【今週のサンモニ】NGリストに”執着”して論点を見失う|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。ジャニーズ事務所の会見について、トップでも「風を読む」でも取り上げました。

記者会見は任意の会合

2023年10月8日放映の『サンデーモーニング』は、2回目のジャニーズ事務所会見が開催されたことをうけ、トップニュースも「風をよむ」もジャニーズ問題を取り扱いました。

アナウンサー:ジャニー喜多川氏の性加害問題で月曜日ジャニーズ事務所が2度目の会見にのぞみました。しかし会見で指名しない記者のリスト「NGリスト」の存在が明らかになり、波紋を拡げています。実は前回無制限だった会見時間は今回2時間に限定され、質問は1社1問のみ、追加質問を禁じられたのです。さらに指名されなかった記者からは…

記者:ちゃんと順番回して!(怒号)

ジャニーズ・井ノ原快彦氏:みなさん落ち着いて下さい。会見を見ている中には小さな子どもたち、自分にも子どもがいます。ジャニーズJr.の子たちもいますし、できる限りルールを守りながら、ルールを守る大人たちの姿をこの会見では見せて行きたい

アナウンサー:しかし会見の2日後、明るみに出たのは運営スタッフが携えていたNGリストの存在。そこには指名をNGとされた記者やジャーナリスト6人の名前と顔写真がありました。さらに指名候補と思われる記者のリストもあったのです。実際会見の序盤で司会者が示したなかには明らかに指名候補とされた人(駒井千佳子氏、TBS藤森祥平アナ)がそのまま当てられていたのです。

民間人の記者会見はあくまでも任意の会合であり、主催者側が主催者側の判断でルールを設定して行うものです。今回の会見も、ジャニーズ事務所側が一定のルールの範囲内で説明責任を果たそうとしたものです。

この説明責任を果たしたか否かの可否は、会見を聞いた各個人の判断によるものであって、会見の終了をもって説明責任が果たされたとするものでもありません。また、このルールを超えた質問をするには別途取材を申し込む必要があります。

そもそも、ジャーナリズムは、真偽を論理的に明らかにするものであり、会見はそのための情報を得る一つの機会です。取材対象をヒステリックに怒鳴って威嚇した挙句、状況対人論証による人格攻撃で罵って悪魔化して私刑(リンチ)に処すものではありません。怒号飛び交う魔女裁判は卑劣極まりない言葉の暴力であり、重大な人権侵害です。

会見で優遇されていたNGリストの面々

アナウンサー:一方、NGとされた6人はジャニーズ側を厳しく追及していた人たちです。その一人、ネットメディアの尾形さんは

Arc Times 尾形聡彦氏(VTR):司会の松本和也さんと目が合っていたので当たるんだろうなと思っていたが、左右の人がどんどん当たっていく状況で、これは明らかに私に当てないようにしているんだなと

アナウンサー:さまざまな疑問に答えるはずの記者会見。しかしNGリストの存在が明るみに出たことで、その信頼性が揺らいでいます。

尾形氏が「目が合っていたので当たるんだろうな」「明らかに私に当てないようにしているんだな」というのは、いずれも個人の勝手な思い込みに過ぎません。

また、『サンデーモーニング』が、記者会見を「さまざまな疑問に答えるはずの」と考えるのは単なる願望です。そして何よりも、NGリストの存在を根拠に「会見の信頼性が揺らいでいる」とするのは明らかに不合理です。NGリストの有無と個別の質疑の内容とは無関係であるからです。

アナウンサー:司会者(松本和也氏)は「NGリストは手元にあったが使っていなかった」などと釈明しています。しかしリストにあった記者の多くが手を上げ続けたのに当てられることはなかったのです。さらに…

松本和也氏(VTR):顔をおぼえられなくなってきました。

アナウンサー:会見中、司会者が漏らしたこの発言、NGに入っていた鈴木エイト氏はこの発言から「リストは使われていたはず」と見ています。

鈴木エイト氏(VTR):ちょっとおかしいと思ったんですよね。当てない人のリストがあったということで、その顔がおぼえられなくなってきたという意味だと後からわかりました。

アナウンサー:発言に対して司会者は「一度指名した人を再び指名しないという意図だった」などと説明していますが、疑惑はくすぶったままです。

番組は、松本氏「顔をおぼえられなくなってきました」という発言に対して、鈴木エイト氏が疑義を呈したことを報じ、「疑惑はくすぶったまま」と述べています。

しかしながら、この件については、松本氏の説明に説得力があります。

松本氏は、NGリストを手元においていたため、NGリストに載っている人物の顔については、忘れてもすぐに確認できるからです。そもそも、バレてはならないNGリストを使っているのであれば、「顔をおぼえられなくなってきました」といったような、NGリストの存在を自ら進んで告白するような発言を行うのは不合理です。

