかと感じている」と同社を評価。

さらに「高精度でCO2排出量の計算ができるネットワークや知見を得た上で、商品を開発できる技術力、生産力、そしてサプライヤーとの透明性の高い関係性、従業員の意識の変革、目線が上がった従業員が増えるということも企業の無形資産となる」として取り組みが企業価値の向上につながることを強調した。

吉川氏は「多くの人との協業によってできたイノベーティブな製品を実際に履いてもらえることは大きな喜び。お客様には購買力があり、世の中を変える力がある。皆さんがCO2排出量を気にしたり、それを開示している商品を購入することで新しい未来がつくられる。一緒にサステナブルな未来をつくっていきましょう」と呼びかけた。

GEL-LYTE III CM 1.95の価格は税込1万9800円で、国内ではアシックス原宿フラッグシップ、アシックス大阪心斎橋とオンラインショップで販売中。同社によると、グローバルでまずは5000足の販売を目指すという。

同社は本製品をはじめとする製品のカーボンフットプリントの表示、グリーン調達方針を通じたサプライチェーンとの連携など、バリューチェーン全体での同社の気候変動に対する取り組みが評価され、「Sustainable Japan Award 2023」(主催:ジャパンタイムズ、 後援:経済産業省、環境省、金融庁) のESG部門において、最高賞である最優秀賞を受賞している。

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