【庭球(男子)】悲願への最終章Ⅲ 應座奪還 〜「祝福された勝者たれ」〜/王座決勝 日本大学戦

♢試合結果♢

慶應義塾大学	○	6	D	S	●	3	日本大学
D1	林航平(理4・名古屋)	○2	6-3	●0	高悠亜(スポ2・関西)
D2	藤原智也(環4・東山)	○2	7-6(1)	●0	石垣秀悟(経3・松商学園)
D3	有本響(総2・慶應)	○2	6-4	●0	齋藤成(文理3・湘南工科大附属)
S1	藤原智也	○2	6-4	●0	高悠亜
S2	林航平	●1	0-6	○2	石垣秀悟
S3	下村亮太朗	●0	3-6	○2	丹下颯希
S4	脇坂留衣(環3・興國)	●0	4-6	○2	手嶋海陽
S5	高木翼	○2	7-6(3)	●0	小泉熙毅
S6	菅谷優作	○2	6-3	●1	片山颯(スポ4・敦賀気比)

D2 〇藤原・下村 2{7-6(1)/6-3}0 石垣・手嶋●

D2で出場の藤原・下村組は第1セットから苦戦する。第2ゲームではブレークを許すなど3連続ゲームを失い0-3と追いかける展開となった。しかし、ここから巻き返しを見せる。下村のサーブや藤原の確実なストロークで得点を奪えるようになり、5-5に持ち込むと、このセットは6-6となりタイブレークへ。そしてこのタイブレークでは大差をつけ、逆転で第1セットを奪う。第2セット、第3ゲームでは藤原のサービスエースなどもありデュースを制すると、続く第4セットでも下村のバックハンドが決まってデュースを勝ち切り、応援するチームメイトと一体となって流れを呼び込む。その後はしっかりとキープをし、6-3で第2セットの奪取。2-0で勝利を収めた。今季は思うようなプレーができずに苦しんだ藤原・下村組。しかし昨年からチームの主軸として支えてきたペアの勝利は、チームを優勝にまた一歩近づけたことは間違いない。

2人の笑顔が垣間見える試合だった

D3 ○林・高木 2{6-3/6-2}0 高・小泉●

王座に来て絶好調の林・高木組が、またもや快勝した。第1セットの4−3で迎えた相手のサービスゲーム。3回デュースにもつれるも、最後は林の強烈なリターンに前衛がブロックしきれず。かろうじてコートに散ったこぼれ球を高木がフォアで叩き込みブレイクに成功。あとはキープするだけという二人は、ここからが早かった。相手のボディに食い込む林のサーブに浮かされた球を、高木が相手コートに叩きつけ、高木はこの試合1番のガッツポーズ。鋭いコースに放たれる林のサーブも次々決まり、キープ。第1セットを取る。

第2セット、1−1で迎えた3ゲーム目、第1セットから小泉が自身のサーブに違和感を感じていたのが、スコアに出た。林が好リターンを決めると、その後はダブルフォルト、そして今度は林がリターンエースを決め、ブレイク。その後も高木がサーブで流れを作り、アグレッシブに攻撃を続けた。結果ミスとなってもベンチコーチの島津輝久(商4・慶應)が「ナイストライ」と声をかけ続け、攻撃の手を緩めさせなかった。インカレ、リーグと今季大活躍した二人がチームに初勝利を持ち帰り、慶大に勢いをもたらした。

王座3戦とも圧倒した

S1 〇藤原 2{6-4/6-2}1 高●

藤原の試合開始までの時点で自身のS1とS6の菅谷を除いて4-3。隣のコートで戦っていた菅谷は接戦を繰り広げており、王座優勝へのプレッシャーを感じる緊張感に包まれ、エース対決は幕を開けた。第1セットはお互いに順調にゲームを取り合う展開で始まった。途中、隣の菅谷がタイブレークの末に勝利し、慶大vs日大の試合に決着はついたものの、エース対決は負けないというプライドをかけた熱戦が続く。4-4で迎えた第9セット、藤原がバックハンドでストレートに決める好プレーで奪って、5-4とすると続くセットをブレークし第1セットを奪う。第2セットも藤原は多彩なショットと安定感のあるストロークで高を圧倒する。1-1から3連続ゲームを奪い一気に突き放す。5-2で迎えた第8ゲームも相手の動きを的確に把握し鋭いコースへのショットを放ち、ボールに触れさせない場面も見られた。このセットを6-2でとり、セットカウント2-0で勝利。実力を見せつけた藤原の快勝で、松山での戦いを締めくくった。

