「シェリナの冒険 2」 大ヒットミュージカルの23年ぶり第二弾、カリマンタンでの新冒険 【インドネシア映画倶楽部】第61回

Petualangan Sherina 2

2000年に大ヒットし、インドネシア映画界復活の足掛かりを作った「シェリナの冒険」の続編。カリマンタンを舞台に大人になったシェリナと親友サダムが再び「冒険」を繰り広げる。ファミリー向けのミュージカル映画で、ストーリーも単純明快。前作を見ていなくても楽しめる。

文と写真・横山 裕一

2000年に大ヒットし、経済危機の影響を受け瀕死状態だったインドネシア映画界復活の足掛かりを作ったリリ・リザ監督作品「シェリナの冒険」の23年ぶりの第2弾。当初2020年公開予定だったが、コロナ禍の影響でようやく公開を迎えた。9歳で歌手デビューした人気少女、シェリナ・ムナフが10歳で映画「シェリナの冒険」の主役を演じ国民スターになったが、今回は33歳の大人の女性として同名映画に舞い戻った。相手役の親友サダムを演じるのも前作に引き続きデルビィ・ロメオが出演している。

物語は、テレビ局の報道記者、キャリアウーマンとして活躍するシェリナだが、数カ月前から担当する予定だったスイスでの国際会議取材を直前で外され、その代わりにカリマンタン島でのオランウータン取材を命じられる。スイスには社長の息子である記者が行くことを知り、憤まんやる方なかったが、中カリマンタン州の取材現地に入るとその気持ちも吹き飛んだ。取材は森林火災から保護され、リハビリを受けたオランウータンを自然に戻す活動のリポートだったが、偶然にもこの活動をするNGOの担当者が幼なじみのサダムだったためだ。

中学卒業以来の再会に二人は喜び、取材も順調に進んでオランウータンの親子を野生に戻す作業も無事撮影する。しかしその後、謎の男たちによってオランウータン親子のうち子供が捕獲されてしまう。ジャカルタの金持ちの女性が希少動物を違法で収集するコレクションに入れるためだった。現場を目撃した地元の少女の一報でシェリナとサダムたちも事態を知り、オランウータンの子を取り戻すべく跡を追い、再びシェリナとサダムの冒険が始まる。

ファミリー向けのミュージカル映画でもあり、ストーリーも単純明快で前作を観ていなくとも楽しめる。前作を観ている人は、シェリナとサダムが子供時代を窺わせる表情や性格の一端を時折見せる上、シェリナの両親も前作と同じ役者が登場するなど、ノスタルジーを感じさせるとともに23年という時の流れに感慨深さを思わせる。

今回、物語の舞台となったカリマンタン島の森林地帯は希少生物であるオランウータンなどの生息域だが、ロケ地も中カリマンタン州の州都パランカラヤから車で6時間、川を遡る船で3時間かかる奥地で撮影が行われた。また、オランウータンを野生に戻すシーンは実在の自然保護団体の協力のもと行われ、撮影用のデモンストレーションはできないため、実際に森林に放つ様子を一発勝負で撮影したという。重要なシーンでありながら、子供を抱えたオランウータンが予想以上にあっという間に木に登るワンカットしかなかった印象が鑑賞時に強く残ったのは、こうしたドキュメンタリー的シーンでもあったためのようだ。周囲の鬱蒼とした森林地帯やワニの出てきそうな川の様子など、火災や密猟といったニュースでしか紹介されず、滅多に見られないカリマンタン島奥地の自然風景も見どころの一つである。

映画タイトルにも冠された歌手、シェリナは2000年の前作以降も音楽活動を続け、日本と関連した活動も数多い。2011年4月に香港で行われた東日本大震災チャリティコンサートにジャッキー・チェンの呼びかけで参加したのをはじめ、2016年には日本のテレビコマーシャル用にアイルランド民謡が原曲の「庭の千草」を歌い、2020年のスタジオジブリ制作アニメ映画「アーヤと魔女」では主題歌を歌っている。

今回の「シェリナの冒険 2」ではシェリナ自身がミュージカル部分などの音楽ディレクターも務めていて、制作面からもシェリナの活躍ぶりを堪能できる。彼女の明るい性格が十分に反映された作品はミュージカルにうってつけかもしれない。後半追走シーンが続くためかミュージカル部分が減ってしまうのが若干残念だが、終始楽しめる作品だ。

同作品を制作したマイルス・フィルムスによると、公開初日の9月28日で今年の初日観客動員数最高の25万6286人を数え、1週間で100万人超えを達成した人気ぶりだという。筆者の鑑賞時には、先生に引率された小学生でほぼ満席だった。先生に聞くと子供の頃、第1作を観た世代だという。上映終了時には満場の拍手が起きていた。ネットフリックスのインドネシア版では「シェリナの冒険」第1作も配信中で、余裕があれば第1作を見てから劇場へ行くのもいいかもしれない。(英語字幕なし)

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