加えて、約400人収納の会場で質問した人は24人(TBS報道)なので、質問に当てられる確率は僅か6%です。一方、NGリストに載った6人のうち1人は、質問に当てられています。

つまり、NGリストに載っていて質問に当てられるという条件付確率は1/6=16.7%であり、これは一般参加者よりも高い確率です。また、6人のうち2人がルールを破って大声を出して勝手に質問しました。

客観的に見れば、NGリストの6人はむしろ会見で優遇されたと言えます。

いずれにしても『サンデーモーニング』が、会見の論点とは無関係なNGリストを報じることに終止し、論点である会見の内容をほとんど報じなかったのは本末転倒と言えます。

本問題で明らかにする必要があるのは、記者の指名NGリストではなく、テレビ局がジャニーズ事務所に忖度してテレビ番組から排除したとされるタレントの出演NGリスト(いわゆる「ジャニーズNG」のリスト)です。

寺島さん、ちょっと何言ってんのかわからないです

次にスタジオトークでのコメントを見て行きます。

寺島実郎氏:悲しい方向に行っている。企業経営の意思が見えない。スキャンダル対応のコンプライアンスとなると、浮足立って、弁護士事務所が仕切り、PRコンサルが登場してくる。経営が向き合わなければいけないことは、企業の経営者として顧客と従業員をどういうふうに守って突き抜けて行く戦略意思が要る。これからどうするということについて、弁護士だとかPRエージェントを超えて、経営戦略の意志を強く持っていなければいけないが、全くない。溜息が出るほどの混乱が起こっていく理由はそこにある。

いつもの通り何を言っているのか意味不明な寺島氏です。

今回の会見をめぐっては、企業経営とは全く無関係なNGリストが話題化されてしまいましたが、実際に会見で発表されたことは、ジャニーズ事務所がエージェント会社として再出発するという企業経営の意思でした。

これは、「芸を磨く」マネジメント業務と「芸を売る」エージェント業務を一体化してタレントを支配する旧来型の総合芸能事務所ではなく、独自のマネジメントで自由に芸を磨いたタレントの芸を売ることに特化したエージェント会社を新たに設立することで、タレントの権利を最大限保障しながら顧客が望むビジネスを展開していく経営戦略そのものです。何も理解せずにため息が出るほどの混乱をしているのは寺島氏の方です。

松尾さん、元村さんの説明を聞いていましたか?

元村有希子氏:この記者会見を誰が主催するかは割と重要な問題だ。今回は記者側が設定したものではなく、ジャニーズ事務所側が設定したものである。だから自ずと運営は設定したジャニーズ側に委ねられる前提で集まっている。その中で1社1問というルールを記者はしょうがない、ここしか取材機会がないと思ったので始まった記者会見だった。
NGリストがでてきたところでちょっと話が変わってくるが、ジャニーズ側が誠実な対応をしなかったことは大変問題であったと思う。記者側の主催でやり直してもいい。

元村氏の説明は見事に的を射ています。先述したように、不祥事を起こした民間企業の会見は、自らの意思に基づいて任意に行うものであり、けっして義務ではありません。あくまで自らが設定したルールの範囲内で可能な限りの説明責任を果たすことを目的にしたものであり、このルールに不服があるのであれば、異なるルールの会見の場を用意して、当事者に出席を打診するしかありません。

なお、ジャニーズ事務所が、もし会見のルールの一環としてNGリストを使ったのであれば、例えば「会見の円滑な進行」「会見者の人権確保のため」といった趣旨とともに予め本人に宣告しておくのがフェアでした。

松尾貴史氏:不祥事を起こした側が恣意的に設定したルールだ。十分に質問をして十分に回答が得られなかったり、別の疑問が湧いたり、追加質問をするのは当たり前だ。1社1問というルールはなぜ存在するのか。なぜ2時間なのか。都合はどこから決まったのか。「時間ですけど」と切り上げるが、本当は質問が出続ける限り答えるという誠意の見せ方があったと思うし、そちらの方が正解だ。ルールの設定自体が間違っていた会見だ。しっかりやり直していただくべきだ。

松尾氏は、元村氏の説明を全く理解できていないようです。民間人の任意の会見に対して「追加質問をするのは当たり前だ」「質問は出続ける限り答える」「やり直していただくべきだ」などと特高警察のように強制するのは魔女裁判に通じる言葉の暴力です。会見は主催者が予め設定したルールの範囲内で情報を得る場であって法廷ではありません。

