アルバムデビューから30周年、ジャミロクワイの名曲と次の世代への影響

30年前の1993年にアルバム・デビューを果たし、サード・アルバム『Travelling Without Moving』は日本でも150万枚のセールスを記録。この大ヒットアルバムの収録曲「Virtual Insanity」のミュージック・ビデオは21世紀でも何度もバズを起こし、今年発表されたフィギュア「S.H.Figuarts Jamiroquai」も大きな話題となっているジャミロクワイ(Jamiroquai)。

デビュー・アルバムから30周年を迎える彼らの代表曲と後世への影響について、ライターの松永尚久さんに解説いただきました。

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1993年にデビュー・アルバムを発表すると、たちまち日本でもミリオン・セールスを記録するなど、世界中で大ブレイク。1960~70年代のロックやR&B、ソウルなどをルーツに持ちながらも、ジャズや世界中の民族音楽をブレンドした「アシッド・ジャズ」と呼ばれる洗練されたサウンドで、孤高の存在感を放つ英国発のバンド、ジャミロクワイ。

デビューから30年の間での作品セールスは世界で3,500万以上を誇り、その影響力は、多数のミュージシャンはもちろんのこと、2022年には人気ファッション・ブランド「ジュンヤ ワタナベ マン」とのコラボレーションや、名曲「Virtual Insanity」のミュージック・ビデオの世界をフィギュア化した商品『S.H.Figuarts : Jamiroquai』が2023年秋に発売されるなど、さまざまな分野に波及しているほどだ。

デビュー当初の90年代は、フロントマンであるジェイ・ケイの躍動感が伝わる楽曲が多く発表されたが、21世紀に入るとエレクトロニック・サウンドなども取り入れ、よりバンド・グルーヴの心地よさを感じる楽曲が目立つようになり、2002年にキーボーディストとしてマット・ジョンソンが加入すると、さらにそのサウンドはディープかつ色鮮やかに変化。

2017年発表の最新アルバム『Automaton』では、マットがほぼすべてのソングライティングに参加。未来を感じさせるようなサウンドを展開し、現在でも好セールスを記録。ジャミロクワイを支える存在となった。

現在は主だった活動は伝えられていないが、最近日本のシンガー・ソングライターであるtonunの楽曲「琥珀色の素肌」で、マットとドラムのデリック・マッケンジーがセッションに参加したことが話題に。孤高で変幻自在なグルーヴが、新たなムーブメントを築こうとしている。

今回は、音楽の歴史の残るジャミロクワイの名曲、それらが世界や次の世代にどんな影響を与えたのかを紹介したい。

1. Too young to die

1993年発表のデビュー・アルバム『Emergency on Planet Earth』に収録。ストリングスの朝焼けを思わせる美しい音色からスタートする楽曲。

アフリカンやファンクなビートを巧みに取り入れたダンサブルでボーダレスなサウンド、当時巻き起こっていた湾岸戦争で若くして亡くなってしまう生命に思いを巡らせながらも、サビの部分ではあえて言葉ではなくハミングで構成するなど、クラシックな素材を活用しつつ、これまでにはない斬新さ(衝撃)を感じさせる仕上がりになっていて、たちまち世界中が彼らに熱視線を送った。

また、ミュージック・ビデオに登場するジェイ・ケイの顔を覆うくらいの大きなハットと、独特な手の動きが印象的なダンスも話題に。日本でも、チャート上位にランクインし、同年10月10日に川崎クラブ・チッタで開催された初の来日公演は酸欠になるくらいの熱狂を巻き起こすなど、瞬く間に人気バンドになった。結果、この楽曲が収録されたアルバムはこれまでに世界で120万近いセールスを記録している。

2. Virtual Insanity

1996年にリリースされた3作目のアルバム『Travelling Without Moving』に収録された楽曲。日本の音楽プレイヤーや即席麺など、さまざまなCMソングに起用され、ジャミロクワイを代表する1曲と言える。

フィーチャリスティックな世界を感じさせるキャッチーなサウンドでありながら、未来は得体の知れない何かにコントロールされているのかもしれないという、意味深なメッセージを感じさせる内容。また、最近は映画監督としても知られるジョナサン・グレイザーがディレクションを手がけた床が動くミュージック・ビデオも、当時かなり先鋭的なものとして世界にセンセーションを巻き起こし、これまでに2億5000万もの再生数を記録(アルバムは日本のみでミリオンを突破)。

この世界からの影響を感じる他ミュージシャンの映像作品も多数登場している。ファッションの分野でも、ジェイ・ケイが履いていたアディダスのスニーカーが爆発的に売れたことも話題になった。実はこの楽曲、1995年に来日公演(東京は恵比寿ガーデンホールにて)をおこなった際に、地下街を歩いて「未来の世界のようだ」と感銘を受け、生まれたものだとか。

