専門医が解説「アルツハイマー病新薬“レカネマブ”は軽度患者への効果に期待」

正式承認されたアルツハイマー病治療薬「レカネマブ(商品名・レケンビ)」(写真提供:エーザイ)

「認知症のなかで、約7割を占めるアルツハイマー病に特化した薬『レカネマブ』が、9月25日に日本で正式承認され、年内にも実用化される見通しです。同薬については、今年7月にFDA(アメリカ食品医薬品局)で承認されたことから、『アメリカで治療したい』という声もあったほど、患者さんやそのご家族の期待度が高いものです。臨床医としても、大きな武器を得ることができたという思いです」

こう語るのは、日本のアルツハイマー病研究の第一人者で、アルツクリニック東京の院長・新井平伊さんだ。日本では、これまで4種類の認知症薬が使用されてきたが、今回、12年ぶりに承認された「レカネマブ」は、根本的に構造が異なるという。

「全認知症のうち、7割を占めるアルツハイマー病は、遺伝的要素、生活習慣病などの要因が重なり、脳の神経細胞内外に『アミロイドβ』というタンパク質が沈着することが起因だと考えられています」

神経細胞がダメージを受けると、アセチルコリンという神経伝達物質の合成が阻害され、物忘れなどが生じ、最終的に脳の萎縮に至る。

■アルツハイマー病の原因そのものを除去

「既存薬は、アセチルコリンを補充したりする対症療法的なもので、投薬後、10カ月ほどで効果がなくなってしまいました。ところが新薬『レカネマブ』は、アミロイドβそのものを除去するため、進行を遅らせる効果が持続することが期待されるのです」

治療法は、2週間に1度、1時間ほどの点滴治療を受ける。

「1年6カ月の投薬を続けることで、進行を27%ほど、時間に換算すると2〜3年ほど、遅らせるというデータが出ています」

副作用は、頭痛、寒気、吐き気などが報告されている。

「特徴的な副作用としては、脳浮腫が約12%、脳の微小な出血が約17%ほどの確率で起こるとされています。ただし、2千人の治験では、亡くなるなど重篤な副作用の報告はありませんでした。症状がなく軽い場合は治療を継続できますし、状況を見る必要がある場合は、一時中断して、落ち着いたら再開することになります」

薬価はどうなるのだろうか。

「米国では1年間で360万円ほど、日本ではその半分の180万円ほどを期待している」というが、保険適用になるので、収入や年齢に応じて1~3割の負担で使用できる。

また、医療費が高額になった場合、高額療養費制度が利用できる。70歳以上の一般的な収入の人の自己負担額の上限は14万4千円なので、月に換算すると1万2千円ほどの負担で利用できそうだ。

ただし、どんな認知症の患者にも効果があるわけではない。対象となるのは軽度認知障害(MCI)や早期アルツハイマー病の患者。

「多少の物忘れがあっても、着替えや入浴、外出など、身の回りのことができ、生活が自立できていて、加えてアミロイドβの蓄積が認められた人などです」

アミロイドβの蓄積は、通常のMRIでは判別できず、アミロイドPET検査や脳脊髄液検査で判定することになる。

「現在、これらの検査は全額自己負担で、当院でもPET検査の薬剤だけで25万円もします。しかし検査が高額では、新薬の導入のハードルが高くなってしまいます。薬価を決めるとともに、アミロイドPET検査も保険診療にする必要があるでしょう」

アルツハイマー病に向き合う患者や家族の福音となるのか、新薬の普及と効果に期待したい。

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