【大人のいじめ】人質は子ども「逆らったらどうなるか…」ボスの脅しに屈する母親たち “陰湿”ママ友いじめの実態とは?

ボスママと取り巻きはあの手この手でターゲットをいじめ続ける…(zon / PIXTA ※写真はイメージです)

今年6月、大手引っ越し業者で、男性社員が運搬トラック内で全裸にされ、縛りつけられた上に荷物を固定するためのゴムで叩かれていたという壮絶な「大人のいじめ」が発覚。一連の様子を撮影した動画がSNSなどで拡散され、騒動となりました。

厚生労働省が公表した「個別労働紛争解決制度の施行状況」(令和4年度)によれば、民事上の個別労働紛争の相談として「いじめ・嫌がらせ」に関するものが6万9932件に上りました。これは他の「自己都合退職」「解雇」などの相談と比べても特に多く、職場で「大人のいじめ」が横行している証左となっています。

しかし「大人のいじめ」は職場内だけに限りません。被害者の声から、その実情を探ります。

(#4に続く/全5回)

※【#2】【大人のいじめ】50歳“クラスの元マドンナ”が同窓会をぶち壊し… 30年後に蘇る「スクールカースト」の“呪縛”

※この記事はNHKディレクター木原克直氏による書籍『いじめをやめられない大人たち』(ポプラ新書)より一部抜粋・構成しています。

NHKの番組「あさイチ」には女性からの悩みが多く寄せられる。その中で「職場」と並んで目立つのが「ママ友」からのいじめだ。「ママ友いじめ」が他の「大人のいじめ」と大きく違う点は、間に子どもが介在している点だ。その結果、「子どもを人質にとられているようだ」と訴える被害者もいた。

親同士の不穏な人間関係は、子どもにも伝わることが少なくない。そこから「子ども間のいじめ」に発展することもある。周囲も下手なことをすると、「自分の子がいじめられるのではないか」という不安から、傍観者になりがちなのだ。

番組に声を寄せてくれた関東在住の鈴木さん(40代女性・仮名)。

加害者グループのひとり、そして被害者の双方が近所に住んでいた。どちらの母親とも、子どもが幼稚園の時からの5年以上の付き合いになるという。

子どもたちはみな小学3年生で同級生ということもあり、普段から学校行事の連絡や、子どもたちの様子、教員たちの評判についてなど、情報交換を頻繁に行なってきた。

10人から数年にわたる“陰湿”いじめ被害

ある日、鈴木さんの携帯電話に、道を挟んで向かい側に住んでいる塚本さん(仮名)から連絡が入った。「ちょっと相談したいんだけど……」とめずらしく改まった様子で、不思議に思ったという。

塚本さんは友人が多く、集まれば彼女が話の輪の中心になるような明るい人物だ。しかし、その日はいつになく暗い声で、悩んでいる様子だった。

直接会って詳しく聞くと、およそ10人のママ友のグループから、数年前からいじめを受けているということだった。

そのグループは子どもたちが保育園の頃からの付き合いだという。かつては、塚本さんもそのママ友グループの一員で、お互いの家を行き来しながらお茶会なども開いていたという。

ところが、ある時期から、「LINEグループ」から除外するなど、あからさまに塚本さんだけを避けるようになったという。塚本さんは自分だけが無視されている状況なら、別のママ友グループと交流すればよいと割り切っていたのだが、「いじめ」が娘・さくらさん(9歳・仮名)まで巻き込み始めたことで、我慢できなくなり相談したというのだ。

子どもを巻き込んだいじめは、陰湿なものだった。

暴力行為を“捏造”して学校に報告

ある日、娘・さくらさんの担任の教員から、学校への呼び出しを受けたという塚本さん。娘とともに学校へ赴くと、担任からいきなりこう言われた。

「さくらさんがクラスメイトの女の子を殴ったという声が複数の保護者から届いている。それは本当ですか? お母さんは何か知っていますか?」

塚本さんとしては、まさに寝耳に水であった。担任に詳しく聞いてみると、さくらさんのクラスメイト7人ほどの連絡帳に、それぞれの保護者から「さくらさんに暴力を振るわれた」と書かれていたという。しかし、さくらさん本人に確認してみると、身に覚えがないという。