「おぞましい」と罵った人こそおぞましい

青木理氏:マスコミの会見場で拍手が起きた。未曽有の性加害が起きたような記者会見は、本当に厳しく、場合によっては失礼な質問かもしれないけど、ぶつけて、そこから本音であるとか真実とかが見えてくる。そういう時に「うるさい人とか場の空気を乱す人を排除すべきだ」とマスコミから拍手が起きるおぞましい光景。この拍手が起きた情景が今の日本の国のメディアのダメさ加減を象徴している。

真実は、真であることが保障された前提から論理的あるいは蓋然的な推論を通してのみ得られます。

「未曽有の性加害の記者会見なら失礼な質問をしてもよい」というのは明確な人権侵害であり、魔女裁判の手法です。例えば、望月衣塑子記者が「東山社長は性加害を行った」と主張するのであれば、警察に告発するのが市民の役割です。会見は個人を一方的に断罪する場ではありません。

またルールを破って他の記者の質問機会を奪ってまで質問を行った望月記者の暴走を井ノ原快彦氏が止めたことに賛同の拍手をするのは、他の記者がもつ当然の権利です。

他の記者を記者とも思わない望月記者に反対する記者の声を「おぞましい」と罵った青木氏こそ、極めておぞましいと言えます。

井ノ原快彦、ジャニーズ会見でなぜ記者から拍手起こった? 望月氏と尾形氏の言動で修羅場に

「おぞましい」のはどちらなのか。

テレビの加害を決して認めない

さて、「風をよむ」のセグメントでは、「メディアの沈黙」がテーマでした。一見、TBSテレビが自己検証をして反省したかのような印象を与える内容になっていましたが、客観的に見れば、加害を認めるが責任を認めない見事な【弁解 excuse】になっていたと言えます。

日本テレビの自己検証もそうでしたが、テレビ局は、ジャニーズに問題に対して、加害を認めて反省を口にしますが、けっして責任を認めようとしません。

スケープゴートに対してはヒステリックに引責辞任を要求し続けてきたテレビが、未曽有の性加害問題を隠蔽した自身については反省するだけで終わりなのです。こんな理不尽なことはありません。

この日の『サンデーモーニング』のコメンテーターもジャニーズ問題からの論点ずらしを行っています。

メディアの沈黙 なぜ、ジャニー喜多川氏の性加害問題を報じてこなかったのか【風をよむ】サンデーモーニング | TBS NEWS DIG

寺島実郎氏:メディアの沈黙とか忖度はジャニーズの問題だけではない。安倍一強時代に何が行われていたのか…

安倍一強時代にテレビが安倍政権に忖度することはありませんでした。そればかりか、テレビは、批判が商売に繋がる安倍政権に対しては人権蹂躙の罵りを繰り返しました。

一方、テレビは、擁護が商売に繋がるジャニーズ事務所には恥も外聞もなく性加害を隠蔽し、タレントの番組起用を忖度し続けたのです。「メディアの沈黙」の欺瞞の本質は、利益を共有する対象のみにメディアが沈黙したことに他なりません。

つい、ジャニーズ事務所に「さん」付けを

青木理氏:これはジャニーズの問題だけではない。情報源とか利害関係者とか強者に、往々にしてメディアはひれ伏してむしろ弱者や市井の人には居丈高になるのはメディアの悪習だ。

青木理氏が主張するような事例は確かに存在します。『サンデーモーニング』がジャニーズの性加害問題を初めて報じた2023年4月23日に青木氏は次のようなコメントを残しています。

青木理氏:(岡本カウアン氏の)勇気ある告発にどう向き合うかは日本社会が問われる課題だ。もう一つ、ジャニーズ事務所さんが調査結果をそのうち発表されるということなので、我々も注目していかなければいけない。

青木氏は「ジャニーズ事務所が向き合うべき課題」を理不尽に「日本社会が問われる課題」と歪曲する一方、「ジャニーズ事務所さんが発表される」とジャニーズ事務所に対して異例の「さん付け」をすると同時に「発表される」という異例の敬語を使いました。まさに利害関係者であるジャニーズにひれ伏して市井の人に居丈高になるという典型的事例です(笑)。

同様に『サンデーモーニング』は、9月30日の放送で、性加害は日本社会の人権意識が低いことが背景にあるとして、性加害を日本社会の責任にしました。『サンデーモーニング』は、ここでも、利害関係者であるジャニーズにひれ伏して市井の人に居丈高になったのです。

【今週のサンモニ】さすが「反日番組」!メディアの責任を日本国民にシレッと転嫁|藤原かずえ | Hanadaプラス藤原かずえ | Hanadaプラス

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