米ウイグル強制労働防止法の誤算――太陽光発電産業は見せかけの対応、サプライチェーンの透明性が危うい

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米国でウイグル強制労働防止法(UFLPA)が2022年6月に施行され、新疆ウイグル自治区に関与する企業の製品を米国に輸入することが禁止された。しかし、企業のサプライチェーンの透明化を期待する声とは裏腹に、太陽光発電産業では、調達の状況を見えにくくして規制を回避するという不誠実な対応が見られる。企業は、このような場当たり的な対応策ではなく、率先した対策でリスクを回避することが重要だ。(翻訳・編集=茂木澄花)

米国の「ウイグル強制労働防止法(以下、UFLPA)」は、超党派の支持により可決され、昨年施行された。ウイグル人は長い間中国の統制下に置かれているテュルク系民族で、中国政府による人権侵害が国際的に問題視されている。UFLPAの可決前には、複数のレポートによって、多くの欧米企業とウイグル人強制労働との関連性が明らかにされていた。法案の支持者たちは、新疆ウイグル自治区に関与する企業が生産・製造した物品の輸入禁止によって、サプライチェーンの透明化に拍車がかかり、中国政府に弾圧をやめるよう圧力をかけられると期待していた。

特に大きな影響を受けた産業の一つが、太陽光発電産業だ。中国は太陽光パネルの製造で大きなシェアを占めており、主原料の一つであるポリシリコンの世界的な供給量のうち推定45%はウイグル地域産だ。UFLPAの施行後、何カ月にもわたり、膨大な数の太陽光パネルが米国の国境で差し止められ、太陽光発電産業は重大な経済的影響を被った。

その後、太陽光発電産業はUFLPAに対応できているのだろうか。シェフィールド・ハラム大学の新たなレポートによれば、対応は遅々としたものだという。新疆からのポリシリコンの調達は全世界の供給量の35%にまで減少したが、多くの太陽光パネル製造企業が、UFLPAに対応するためにサプライチェーンを分岐させていることが調査によって明らかになった。つまり、UFLPAを満たす太陽光パネルと部品だけを米国に送り、強制労働が関わっているものは他の国に送っているだけなのだ。

さらに強く懸念されるのは、同じくレポートで明らかにされた「太陽光パネルの調達状況が不透明になってきている」という問題だ。

「複数の企業が、ウイグル地域にある工場を売却するふりをしています」。レポートの著者の一人で、人権と現代の奴隷について研究するローラ・マーフィー教授は、報道関係者に対する声明の中でこう述べている。「そうした企業は、正体を隠すために子会社の名称を変えたり、出所を隠すために他の国を経由して輸送したりしています」

企業が強制労働のリスクと真剣に向き合い、率先して行動を起こしていれば、ウイグル人強制労働に関する最初のレポート(2018年にはすでに発表されていた)への対応は違ったものになっていただろう。強制労働に携わっているサプライヤーとの関係を絶つこと、生産拠点を中国以外に移すこと、産業全体で行動を起こせるようデータや調達に関する情報の共有を行うことなど、迅速な対応が取れていたはずだ。

実際には、太陽光発電産業は行動を起こせなかっただけでなく、規制緩和を求める働きかけさえしている。この対応は、サプライチェーンを分岐させていることと併せて、ウイグル人や人権活動家を深く落胆させるものだ。また欧州や日本の主要な太陽光パネル輸入者が、未だに強制労働が関わる製品の輸入を制限していないことも問題だ。

「ウイグル人強制労働に頼らない新たなサプライチェーンを築くことは必ずできます。しかし、太陽光発電産業は世界的に、ウイグル人に対する犯罪への加担からなかなか抜け出せていません」。ノルウェーウイグル委員会でコミュニケーションを統括するムアトゥル・イリクッド氏は、米サステナブル・ブランドにメールでこのように語った。

米国内では、他の産業でも太陽光発電産業と同じく、率先した行動は見られない。そして、中国のサプライヤーがウイグル地域から調達していたために規制を受けるという状況に陥っている。6月と8月上旬には、プリンターメーカーのナインスターと自動車用バッテリーメーカーのキャメル・グループ(駱駝集団)などが新たにUFLPAによる輸入禁止対象の事業者リストに追加され、製品の米国への輸入が禁止された。

アジア最大級の自動車用バッテリーメーカーであるキャメル・グループは、成長を続ける電気自動車産業で重要な役割を果たしている。EVスポーツカーを製造するクロアチアのリマック(テスラの重要なライバル企業だ)と合弁会社を設立し、リマックの中国進出に投資してきた。

一方、プリンターおよびインクカートリッジのメーカーとして世界第3位のナインスターは、「Pantum」や「Lexmark International」など、米国でさまざまなブランド名のプリンターを販売している。しかし、それも輸入規制による影響を受けることとなった。

「このことは印刷関連産業に衝撃を与えました」。IITC(国際イメージング技術評議会)のエクゼクティブ・ディレクター、トリシア・ジャッジ氏はこのように記している。「輸入禁止措置による影響の全貌はまだ見えていませんが、今後数カ月で明らかになるでしょう」

太陽光発電産業がすでに、行動を起こさなかったことに対する非常に高い代償を支払わされているにも関わらず、印刷産業とバッテリー産業はそこから学んでいるようには見えない。悪びれもせずウイグル人とその文化への弾圧が続けられる地域から調達を行うことは、明らかにリスクを伴う。しかし、そのリスクを軽減する適切な対応は取られていないようだ。

どうやら、少なくとも中国との取引に関しては、多くの企業が法的に規制されて初めて強制労働の問題を真剣に捉えるらしい。そして実際、間もなくこの問題を真剣に考えざるを得なくなるときが来るだろう。現在、UFLPAを強化する法案「ウイグル人のジェノサイドに関する説明責任および制裁法(Uyghur Genocide Accountability and Sanctions Act)」が議会で検討されている。この法案が成立すれば、企業の説明責任と罰則が拡大されるだろう。

欧州でも、人権デューデリジェンスの厳格な法制化が検討されている。これにより、世界最大級の市場である欧州に輸入されるすべての製品に対し、強制労働が関与していないという証拠が求められる見通しだ。

弾圧に苦しめられるウイグル人の立場に立てば、企業が今すぐにでも行動を起こし、一刻も早く中国に圧力をかける必要がある。企業の立場から見ても、強制労働が行われている地域と取引関係を続けることは、社会的イメージを損なうリスクや経済的な損失を被るリスクが大きすぎる。このことを認識し、法律で規制されたからという受動的な対応ではなく、強制労働に加担しないための積極的な対策に乗り出すことが、企業に求められている。

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