要所では積極的な攻撃を仕掛けた

S2 ●林 1{0-6/6-2/4-6}2 石垣〇

ダブルスでの勝利の勢いのまま、シングルスも取りたい林。しかし第1セット、第1ゲームからブレークを許す展開に。その後このセットは完全に相手の流れとなり、1ゲームも奪えずに第1セットを落としてしまう。ここで高い修正力を見せた林。第2セットは自分のテニスを取り戻し、ラリー戦でも点を取れるように。6-2でこのセットを取り、セットカウント1-1に戻し、勝負の最終セットへ臨んだ。第3セットは序盤から相手のサーブに押され甘いボールを確実に決められてしまう。0-4とリードを奪われ、絶対に落とせない第5ゲーム、デュースを制してキープし、1ゲームを奪い返す。ここから調子を上げた林はゲームを連取し3-4と迫る。しかし第8ゲーム、第10ゲームと相手に確実にキープされ、4-6で第3セットを落とし、セットカウント1-2で惜敗した。

数々の好プレーを見せたが惜敗した

S5 ○高木 2{7-6(3)/6-0}0 小泉●

ダブルスで顔合わせした二人が、シングルスでも激突した。第1セットでは両者譲らぬ展開になり、タイブレークに突入する。粘る高木に対し、小泉の勝ちたい思いが逆に空回りしたか、小泉にミスが見られ始める。1ポイント目は、高木が中央に放ったボールに対してバックハンドのストレートを打つも、伸びすぎてアウト。小泉は肩の仕草を抜く仕草をし切り替えを試みるが、次はノーバウンドボレーを狙いネット、フォアハンドを持ち上げきれないミスもあり5−1と大きくリードする。その後も高木はベースライン後方で相手の攻撃を粘り、相手がの攻め急ぎもありこのセットを制した。

この勢いもあってか、第2セットは完全に高木のペース。1ゲーム目から高木の機動力が光り、飛びつきボレーなどでブレイクに成功すると、2ゲーム目では小泉が前に出てきたところをバックハンドでストレートを抜くショットが2連発飛び出すなど、完全に流れを掴んだ。得意のネットプレーを決めるだけでなく、相手のネットプレーを凌ぐプレーを見せた高木は、最後まで気持ちを切らさず。最後はストローク戦で締め、勝利を飾った。

終始高木のペースだった

S6 ○菅谷 2{6-3/2-6/7-6(2)}1 片山●

これぞ決勝戦という一戦になった。第3セットが始まる時点で慶大は、ダブルス3本、シングルスでは高木が勝利を収めていたため、王座優勝に王手がかかっていた。昨年は同じ決勝で悔しい想いをしたが今年はここ3日間負けなし、兄の想いも受け継ぎし菅谷か。唯一の4年生として、日大の躍進を下級生から支えてきたプライドを持つ片山か。激闘の第3セットが始まった。

6ゲーム目、得意のサーブを中心にポイントを4連取したかと思えば、次のゲームではサービスエース2本を含む4連取でお見舞いされる。キープを死守したい菅谷は次のゲーム、フォアストレートでアプローチショット後、バックでドロップボレーを決めるなどスーパープレーも飛び出す。ポイントを取るたびに発する菅谷の雄叫びもボリュームが上がっていき、それに応える応援のトーンも最高潮に。4−5となり、この試合の王手をかけられ窮地に陥るも、菅谷、そして応援が作り出す熱気はそれを吹き飛ばした。強気のサーブを3本返させず。5ー6となり、この時点で隣コートの脇坂、林、下村が敗れ慶大から4ー3であった。悲願を自らの手で掴むのか、エースの手に託されるのか。ここから菅谷のギア、他のコートから駆けつけた部員の応援で慶大ムードが漂っていた。

菅谷は強気のサーブとフォアでガンガン攻めていく。1ポイント目はフォア、2ポイント目は相手にサーブをリターンさせず、3ポイント目はサーブを触らせすらさせず、4ポイント目は得意のドロップボレーで見事4連取。「レッツゴー」や大きなガッツポーズを見せ応援を自分のテニスに渦巻かせる。