おかしいと感じた担任の教員が、「暴力を振るわれた」と保護者が連絡帳に書いていた子どもたちに確認。すると、子どもたちも「さくらさんに暴力を振るわれたことはない」と言う。その上で、それぞれの母親に確認すると、あるひとりの保護者から、日付まで指定した上で「さくらさんに暴力を振るわれた」と連略帳に書くように指示されたという話が出てきた。

この指示をしたという保護者・織田(仮名)が、いわゆる「ボスママ」であり、いじめの中心人物であった。しかし、保護者たちはなぜ、織田の提案に従ったのだろうか。ましてひとりや2人ではなく、5人以上も。その事情を担任が聞いていくと、どうやら織田というのは、ママ友グループの中でも、敵に回すとかなり怖い相手だというのだ。

ママ友グループの集まりでも、「私に逆らったらどうなるか分かってるよね?」と脅すようなことも度々あった。また、過去には、彼女に目を付けられた親子が、今回のように根も葉もない噂を流されて、引っ越し・転校を余儀なくされたこともあった。

織田は執念深く、いじめられた人が引っ越したところでも攻撃をやめない。知人をつてに転校先の学校にも噂を流し、目を付けられた親子が、転校した先の学校でもまた肩身の狭い思いをしながら過ごしているという話は、多くの保護者が耳にしていた。

こうしたことが重なり、さくらさんが暴力を振るったのかどうかを自分の子どもに確認することなく、織田からの話だけで連絡帳に書いてしまった。それがことの顚末のようだった。

経緯が分かった担任の教員は果たして真摯に問題を解決しようとしたのだろうか。ボスママ・織田に「注意した」と言うが、織田のいじめは収まらず、むしろ、火に油を注ぐ形となった。

子どもたちの間で、露骨な「さくらさん外し」が始まったのだ。

「ママから一緒に帰っちゃだめって言われてるの」

今、小学校では安全性の観点から集団での登下校を勧めている。しかし、さくらさんが下校の集団に加わろうとすると、その中のひとりから、「ママからさくらさんとは一緒に帰っちゃだめって言われてるの。ごめんね」と言われたというのだ。

以来、さくらさんはひとりで下校せざるを得なくなった。

さらに、ママ友グループからの嫌がらせはエスカレート。塚本さんが自宅の前に駐車していた自家用車に傷が付けられたり、家のドアに蹴られたような足跡がついていたこともあった。

しかし、犯行現場を直接見たわけでもないので、被害届を出すこともできない。そこで、塚本さんは玄関先に防犯カメラを設置することにした。

しかし、すぐ近所に住むいじめグループのひとりから、「監視されているようで気持ち悪いからやめてくれない?」と言われ、カメラを外すしかなかったという。

それでも転校を拒む子ども…

塚本さん家族は、一軒家を購入したばかりだった。ローンも残っていたが、娘の身を案じると引っ越すことも考えた。しかし、家族内で話し合うと、娘のさくらさんが、「それでも、仲の良い友達もいるから転校するのはいやだ」と泣きながら訴えたのだという。

塚本さんは、その様子に、胸が張り裂けそうな思いになったという。一体どうすればよいのか、途方に暮れてしまい、鈴木さんを頼ったというのだ。

相談を受けた鈴木さんは、普段は明るい塚本さんの初めて見る沈痛な表情にショックを受けた。しかし、彼女を助けてあげたいと思いながらも、なかなか動けず、「傍観者」になってしまったというのだ。

理由は、ママ友たちの情報網である。鈴木さんの家の隣には、いじめを行うママ友グループのひとりが住んでいる。その人と道端で顔を合わせると、塚本さんの悪口や、娘・さくらさんが友達に暴力を振るう噂などを話してきた。「なるべく関わらない方がいいよ」という忠告までされたという。

いじめられている塚本さんの肩を持つことで、ママ友グループを敵に回してしまうかもしれない。さらには、わが子も塚本さんの娘・さくらさんのような嫌がらせを受けてしまうかもしれない。そう考えると、動くことができず、ただ話を聞くことしかできなかったと鈴木さんは語る。

(#4に続く)

© 弁護士JP株式会社