“ハイブリッドなし”の利点? アストンマーティンがヴァルキリーLMHをカスタマー展開する可能性

 2025年から、ヴァルキリーのル・マン・ハイパーカー(LMH)仕様をWEC世界耐久選手権およびIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権に投入することを発表したアストンマーティンは、パートナーチームであるハート・オブ・レーシングとのファクトリープログラムが軌道に乗った際には、カスタマーチームにもマシンを供給する可能性がある。

 耐久モータースポーツ責任者であるアダム・カーターは、アストンマーティンの最初の焦点は2025年のWECとIMSAではあるものの、「機会と状況が誰にとっても適切であれば」ヴァルキリーを他のチームに供給することに前向きであると語っている。

■初年度に向けては6台のシャシーを製造

 現在はポルシェが、WECとIMSAのトップクラスに参戦するメーカーで唯一、カスタマー・レーシング・プログラムを立ち上げており、ファクトリーチームであるポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのほか、カスタマーであるプロトン・コンペティション、JDCミラー・モータースポーツ、そしてハーツ・チーム・JOTAにLMDh規定のポルシェ963を供給し、欧米の両シリーズに参戦している。

 その一方で、LMH規定のマシンをカスタマーに販売しているメーカーはない。フェラーリは今年初め、LMHマシンを顧客に販売することは予想以上に「複雑」だと述べていた。

 フェラーリ499Pとアストンマーティン・ヴァルキリーの主な違いは、後者にはハイブリッドシステムがないことである。ヴァルキリーはサーキット専用のAMR Proプラットフォームをベースにしている。

 カーターは、アストンマーティンはヴァルキリーをカスタマーに販売するアイデアには前向きだが、ハート・オブ・レーシングの主な目的から逸脱しないことが重要だと述べた。

「現在の我々の焦点は、アストンマーティンとハート・オブ・レーシングにある」とカーターは語った。

「そこにあるコンペティションと、いまから2025年のデイトナ(24時間)までの間に我々に与えられた課題を尊重しなければならない。我々の考えはそれに集中することであり、その範囲のなかで追加車両を走らせるチャンスがあるということだ」

「私の実際の見解は、もし誰かがカスタマーカーについて尋ねてきたら、それは我々の仕事に対する大きな賛辞になるだろうということだ」

「カスタマーカーは、我々がどのようにパッケージと統合するかを議論する上で、非常に歓迎される(部分)だろう。我々が望まないのは、WEC、IMSA、ル・マンに向かう『レーシングの心』を持つアストンマーティンの焦点を濁すことだ」

「チャンスと状況が皆にとって正しいのであれば、それが正しいことだ。我々は、各シリーズに1台ずつの参戦を明言している。ただ、もし複数台での参戦が可能なら、状況や情勢が許す限りそうするつもりだ」

「我々がカスタマーカーを走らせるためには、すべての状況がすべての人にとって適切なものでなければならない。それを過小評価することはできない」

アストンマーティンが10月4日に発表した、ヴァルキリー・ハイパーカーのイメージ画像

 カーターは、アストンマーティンが2025年のWECとIMSAのデュアル・プログラムに向けて6台のシャシーを製造することを示唆しており、パワートレインと空力の開発は先週の発表の「数カ月前から」すでに進行していると述べた。

「ホモロゲーション・スケジュールに先立ち、エアロ開発を終えてマシンとエンジンの開発に入り、サーキットテストを行うことが絶対的なキーとなるマイルストーンだ」とカーター。

「規則で定められたホモロゲーションの日付が、アンカーポイント(基準点)になる」

「コンバージョン作業というか、クイックチェンジフロントやスプリットラインなどのボディワーク・エンジニアリングを行うためのエンジニアリング作業。レースでのサービス性を考慮したエレクトロニクスのパッケージング、それがレースカーのデザインだ」

「すべてのレースカーがサーキットを走り、進化し、発展していく。適切なパワーユニット仕様、適切なドライブシャフトとトルクコントローラー、適切なエアロパッケージでマシンをコースに送り出すことが重要だ」

 車両の電子機器のパッケージングはとくに課題であり、レーシングカーのベースとなるAMR Proのコックピット・レイアウトについて、カーターはこのように指摘する。

「このクルマがサーキットカーに改造されると、ツーシーターとなった。つまり、電子機器や邪魔にならないものを再パッケージングするために、非常に多くの作業が必要だった」

「普通のハイパーカーを見たことがある人なら誰でも、ドライバーの隣にすべての電子機器があるのが分かるだろう。一方、我々は(AMR Proで)それをすべて見えないところに、車内のパネルなどにパッケージングする必要があった。 したがってレースカーでは、メンテナンス性という観点から、それらを元に戻すつもりだ」

「これはボディワーク・エンジニアリングであり、空力開発作業を行ってから、それをトラックに持ち込める実際のクルマに落とし込むことが必要だ」

「ガレージ内でのレースのメンテナンス性だけでなく、実際にGTカーや、必要以上に互いに接近することを好む他のLMHカーとのレースについても考えなければいけない。 つまり、頑丈なレーシングカーを作ることが重要なのだ」

アストンマーティンは10月4日、アメリカのハート・オブ・レーシングチームと提携し『ヴァルキリー』で2025年のWECとIMSAに参戦する計画を発表した。

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