そして迎えたタイブレーク。相手のサーブ、1ポイント目は長いラリーとなり、相手のバックがネットに引っかかり飛んだ球はサイドアウト。菅谷の先行で幕を開けると、続く2ポイント目は持ち味のサーブはここにきても威力劣らず、リターンをコートに入れさせず。流れに乗った菅谷は、次はドロップで前に誘き寄せボレーボレーでWin。片山の足取りは既に重くなっていた。そこを突くかのようにドロップボレーを決め、片山の息を消沈。ダブルフォルトもあり、6−2で迎えたチャンピオンシップポイント。確実にリターンを返し、バックで攻め片山に渡った球を、バックで強気で打ち返した片山の球はネットに。この瞬間、悲願達成、46年にわたる夢、王座は慶大の手に。菅谷はその場で寝っ転がり涙。ベンチコーチの白藤成(R5環卒)はじめ、サポート陣も歓喜の瞬間に包まれ、3番コートは興奮と涙で溢れ返った。

物怖じせずサーブを強気に放つ菅谷

優勝の瞬間

46年間にわたる夢を叶えた。昨年、いや昨年までこの愛媛の地で屈辱を味わってきた。宿敵・早大が16連覇してきて、過去多くの大学が打倒早大を掲げて戦ってきたが、そのうち11回は慶大の挑戦によるものだった。王座優勝にあと一歩のところまで11回迫るも、宿敵にそれを阻まれて続けてきた。2022年10月12日、早大に4−5で敗れたところから彼らの今年の挑戦は始まっていた。試合出場メンバー的にも、この時の悔しさを知る者が多くいた。戦力的にはあまり変わらない中、そこにVITALITYが加わった。日本一になりたいというチーム全員の思いが活力となり、そのための言動をみんなでしてきた。生命力が増した。「藤原さんを王座で優勝させて胴上げしたい」という言葉が生まれたように、お互いを本気で応援できるチームが生まれた。

個人の結果を見ても、藤原は主将として、エースとして2度目のインカレ優勝、準決勝では勝負を決めるなど、まさに盤石の強さであった。S2で副将の林は、インカレ準優勝、ダブルスベスト4とこれまでにない結果を叩き出した。今鷹は王座やリーグで試合に出たり、サポートに回ったりしたが、その時々で与えられたポジションでチームのために精を出した。上級生となった下村は、これから慶大のエースを担う覚悟を感じる活躍をした。ケガから復帰した脇坂は特に準決勝、足を攣らせながらも諦めずに戦い続ける姿勢が、チームに勇気と感動が生んだ。またそこで一つVITALITYが生まれた。高木はリーグでのシングルス3勝がチームにとってとても大きく、ダブルスでは王座でD1というプレッシャーのかかる中、1セットも取られることなく快勝した。有本と菅谷は3勝0敗、リーグから数えると8勝0敗と鉄壁のダブルスを見せ、慶大に大きな流れを引き寄せた。眞田は、1年生とは思えないような落ち着きぶりとそこに秘められた闘志で戦い抜き、将来のエースを匂わせるような活躍ぶりであった。

坂井利彰総監督は、試合後「今までずっと優勝できなくて、監督がダメだから優勝できないんじゃないかと思っていた」と涙を浮かべた。46年間開かなかった扉が開き、多くの人の顔が浮かんだのだろう。優勝後、部員一人一人と握手を交わしていた。苦労が報われた瞬間だった。

応援してくれた方々に感謝を述べる坂井総監督

川島颯コーチ(R5総卒)と白藤成コーチ(R5環卒)。自分たちが惜しくも成し遂げられなかった夢を、後輩たちがやってのけた。ただ「後輩がやってのけた」のではなく、二人が「後輩への想い」を持ち続け、最高の「生きた教科書」となりコーチとしてチームのサポートを続けた。川島は自らが蝮谷で培ったダブルスの真髄を、後輩たちに伝えていき、最強のダブルス布陣を作り上げた。白藤は昨年、丹下に負けて早大の優勝が決まってしまったが、本試合では菅谷のベンチコーチに入り、白藤が勝たせ、優勝を決めたのだ。

