ロード巧者”A.J.”がプレーオフドライバーらを退け今季初、通算3勝目を達成/NASCAR第32戦

 ポストシーズンも折り返しを迎えた2023年のNASCARカップシリーズ第32戦『バンク・オブ・アメリカ・ローバル400』が、10月6~8日にシャーロット・モータースピードウェイの通称“Roval(ローバル)”で実施され、プレーオフドライバーたちを尻目に終盤戦のリードを守り抜いたロードコース巧者A.J.アルメンディンガー(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)が今季初勝利を挙げる結果に。

 次ステージ“ラウンド・オブ・8”進出には勝利が必要だったカイル・ブッシュ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)は惜しくも3位に終わり、ブラッド・ケセロウスキー(RFKレーシング/フォード・マスタング)やロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)、ダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)らとともに敗退が決まっている。

 段階的に進む“エリミネーション”方式のポストシーズンも、ひさびさにマイク・ロッケンフェラー(レガシー・モーター・クラブ/シボレー・カマロ)をグリッドに迎えたこのロードコースにて“ラウンド・オブ・12”最終戦を迎えた。

 だが幕開けとなるフリープラクティスではいきなりの波乱が巻き起こり、カイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が痛恨のクラッシュを喫し、これにより次ステージ進出を目指す重要な1戦でバックアップカーに乗り換え、最後尾からスタートする大きなビハインドを強いられる。

「ターン8の進入でルーズになり、修正しすぎて右フロントが壁に当たってしまった。あそこはバンピーだし、それでハミ出してしまったんだ」とラーソン。

 レースウイーク明けとなる10月11日(水)からは、来季のインディアナポリス500初参戦を見据えポストシーズンの『ルーキー・オリエンテーション』に臨む予定のラーソンだが、その2.5マイルオーバルでアロウ・マクラーレンSPとヘンドリック・モータースポーツ(HMS)が協業するシボレーエンジン搭載DW12を心の底から楽しんでドライブするためには、ここで大きなハードルをクリアする必要に迫られた。

 さらに予選ではトヨタ陣営がこの“ローバル”でも速さを披露し、今季プレーオフでも勝利を飾っているタイラー・レディック(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)がポールウイナーに輝き、前年度覇者でもあるクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)がフロントロウ2番手に続くなど、カムリが最前列をロックアウトした。

 迎えた決勝は、落ち着いた展開でレディックがまずはステージ1制覇を決めて主導権を維持し続けると、ステージ2でもコース上の攻防に加えて各ドライバーが燃費戦略も意識した走行となり、ここで8番手スタートだった“非”プレーオフドライバーのチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が隊列を率いる。

 しかしエリオットにもラーソン同様の不運が降り掛かり、ブレイク間近の終盤にステージを「ショートするため」にピットロードに差し掛かった瞬間、ターン4でこの日2回目のアクシデントが発生。

 このピットロード閉鎖により急きょトラック復帰を余儀なくされたエリオットは、そのまま隊列走行でステージ2の勝利を手にしたものの、ブレイク後に“アンダーグリーン”のピットを強いられ、重要なトラックポジションと勝負権を失ってしまう。

10月6~8日のシャーロット・モータースピードウェイでは、ル・マンを走ったGarage56のカマロZL1がデモランを実施
予選ではトヨタ陣営がこの”Roval”でも速さを披露し、タイラー・レディック(23XI Racing/トヨタ・カムリ)がポールウイナーに輝いた
前年度覇者でもあるクリストファー・ベル(Joe Gibbs Racing/トヨタ・カムリ)がフロントロウ2番手に続いた
一時はリードを奪ってウイナーとサイド・バイ・サイドも演じたカイル・ブッシュ(Richard Childress Racing/シボレー・カマロ)は惜しくも3位に

■勝利後、涙が止まらないアルメンディンガー

 そして終盤77周目には、ここまで再三のトラブルを潜り抜けてきたデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)がシケイン飛び込みで無理をし、タイ・ディロン(スパイア・モータースポーツ/シボレー・カマロ)やロッケンフェラーと絡んだことでコーションに。

 ここで首位にいた前戦勝者ライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)がピットへ飛び込み、レースを通じてブッシュとともに好走を披露してきたアルメンディンガーがリードを引き継いでいく。

 ここからチェッカーの109周目までに、さらに4回のコーションとリスタートを乗り越えた41歳は、自身が「人生最大のドライブ」と称した最後の33周を走り切り、都合46周のリードラップを刻んでカップ通算3勝目を手にした。

「今ここで泣くのは嫌だけど、カップ戦は本当に大変なんだよ……」とクールダウンラップから嗚咽を漏らし、勝利後インタビューでも涙が止まらないアルメンディンガー。

「こんな状況が、またいつ起こるか誰にもわからないんだ……。でもこれこそ、僕らが戦う唯一の理由であり、ここまで血、汗、涙を流したクルー全員がここにいる理由なんだ。(昇格2年目の)カウリグ・レーシングの全員が、まさにそんな1年だった。低迷の年とも言えるが、波乱万丈の1年だったよ」

 一方、一時はリードを奪ってウイナーとサイド・バイ・サイドも演じたブッシュは、ウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)に次ぐ3位でチェッカーを受けながら、ここで今季のタイトル挑戦が終わりを告げる結果となった。

「今日はクルー全員が素晴らしいピースを渡してくれた。このカマロはかなり速かったが、ロングランでは少し物足りなかったかな。コーナーへのターンイン、脱出のトラクションともに望んだタイヤの感触がなく、前の2台と同じペースを保つのも厳しかった」と続けたブッシュ。

「でも、全体としてこの結果の責任は自分の側にある。前の2戦(テキサス、タラデガ)で好位置に付けながら、ポイントを獲得できなかった。そこで良い仕事を果たせなかったんだ」

 これにより、すでに同ステージで勝利を挙げているバイロンとブレイニーに加え、次週ラスベガスでの“ラウンド・オブ・8”にはレディック、ハムリン、ベルに加え、レギュラーシーズンチャンピオンのマーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)と都合4台のカムリが進出。

 さらにこの週末7位だったクリス・ブッシャー(RFKレーシング/フォード・マスタング)に続き、最後のひと枠にはバックアップカーで最後尾からスタートし、13位まで挽回してフィニッシュしたラーソンが薄氷の次ステージ進出を決めている。

 併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第29戦『ドライブ・フォー・ザ・キュア250・プレゼンテッド・バイ・ブルークロス・ブルーシールド・オブ・ノースカロライナ』は、過去4戦で同地勝利を飾っている“A.J.”のあとをを引き継いだサム・メイヤー(JRモータースポーツ/シボレー・カマロ)が「僕らはアルメンディンガー2.0かもしれないね」と、引き続きプレーオフを戦うのに必要な勝利を手にしている。

終盤も度重なるコーションが発生し、そのたびに後続からの重圧を背負ったA.J.アルメンディンガー(Kaulig Racing/シボレー・カマロ)
最終盤はウイリアム・バイロン(Hendrick Motorsports/シボレー・カマロ)との一騎打ちに持ち込んでいく
「(昇格2年目の)Kaulig Racingの全員が、まさにそんな1年だった。低迷の年とも言えるが、波乱万丈の1年だったよ」と勝者アルメンディンガー
併催されたNASCAR Xfinity Series第29戦は”A.J.”のシートを引き継いだサム・メイヤー(Kaulig Racing/シボレー・カマロ)が勝利を飾っている

© 株式会社三栄