SAの驚異的潜在能力がそのまま再現された『YOU MUST STAND UP MY COMRADES』

『YOU MUST STAND UP MY COMRADES』('00)/SA

ライヴ会場やバンドの公式通販で先行販売されていたSAの3年ぶりのアルバム『hopes』。その豪華仕様盤が10月11日にリリースされたとあって、今週はSAのアルバムから1枚を選んでみた。選考に少し迷いはあったけれど、後述した選考理由とは別に、タイトルに“COMRADES”という彼らのファンを示す言葉が入っていることからしても、これをSAを代表するアルバムにしたことは間違ってなかっただろう(と今思った)。10月14日からはTHE STAR CLUBとの対バンツアーが始まり、年末までライヴが続くと公表されていたSAだが、2024年1月、2月、4月の公演に加えて、5月からの全国ツアーの日程も発表された。こちらも要チェックである。

SA結成はTAISEIが高2の時

SAの1stアルバムが『YOU MUST STAND UP MY COMRADES』であることは間違いない。ただし、この時のSAはTAISEI(Vo)のソロプロジェクトであって、現メンバーであるNAOKI(Gu)、KEN(Ba)が加入してから2nd『GREAT OPERATION』(2002年)が制作されたことを考えると、初期SAのアルバム紹介する場合、『YOU MUST~』よりも『GREAT~』のほうが適切なのかもしれない。構成するメンバーが変われば、音そのものが変わるのがバンド。『GREAT~』はまさに現行のSAに直結しているのだろうし、その意味では、『GREAT~』を紹介すべきなのだろう。

また、『YOU MUST~』は1985年に発表されたソノシート「I GET POSITION」のリマスタリング音源で収録している。ソノシートが正式音源ではないと言わないけれど、1980年代を少しだけ体験した身からすると、やはりソノシートはソノシート。デモテープ<ソノシート<通常のビニール盤…といった序列はあったように思うし、当時は未だ“インディーズ”という言葉すらなかったけれど、ソノシートはインディーズの入口という印象はあった(個人的見解)。しかも、それが1985年というのも少しばかり引っかかる。『YOU MUST~』の15年前の音源である。ビギニングもビギニング。始まり以前の夜明けであったり、黎明期であったりがぴったりくるように思う(これも個人的見解)。何と言うか、隔絶感が否めず、分けて考えるべきなのでは…と思ってしまうのである。

『GREAT~』の発表以降、SAは数年に1枚のペースで作品を発表してきた。コロナ禍の影響もあって、最新作『hopes』まで3年空いたのが最長のリリースインターバルである。つまり、2002年からはコンスタントに新曲を制作し続けているわけで、その点でもSAのビギニングを語るのであれば、『GREAT~』が相応しいとは思う。

だが、今回『YOU MUST~』を聴いて、これはこれで決して無視してはならない──いや、無視どころか、SAの始まりとして極めて重要な作品であることを突き付けられた。「I GET POSITION」はSAの紀元であり、それと併せて1980年代当時のオリジナル曲を新録した『YOU MUST~』は、SAがバンドとして完全復活する以前の経典であることから、ニュアンスとしては旧約聖書に近いものと言える(あくまでもニュアンスでとらえてください)。その意味でも重要ではある。あるが、筆者が極めて重要に感じたというのは、そうした概要のことのみならず、その中身にある。それを以下で解説させてもらうが、その前に──『YOU MUST~』収録の「I GET POSITION」のナンバーや新録された最初期の楽曲がいつ生まれたものかを簡単に記しておきたい。そうすることによって、事の重大さがより鮮明になると思うのだ。

TAISEIがSAを結成したのは1984年。彼が高校2年生の夏だった。初ライヴはその年の冬。当初、名古屋で人気を博していたパンクバンド、ROSE JETSを地元・岐阜に招き2マンライヴを予定していたそうだが、ROSE JETSがドタキャンとなり、結局SAのワンマンになったという。しかし、それが結果的に功を奏することになる。ROSE JETSからドタキャンのお詫びにと、SAは名古屋でのイベントライヴに誘われたのだ。そして、なんとそのライヴ…SAにとってはバンド史上2回目のライヴ後、彼らにインデペンデントレーベル“CLUB THE STAR RECORDS”から音源制作の話が舞い込む。“CLUB~”は名古屋パンクシーンの草分け的存在であると同時に、日本パンクシーンのパイオニアのひとつでもあるTHE STAR CLUBの音源を制作していたレーベルである。SAをライヴに誘ったROSE JETS がTHE STAR CLUBのフロントアクトを務めていた関係もあったのだろう。レーベルスタッフの目に留まったのだ。結成1年に満たない、2度目のライヴを終えたばかりのバンドにとっては破格も破格の話だし、今、客観的に考えても異例中の異例の話であったと思う。その音源が「I GET POSITION」である。レコーディングは、その声がかかった年の春。(おそらく)名古屋のスタジオでの録音だったが、SA自体、ちゃんとしたスタジオで音を出したのは、その時が初めてだったという。…と、ここまでの経歴を押さえておいていただきたい。

