福井生まれの価値観問う「くじ」全国へ広がり 医療現場やカフェ、就労支援…人との距離縮めるツールに

おじくじを広める活動に取り組む(左から)黒田悠生さん、神野真実さん、唐川恵美子さん=福井県福井市高木中央1丁目の「トンカンテラス」
願事や待人などの項目について質問を投げかける「おじくじ」

 福井県福井市の事業創造プログラム発の、おみくじ(御神籤)ならぬ「おじくじ(御自籤)」が全国で広がりを見せている。おみくじに倣った「願事」や「待人」などの項目について質問を投げかける内容。医療現場での会話の糸口に、と産声を上げた企画だったが、人と人の距離を縮めるツールとして、ゲストハウスや企業などさまざまな場で注目されている。

 「願事 一つ叶うなら?」「出産 生まれ変わったら?」「恋愛 愛と恋の違いは?」。普段の生活では真剣に話し合うことがあまりないような、でも、それぞれの大切にしている価値観や核心に迫る質問をおじくじは投げかける。

⇒【写真】願事や待人などの項目について質問を投げかける「おじくじ」

 県内外の若者による事業創造プログラム「Xスクール」の2020年度活動で、医療現場の課題解決に携わる神野真実さん(29)=東京都=と唐川恵美子さん(35)=軽井沢町、坂井市出身、福井市のものづくり拠点「トンカンテラス」代表の黒田悠生さん(35)が企画。人生の最終段階で受ける医療やケアを関係者が繰り返し話し合う「ACP」を日常にも広げていく仕掛けとして、多くの人になじみのある「おみくじ」に着想を得た。

⇒最期をどう迎えるかを事前に考える「ACP」とは

 東京の在宅医療の現場では、担当医師も知らなかった全介助が必要な男性の「ハワイに行きたい」という願い事が、おじくじを通して共有され実現した。ある認知症の高齢女性からは「もし叶うなら○○さん(亡くなった夫)に会いたい」という普段は胸にしまっていた思いが、なじみのあるおみくじ形式を取ることであふれ出てきた。

 幅広い世代が「どう生きたいか」を語り合えるおじくじは医療現場にとどまらず、カフェや銭湯、就労支援の場などへSNS(交流サイト)を通じて広がった。21年度の展開以降、全国77カ所で実施され、そのうち県内を含む12カ所で常設されている。

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 神野さんは「自然な会話でなければ本心には迫れない。そんな医療現場の課題を解決したい一心だったが、いろんな使い道を『発見』してもらっている」と反響に驚く。坂井市の企業では、社員研修で緊張をほぐす「アイスブレイク」としても活用され、唐川さんは「言葉にして共有することで、初めて自身の思いに気付いたり、新たな展開につながったりする。おじくじがその手助けになっている」と当初は想定していなかった可能性も見据える。

 おじくじ裏面には、医療者が出合った「人生の先輩の名言や迷言」が記され、広がりとともにバリエーションを増やしている。福井市のエルパでは8月に期間限定で設置され、子ども向けのおじくじも新たに生まれた。

 ホームページから、くじと箱などのセットをレンタル(1週3千円~)や購入できる。「おじくじ」で検索。

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