年間最多タイ6度目ポール獲得のアシュリー・サットンが自身4度目のチャンピオンに/BTCC最終戦

 今季はタイトル候補一騎打ちで迎えた2023年のBTCCイギリス・ツーリングカー選手権の最終第10戦が、10月6~8日にブランズハッチのGPレイアウトで開催され、歴代最多に並ぶ年間6度目のポールポジションを獲得したアシュリー・サットン(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)が、レース1の“ライト・トゥ・フラッグ”でこちらも史上最多タイ、自身4度目のチャンピオンに輝いた。

 さらにレース2でも連勝を飾った新王者は、シーズンで12勝を挙げたふたり目のドライバーとして年間最多獲得ポイントを更新するなど、記録尽くしのシーズンを締め括っている。

 例年は4〜5名の王者候補が混戦模様で最終決戦を迎えていたBTCCだが、今季は開幕以降の8戦連続で予選最速の座を奪ってきた好調NAPAレーシングUKことモーターベース・パフォーマンスのフォードが猛威を振るい、なかでもエースのサットンはすでに10勝を記録して、最終戦を前に自身の昨季獲得総ポイントを上回るなど、手がつけられない強さを披露してきた。

 それだけに、対抗馬のディフェンディングチャンピオンであるトム・イングラム(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)をして「自分がやるべきことをして、あとは相手の運命次第。そこは天に委ねるしかない」と、フォーカスSTの強さを認めるしかない状況となっていた。

 そのモーターベース・パフォーマンスは、この最終戦を前に重要なアナウンスを行い、2004年にデビッド・バートラムによって設立されて以降、ホンダ・インテグラ、ワークス仕様のセアト・トレド、BMWなどを走らせたのち、2011年からフォード・フォーカスで戦ってきたチームが、来季2024年よりアライアンス・レーシングに改称され、現在のブランズハッチ近郊からミッドランドにある3万平方フィートの新しい拠点に移転することを発表。これにより2023年のタイトル戦線を牽引してきたモーターベース・パフォーマンスの名は、今季限りでBTCCのグリッドから消滅することが決まった。

 そんな惜別の念も込めたアタックが実ったか。FP1とFP2こそイングラムとジョシュ・クック(ワン・モータースポーツ・ウィズ・スターライン・レーシング/FK8型ホンダ・シビック・タイプR)に最速を譲ったものの、予選では共通ハイブリッド機構が封印された状況ながら、わずか3周のアタックでロリー・ブッチャー(TOYOTA GAZOO Racing UK/トヨタ・カローラGRスポーツ)を0.253秒突き放すことに成功。サットンがBTCCタイトル獲得にあと1ポイントと迫る、今季6度目のポールを手にした。

「重ね重ね(前戦)シルバーストンでマイキー・ドーブル(カーストア・パワーマックスド・レーシング/ヴォクスホール・アストラBTCC)にポールを奪われたのが残念だ。本来なら僕らが100%の年間予選最速記録を得ていたはずだからね」と、近代BTCCでは2003年のジェームス・トンプソンに並ぶ年間最多タイ記録を樹立したサットン。

「ポールポジションには充分な3周を走れたと思うが、もう少し余裕があるのは分かっていたから、それが欲しかった。限界までプッシュすることが必要かどうかは関係なく、自分たちの能力を証明したかっただけだ」と余裕の言葉を続けたサットン。

「流れに乗ってクルマがそうさせてくれた。だから僕の前に絶対に人参をぶら下げない方がいい、間違いなく僕はそれを狙うからね! 金曜は皆で笑いながら冗談を言い合って『もっとレコードがあれば挑戦してみよう』と言っていた。それが達成できてうれしいし、僕らにとっては“1-0”でポールポジションは完璧なスタート地点さ」

今季はアシュリー・サットン(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST/右)と、トム・イングラム(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)のタイトル候補一騎打ちで最終戦を迎えた
「チャンピオンシップの主役であるふたりの間にいることは素晴らしいこと」と、予選で2番手に喰い込んだロリー・ブッチャー(TOYOTA GAZOO Racing UK/トヨタ・カローラGRスポーツ)
「プランは最大限の攻撃で、最初から最後まで全力で行く」と宣言したイングラムだが、宿敵の戴冠を祝福する結果となった

