八甲田風力計画(青森県)、東京の事業者が白紙撤回 地元の反発「総合的に判断」

 ユーラスエナジーホールディングス(本社東京)は10日、青森市など6市町の八甲田周辺や山間部で計画している「(仮称)みちのく風力発電事業」について白紙撤回すると発表した。同事業の計画区域は、十和田八幡平国立公園に近接していることから、景観の悪化や水資源への影響などを懸念し、関係自治体の首長や地元住民からは反対の声が上がっていた。

 事業撤回の理由として同社は「地域の皆さまや各自治体からの意見も含めて総合的に検討した結果、このまま計画を推進していくことは適切ではないと判断した」と説明。撤回に伴い、環境影響評価法の手続きでも、同事業の廃止手続きを進めていくとした。

 同事業は、風力発電の国内最大手でもある同社が、青森、十和田、平内、野辺地、東北、七戸の6市町で計画。当初は陸奥湾側の北側に4千~5千キロワット級の風車を40~50基、みちのく有料道路を挟んで八甲田側の南側に80~100基を計画していたが、地元の反発を受け、それぞれ38基、33基の計71基(総出力32万キロワット)に設置計画を見直していた。

 事業区域に含まれる全6市町の首長は、風車の建設工事による水質や八甲田の景観などへの影響が懸念されることから、今年8月に同社へ事業の白紙撤回を求める意見書を提出。同社は、意見書の内容や地元住民からの意見を踏まえ、事業計画をさらに見直す意向を示していた。

 白紙撤回を決めた背景について同社の広報担当者は取材に対し、「計画の見直しを行ったとしても、地元の理解を得て事業を進めることが難しく、また計画の見直しや説明などで事業化の判断に時間を要し、経済性を見いだすのも困難-、この2点から今回の判断に至った」と述べた。今後、関係自治体を訪問し、事業撤回について各首長らに直接説明するとした。

 事業の撤回を受け、宮下宗一郎知事は同日、「今回の事業が投げかけた自然と再生可能エネルギーの共生という課題は非常に大きい。今後は、青森の価値ある自然を後世につなぎながら、再エネを推進していけるよう取り組む」とコメント。

 事業の撤回を求め続けてきた市民団体「Protect Hakkoda~八甲田の自然を後世に~」の川崎充共同代表は「これまでの活動が実になり安心したが、(再エネ事業者の)地域を置き去りにするようなやり方は他の地域でも問題になっている。今後の制度的な見直しにつながってほしい」と話した。

 国内での大規模風力発電開発を巡っては、関西電力(大阪)が2022年、北海道で進めていた計画(総出力7万9千キロワット)と、宮城、山形両県にまたがる計画(同9万6千キロワット)を断念。また、双日(東京)は23年に北海道での計画(同10万9千キロワット)を中止した。いずれも地元から反対の声が上がっていた。

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