結成1年足らずで音源制作

アルバムの紹介としてはイレギュラーなのかもしれないが、ソノシート「I GET POSITION」、つまり『YOU MUST~』のM8「CONFOUND IT」~M12「I GET POSITION」を見ていこう。まず、M8。Oiパンクだ。イントロからしてかなりシンプルなサウンドだが、シンプル故の工夫も垣間見える。ド頭のギターは何も変化がないままにかき鳴らされるものの、後半にドラムを重ねることで、疾走感を際立たせている印象。ブレイク後、ギターが鳴らすいわゆるリフもかなりシンプルなものでありながら、そう感じさせないのは、ど頭が効いているのだろう。そこに重なってくるベースも決して複雑なものではないけれど、ギターとの完璧なユニゾンではないことで、楽曲全体に抑揚を与えている。また、その後、《Oi! Oi!》が飛び出すところでは、コードが変化する。それほど劇的には変わっていないのだが、そのことによって《Oi! Oi!》がとてもキャッチーに感じられる作りにはなっているようだ。間奏のギターソロもメロディアスではあって、全体に相当シンプルな楽曲なのだが、“ここぞ!”というポイントがしっかりと押さえられている。そこが心憎い。

M9「ONE TWO」も同様。これもイントロからして簡素だが、Aメロがコール&レスポンスであることで楽曲の景色がガラリと変わる。そこでの疾走感がいいし、何と言っても不良感全開なのがいい。メインもサブもヴォーカルががなり立てていることが楽曲のカラーを強力に後押ししているのは間違いない。そうかと思えば、間奏ではリズムレスになり、ギターのみでテンポを落とす…というメリハリをつけている。短い楽曲だが、ひと筋縄ではいかないのだ。

M8、M9と疾走感のある楽曲が続いたからだろうか。M10「SA」はミドルテンポのギターリフから始まる。意外性…とまでは言わないけれど、“おっ?”くらいには思わせる。結局これもまたテンポアップするのだが、“おっ?”と思わせただけでもバンド側の勝利というか、このバンドの懐が浅くはないことが分かろうというものだろう。早口のヴォーカルもパンクらしいところだし、サビのリフレインもいい。もっと言えば、そのサビから間奏が、そのイントロで聴かせたミドルのギターに戻ってくるところがとてもいい。シンプルさを退屈に感じないのである。

M11「ALL BOYS SAY」は一本調子とは言わないまでも、その他の楽曲に比べると抑揚に乏しい印象は否めないものの、それでも間奏(ブリッジ?)にベースソロを当てているところはポイントだろう。ベースに関してはM8もそうだったが、この辺からはSAがこの時期からバンドアンサンブルを意識していたことが推測できる。それは、メンバーを誰ひとりスポイルしない姿勢と言い換えることもできるだろうし、SAのバンド観が垣間見えると言っても良かろう。

M12は今のSAにも確実に宿っている、パンクらしいポップさを湛えたナンバーと言える。2023年現在、彼らがライヴでやっていたとしても不思議ではない印象もある。今も世界でパンクが支持されているのは、疾走感の中に攻撃性がありながらも、そこにポップさがあるからに他ならないだろう。最初期のSA、高校生のTAISEIにはすでにそれが備わっていたことを証明するのがM12ではなかろうか。ちなみに、暴走族の“コール”と言われるものでも使われているこのM12のリズムは、Hanoi Rocksの『Back to Mystery City』(1983年)辺りでも多用されていたように思う。TASEIはHanoi Rocksも好きだったと公言していたように記憶しているので、その辺の影響もあったのかもしれない。だとすると、最初期のSAは、すでにパンク、Oiパンクだけでなく、もう少し幅広い音楽性を標榜していたこともうかがえるのではなかろうか。

