【連載コラム】第33回:7年連続のリーグ優勝決定シリーズ進出まであと1勝 安定した強さを誇るアストロズ

写真:地区シリーズ第3戦はアブレイユの3ランもあり9-1と大勝

レギュラーシーズン最終日に逆転で3年連続の地区優勝を決め、ア・リーグの第2シードとしてプレーオフに進んだアストロズ。地区シリーズでは第3シードのツインズを相手に2勝1敗と一歩リードし、7年連続のリーグ優勝決定シリーズ進出に王手をかけています。ちなみに、メジャー記録は1991~99年に8年連続(ストライキでプレーオフ中止の1994年を除く)でリーグ優勝決定シリーズに駒を進めたブレーブス。アストロズの6年連続はすでにア・リーグ記録となっています。

2019年11月に報じられた「サイン盗み問題」により、2017年のワールドシリーズ制覇が「疑惑の優勝」となってしまったアストロズですが、昨季はダスティ・ベイカー監督のもとで5年ぶり2度目となるワールドシリーズ制覇を達成。2017年の世界一メンバーからカルロス・コレアやジョージ・スプリンガーといった主力が抜けたにもかかわらず、ヨーダン・アルバレス、カイル・タッカー、フランバー・バルデス、ジェレミー・ペーニャといった前回のワールドシリーズ制覇時にはまだデビューしていなかった選手たちをしっかりと育て上げ、正真正銘の世界一に輝きました。

アストロズは2017年から今季までの7シーズンで6度の地区優勝(短縮シーズンの2020年は29勝31敗でワイルドカード獲得)と球団史上最高の黄金期を作り上げています。3年連続106敗以上を喫した低迷期(2011~13年)を経て現在に至っているのは有名な話です。その低迷期にデビューしたホセ・アルトゥーベはメジャーを代表する二塁手となり、2011年ドラフト1巡目のスプリンガーと2012年ドラフト全体1位のコレアも期待通りにオールスター選手へ成長。2013年ドラフト全体1位のマーク・アッペルはアストロズでデビューできず、2014年ドラフト全体1位のブレイディ・エイケンには入団を拒否されるという誤算もありましたが、エイケンの入団拒否で得た2015年の全体2位指名権でアレックス・ブレグマンを指名するなど、タンキングによってドラフト上位指名権を得る戦略が見事にハマりました(エイケンは現在に至るまでメジャー経験なし)。

3年連続106敗以上の低迷期のあと、2014年も70勝92敗にとどまりましたが、2015年に86勝76敗でワイルドカードを獲得してプレーオフに進出。翌2016年は84勝78敗と一歩後退し、プレーオフ進出も逃しましたが、2017年から101勝→103勝→107勝と一気に黄金期に突入しました。タンキングによってチーム再建を行ったチームのなかには、一瞬のピークのあと、再び低迷期に突入してしまうチームもありますが、昨季まで6年連続で少なくともリーグ優勝決定シリーズまで進出するなど、安定した強さをキープしているのは見事の一言。主力選手が退団しても、その代わりとなる選手を育て、しっかりと穴を埋めているところに球団組織としての層の厚さを感じます。

今季は開幕からランス・マカラーズJr.を欠き、序盤にルイス・ガルシアとホセ・ウルキディが離脱。先発投手陣に故障者が続出する苦しいシーズンとなりましたが、有望株ハンター・ブラウンはともかく、ノーマークの伏兵だったJ・P・フランスが期待以上の活躍で穴を埋めました。野手でもマウリシオ・デュボン、チャス・マコーミック、ヤイナー・ディアスらがキャリアハイの成績をマーク。新戦力ホセ・アブレイユの大不振やアルトゥーベの故障離脱をチーム全員でカバーしました。

マイナーからのトップ・プロスペクトの供給は途絶えているものの、前評判がそれほど高くない選手をメジャーの戦力へと育て上げる手腕は球界屈指。「すでにピークを過ぎて下り坂」との声も聞こえますが、アストロズの黄金期がどこまで続くか楽しみです。そして、今世紀初となるワールドシリーズ連覇にも期待したいと思います。

文=MLB.jp 編集長 村田洋輔

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