■逃げ切りで今季11勝目を獲得したサットンが4冠を達成

 迎えた決勝レース1は、オープニングラップの“ドルイド”でブッチャーのカローラをかわしたイングラムが2番手に浮上すると、そこから2台による熾烈な直接対決のマッチアップが続く展開に。しかし終盤には、前日の話題にも上がったドーブルのヴォクスホールがグラベルに沈み、ここでセーフティカー(SC)が発動する。

 わずかなリードが水泡に帰したサットンは残り2周のスプリントを強いられると、振動を感じながらもなんとか逃げ切り今季11勝目を獲得。この瞬間、伝説のアンディ・ロウズや今季もライバルとして戦ったコリン・ターキントン(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)に並ぶ、シリーズ“4冠”のドライバーとなった。

「本当にタフな展開になった。トムは最初のラップで頑張り背後に来たが、僕に対して正直でいてくれたのでフェアプレーだった。こちらもハードにプッシュしなければならなかったが、最後は左フロントにわずかな振動を感じたから、SCが出動したときは楽しめなかったね」とサットン。「でも僕らはここまで充分な努力をしてきたし、とても満足しているよ」

 続くレース2も2度のSCが介入し、最後は1ラップのドラッグレースとなるも、イングラムを抑えてトップの栄誉を獲得した新王者が、アラン・メニュの持つシーズン最多記録に並ぶ12勝目を飾ることに。

 そして年間のフィナーレとなるリバースグリッドのレース3では、前戦のエンジントラブルでタイトル戦線離脱を余儀なくされたジェイク・ヒル(レーザーツール・レーシング・ウィズ・MBモータースポーツ/BMW 330e Mスポーツ)が、首位バトルの隙に乗じて雪辱の逆転優勝を飾る結果に。

 またダン・カミッシュ(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)の9位により、フォードがBMWを退けて今季のマニュファクチャラーズタイトルを決め、NAPAレーシングUK陣営がシリーズ3冠を獲得するエンディングとなった。

「明日は2日酔いで目が覚めてから、自分たちが何を達成したかを実感し始めるだろうし、来週はそれをじっくり味わうことになるだろうね」と、喜びを語った新チャンピオン。

「確かにそれはかなり現実離れしたことであり、僕にとって最大の栄誉は前輪駆動と後輪駆動の両方で、それを実現した最初のドライバーであることだ」とスバル・レヴォーグGTで初戴冠、そしてインフィティQ50BTCCで連覇と、ここまですべてFRモデルでタイトルを得てきたサットン。

「今年の戦績は今後も更新するのが難しい1年になるだろう。なぜなら息子が生まれた年だから。それは僕にとって最高の出来事だったし、それが僕のアプローチを変えたんだ。『もっと努力して、息子に父親を誇りに思ってもらいたい』ってね」

 このタイトル獲得は、同時に終焉を迎えたモーターベース・パフォーマンスにとって初であり、フォードのドライバーとしては2000年のメニュ以来、マニュファクチャラーズでも、そのスーパーツーリング時代以来の記録となった。

「このフォーカスSTはかなり特別なクルマで、これに勝つのは難しいだろうね。将来、新しいクルマに乗り換えたとしても、それが今までのクルマと同じくらい良いものになるとは言い切れない。諦めるという意味ではないが、ここでやってきたことを打ち破るには、さらに深く掘り下げる必要があるだろう」

インディペンデントはジョシュ・クック(ワン・モータースポーツ・ウィズ・スターライン・レーシング/FK8型ホンダ・シビック・タイプR)が制覇。マニュファクチャラーはBMWのエースに先んじたフォード陣営の手に渡った
第9戦ではレース1を制しながら、続くレース2のミスファイヤで王座挑戦権を失っていたジェイク・ヒル(レーザーツール・レーシング・ウィズ・MBモータースポーツ/BMW 330e Mスポーツ)が、今季最終ヒートで雪辱の勝利を飾った
「クルマには多くの開発が費やされており、すべての引き出しを開け、すべてのツールを取り出して、積み重なった小さな部分を見つけた」と新王者サットン

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