最近ではこのミュージック・ヴィデオに登場したジェイ・ケイをモチーフにしたフィギュア『S.H.Figuarts : Jamiroquai』が発売されることがアナウンスされるなど、時空を超えて幅広い人々やカルチャーを刺激させ続けている楽曲となった。

3. White Knuckle Ride

「Virtual Insanity」の世界的なヒット以降、日本でも何度もドーム公演を成功させるなど、音楽シーンにおいて揺るぎない地位を獲得した、ジャミロクワイ。21世紀に入ると、キーボーディストにマット・ジョンソン、ドラマーにマット・ジョンソンなどが加入、ジェイ・ケイ以外のメンバーが変更していくのと同時に、サウンドも徐々に変化。エレクトロニックやロックなど、より幅広いサウンドを取り入れ、新たな表現領域へと突入。

2010年からは、デビュー以来所属していたレーベルから移籍し、ユニバーサルより7作目となるアルバム『Rock Dust Light Star』をリリースした。これまでは、ジェイ・ケイを中心に制作されていた楽曲だったが、本作からはマットもソングライターとして関わるようになり、サウンドはよりバンド感の強いものに仕上がっている。

そのアルバムに収録された「White Knuckle Ride」は、当時のEDMを連想させる高揚感を与えるサウンドを取り入れながらも、ジャミロクワイらしいファンキーでジャジーな世界が響く、幅広い世代の心をグルーヴさせたナンバー。ま、自身が操縦するヘリコプターで、砂漠のなかを激走するクルマを追いかけるジェイ・ケイの姿をとらえた、スケール感たっぷりのミュージック・ビデオも話題を呼び、これまでに1,000万に迫る再生数を獲得している。

4. Automaton

前作から7年を経て2017年に発表した、最新オリジナル・アルバム『Automaton』も、マットがソングライティングに参加して制作されたもの。AI(人工知能)などの登場によって、オートマティック化しつつある社会のなかでも、大切にとどめておきたいものは人間らしさはとは何かを問いかける内容になっている作品。

タイトル・トラックである「Automaton」を筆頭に、フレンチ・エレクトロやトラップなどモダンな要素を取り入れながらも、往年のジャズやソウルのグルーヴを感じる楽曲が揃い、現在も好セールスを記録している。

また、「Automaton」のミュージック・ビデオでは、ジェイ・ケイのトレードマークであるハットがさらに進化。約25,000ユーロ(現在のレートで約400万円)をかけて製作したといわれる電動ヘッドギアになり、キャリア史上最も豪華な作品と評され、現在までに2,000万近い再生数を誇る。 

5. 琥珀色の素肌 – tonun Studio Live Session with Derrick McKenzie & Matt Johnson from Jamiroquai

2017年のアルバム発表以降、特に主だった楽曲のリリースがないジャミロクワイ。その活動休止期間を活用して、バンド・メンバーはさまざまなプロジェクトを始動。特に、キーボーディストで、昨今のジャミロクワイ・サウンドを支えるマット・ジョンソンは、星野源の楽曲「うちで踊ろう」に参加したり、2020年にはキャリア初となるソロ・アルバムをリリース。2023年7月には、ドラムにデリック・マッケンジーを迎えて、来日公演を敢行するなど、精力的な活動が目立つ。

そんなマットがデリックと共にセッションをしたライヴ動画が、現在話題を呼んでいる。セッションしたのは、tonunの楽曲「琥珀色の素肌」である。2020年に動画投稿サイトに初作品『最後の恋のmagic』を発表し、2022年にはSpotify “RADAR: Early Noise 2022” に選出、2023年6月にリリースした1stアルバム『intro』が高評価を受け、ライヴは軒並みソールドアウトとなっている、注目のシンガー・ソングライターが、2021年に発表した楽曲を再構築させたもの。

爽快で甘酸っぱい夏の空気を感じさせるグルーヴィーなナンバーを、二人を迎えて再構築。楽曲にアーバンな雰囲気が加わり、妖艶な夜が広がるサウンドに変化。また、言葉や世代を超えて、音楽を通じて楽しく会話している彼らの姿が伝わってくるセッション風景が、心を弾ませる内容。とても芳醇な時間を過ごせた気分になれると同時に、ジャミロクワイが30年のキャリアのなかで作り上げた流麗な旋律・グルーヴが、さまざまな世界に波及し、多彩なコズミック・ワールドを形成していることに気付かされる仕上がりになっている。

Written By 松永尚久

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