すでに光沢を放っていた原石たち

ザっとソノシート「I GET POSITION」を振り返った。要約すれば、楽曲の構成も、バンドアンサンブルもちゃんとしていて、ポップなのである。そこで思い出していただきたい。これらが作られたのは、TAISEIが高校2年生の時なのだ。演奏の粗さは否めない。ピッチが合ってないというか、明らかに演奏ミスっぽい箇所もある。完成度という点ではまだまだ…と言っていい代物であろう。しかしながら、若干17歳の少年たちが作ったものである。完成度うんぬんは関係ない。大事なのはポテンシャルである。その観点で言えば、この5曲は全て磨けば光る原石であることが今聴いてもはっきりする。いや、磨かくまでもなく、光沢を放っている箇所も多々ある。インデペンデントレーベルから声を掛けられたのはSAの2度目のライヴのあとだったということだが、音楽制作の現場の人にはさぞかし眩く見えたことだろう。とりわけ“CLUB THE STAR RECORDS”という老舗パンクレーベルの人であれば、そのセンサーが強く働いて当然である。筆者が「I GET POSITION」を極めて重要な作品としたのはそこで、同作はTAISEI、引いてはSAのポテンシャルが、彼が高校生だった時の瑞々しさを含めて、しっかりとパッケージされている。そこが素晴らしい。しかも、この『YOU MUST~』では、ご丁寧なことに、M8の前にM7「DO YOU REMEMBER '85」というSE的なショートトラックを入れることで、「I GET POSITION」を回顧的にとらえているのも面白い。過去をはっきり過去とした、正しき“レコード=記録”とすることで、SAの潜在能力の高さを鼓舞しているかのようでもある。

「I GET POSITION」以外の『YOU MUST~』収録曲は、1985年頃に存在していたものをゲストメンバーを迎えて録音したものであるということは、バンド結成から15年後に“磨けば光る原石”を磨いたものと言うことができる。最初のライヴで演奏され、のちにAAレコードから発売されたオムニバス盤『Oi of JAPAN』(1986年)にも収録されたM1「YOUTH ON YOUR FEET」は流石のカッコ良さである。勢いはそのままにブラッシュアップに成功している。その歌詞から本作『YOU MUST~』のタイトルが付けられたM5「(GOOD BYE) SHINING FIELDS」もいい。ポップでありながら重厚感があり、熱さも感じられるところはSAならではのものだろう。M1、M5はメジャーからリリースされたベストアルバム『ハローグッドバイ』(2016年)にも収録されているので、バンド最初期の重要ナンバーであることはメンバーも認めていると思われる。

個人的に本作で最も注目したのはM13「WORKING MAN」。アルバムのフィナーレを飾るバラードである。こうしたミドル~スローなナンバーを最初期のSAでやっていたことに、まずは少し驚いた。これもまた、当時のSAがパンクだけではなく、幅広い音楽性を標榜していた証拠でもあるだろう。バラードに驚いただけでなく、その歌のメロディーラインの流麗さにも関心させられた。パンクというと歌詞も含めて直情的なものが多い印象はあって、それこそ本作でもそれが分かるが、M13は何とも叙情的なのである。

《失う物が多すぎて 諦めを何度 口にしただろう/若さゆえの過ちだけど 誰かの手なんかで 消されるな》(M13「WORKING MAN」)。

歌詞は、アグレッシブな言葉だけじゃないけれど、“労働者”というタイトルも含めてちゃんとパンクだ。ここでもSAのポテンシャルの高さと独自のセンスがうかがえる。サウンドコラージュを加味したイントロもそうだし、重めのストリングスを入れることでサイケデリックロックな匂いをさせているサウンドも興味を惹く。この辺は2000年にSAを再始動する前、TAISEIがヴォーカルを務めてメジャーで活動していたバンド、BAD MESSIAHの影響も少なからずあったと思われる。影響と言っても、BAD MESSIAHの音楽性がそのままSAに引き継がれたとかそういうことではなく、メジャー経験で培われたアレンジ面やレコーディングにおける技術など…であるが、そういったところも余すところなく注がれているのが、2000年以降のSAだろう。この辺からは大袈裟に言うと、TAISEIというアーティストの人生を綴った大河ドラマ、その1シーンを見るような想いがある。

TEXT:帆苅智之

アルバム『YOU MUST STAND UP MY COMRADES』

2000年発表作品

<収録曲>
1.YOUTH ON YOUR FEET
2.RAISE YOUR HANDS
3.MERRY STAR
4.AGAINST THE LIGHT
5.(GOOD BYE) SHINING FIELDS
6.LATE BLOOMER
7.DO YOU REMEMBER '85
8.CONFOUND IT
9.ONE TWO
10.SA
11.ALL BOYS SAY
12.I GET POSITION
13.WORKING MAN

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