投資家団体、ISSBに人的資本と人権の情報開示の研究優先を求める

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6カ国24組織の投資家はこのほど、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)に対し、2024年からの2年間の作業計画において、人的資本と人権の情報開示基準について研究を優先させるよう求める書簡を公表した。書簡は、責任投資を推進する英NGO「シェアアクション(ShareAction)」が取りまとめ、英国のESG運用大手インパクス・アセット・マネジメントや大手保険・投資会社スコティッシュ・ウィドウズ、英国大学退職年金基金などの運用資産総額1兆ドル(約147兆円)を超える組織が名を連ねる。(翻訳・編集=小松はるか)

投資家らが書簡を出したのは、ISSBが今年5月に、今後2年間の作業計画において優先すべきサステナビリティ領域について、意見を求める情報要請を公表したことが大きい。また、投資家はこれまで以上に労働者に関する質の高い情報を求めているという。

ISSBは6月、最初の基準である「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項(IFRS S1)」「気候変動に関する基準(IFRS S2)」を発表した。これらの基準は、サステナビリティや気候関連のリスク・機会がどのように企業の見通しに影響をもたらすかについて、報告するための共通言語を生み出した。シェアアクションや同団体と連携する投資家らは、次期作業計画において「人」に関する問題に取り組むよう求めている。

シェアアクションのなかで、労働に関連する情報開示の向上に取り組む「ワークフォース・ディスクロージャー・イニシアティブ(WDI)」の責任者を務めるジェームズ・コールドウェル氏は、「これはISSBにとって、投資家が労働者の権利と人権の侵害について理解し、意義ある行動をとるために必要な報告書の国際的基準を定めるチャンスだ」と言う。

「私たちは、世界の労働者が悪徳な企業に搾取され、損害を被り、投資家のリスクが高まっていることを認識している。こうした問題は、企業行動の透明性が確保されてはじめて取り組むことができることだ。ISSBはそれを実現するのに最適な立場にいる。だからこそ、ISSBに対して国際的に受け入れられる報告書の枠組みを開発するべく、人的資本や人権の研究を優先するよう呼びかけているのだ」

企業にサステナビリティの社会的側面、ESGのS(Social)について説明責任を求める動きは、EUの「コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンスに関する指令案」や米国の「ウイグル強制労働防止法」、そのほかにGRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)の最新基準などのように、法制化という形で主要な市場に現れ始めている。

この書簡は、人的資本と人権との関係性やつながりに目を向けさせることで、ISSBに対し2つの情報を同時に開示する方法を検討するよう求めている。実際に、企業も投資家も、人的資本と人権を異なる分野として捉えていないと主張する。

例えば、「人権デューデリジェンスへの取り組み」は、労働問題を特定するための重要な手段だ。労働組合の形成や現代奴隷といった考えは、明らかに人的資本と人権の分野に該当する。

ISSBへの書簡は、シェアアクションが、英国の成人を対象に自らの資金の投資先についてどう考えているかを調べた直近の世論調査を反映したものだ。調査の結果、圧倒的多数(74%)の回答者は、人権・労働者の権利に関する基準を満たすことができていない企業に投資する金融機関に対して、より否定的な見方をしていることが分かった。

今回の署名組織の一つで、スイスに本拠を置く年金基金エートスファンデーション(Ethos Foundation)のヴィンセント・カウフマンCEOは、「新型コロナウイルス感染症や、それが労働市場にもたらした大規模な変化は、どのようなビジネスにおいても長期的な成功を収めるには『人間』がいかに重要であるかを強く示すものだった。従業員の優れた人材管理であれ、サプライチェーン全体における包括的な人権デューデリジェンスであれ、人間のウェルビーイングを優先する組織は、将来において成功する可能性が最も高い」と話す。

「こうした問題の財務上での重要性がますます明らかになるなか、投資家が包括的かつ比較可能な『S』に関するデータを入手できるようにすることが非常に重要だ。ISSBは、新たな基準を展開するために、できるだけ速やかに人的資本と人権に関する開示基準の開発を優先させることが必要だ」

WDIは、社会に関連するデータ開示に特化した投資家作業部会を立ち上げる方針を示している。

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