二人の存在が大きかった

そして、ベンチコーチを含めたサポートメンバーの存在は欠かせなかった。夏の甲子園での塾高の声援が凄いと話題になったが、庭球部の声援は違う意味でまた熱かった。彼らは音楽やメガホンによる音ではなく、全て心の奥底からの地声である。仲間がポイントを取った時や取られた時、嬉しい時や辛い時、心の底から湧き上がる選手とチームへの情熱を、腹の底からの叫びに変えて叫びに叫びまくっていた。数多くある大学スポーツの中でテニスの1番の醍醐味は、チーム全員が同じウェアを着用し、同じコートに立って、誰よりも近い位置で応援できることだ。野球やラグビーなどは、選手はユニフォームを着用しフィールドで戦う一方、サポートは制服でスタンドから声援する形のスポーツがほとんどだ。しかし、テニスはコートのすぐ近くにサポートがいて、同じウェアを着て、お互いすぐそばで声を枯らしあい共に戦う。サポートが選手のために声援を送り、選手はその声を力に変え戦う。喜怒哀楽を選手・サポート間で共有でき、一つのチームとして戦えること、そして、選手とサポートが一体となって戦う姿を一番体現できていたのが慶大庭球部であった。

高山統行(=写真左、経4・慶應)と島津輝久(商4・慶應)

馬渕麻実(=写真左、環3・浜松聖星)と大川美佐(=写真中央、環4・法政二)と藁科怜乃(商4・成蹊)

これは大会期間中になってすぐに始められることではない。「よりよき部を作ること」、これについて藤原は「主体性のある部。早慶戦に勝つことや日本一に勝つことに対して、テニスをする選手だけではなくて、サポートをする選手が主体的に日本一になるために、自分にできることを一人ひとりがやれば、日本一のチームにつながる」と語った。日頃の練習からそれを意識し、「One for All, All for One」で精進してきたのだろう。そもそも男子の試合のために、試合のない女子ら全員が蝮谷から松山まで足を運ぶというのは、他の大学ではなかなかないことだろう。ホームページの部員紹介が男女混合の五十音順になっているのも慶大ぐらいである。だからこそ優勝が決まって、菅谷が寝っ転がり、コート両側にいたサポートメンバー全員が両手を突き上げた瞬間は、何にも変えられない最高の時間、空間となったことだろう。特に主務の神田喜慧(政4・慶應湘南藤沢)は号泣し、試合終了後も数分はコートにうずくまり、立ち上がれないほどであった。

号泣する神田

『部報 2019 第102号』に、当時庭球部長であった伊藤公平塾長が「祝福された勝者たれ」という題目の巻頭随筆がある。祝福された勝者とは、「勝利をおさめた瞬間、敵味方を問わず会場全体が、そして天までもが祝福してくれる勝者」であり、それには「味方はもちろんのこと、通りすがりの知らない人にまで『この人たちに勝たせてあげたい』という応援の気持ちを抱かせる人間的な魅力が必要なのである」と言葉を残している。2回戦、鹿屋体育大学の狩行に対しての振る舞いは相手に対する、同じ大学テニスに励む者としてのリスペクト、ノーサイドシーンであった。また、横浜慶應チャレンジャーにて日本のテニスを海外へプレゼンスする活動もしている。特に大会での衣類回収活動は、海外の紛争地区(ウクライナ等)などの貧困・紛争地域で困っている方のための取り組みであり、国際社会の一員として大変素晴らしい取り組みといえるだろう。そして、王座優勝の座を掴み取り、「祝福された勝者」となったのだ。天国の小泉信三先生も、きっと喜んでいるだろう。

来年からは追われる立場になる。マークも相当厳しくなってくるであろうし、厳しい戦いになるだろう。しかし、恐れる必要はない。大学テニス界の歴史を変え、日本のテニス界を発展させ続けていく慶大庭球部に乗り越えられない壁はない。進化を止めず、歴史に挑み、未来を切り拓いていく。

慶應義塾体育会庭球部々歌

作詞 井汲 清治

雄叫びの声を張りあげよ

白き球もて鍛ふる者よ

伝統の篝翳し、栄光を担い行く丈夫の児

見よ見よ見よ、吾等が団結の姿

見よ見よ見よ見よ、吾等が団結の姿

弛ゆまざる努力 躍進の命

雄叫びの声張り上げよ 丈夫の児よ

雄叫びの声張り上げよ 丈夫の児よ

おお、慶應慶應義塾、吾が庭球部

(取材:長沢 美伸、野上 賢太郎)

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