欧州ラウンドと日本GPの最大の差は“食”にあり!【現役大学生ライダーのMotoGP日本GP取材レポート】

 オートスポーツwebのみなさん、ご無沙汰しております。現役大学生兼モータージャーナリスト見習いのウチノアミです。今年3月末に無事スペイン留学から帰国して、現在は就職活動真っ只中です。

 私は9月29日〜10月1日にモビリティリゾートもてぎで開催された2023MotoGP第14戦日本GPの現地取材へ行ってきました。今回は、その取材の様子や仕事内容、そして記事にならなかった部分をお届けします。

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 まず、パドック内のトピックスから。

 パドック内では、ライダーやチームスタッフの一部は、主にスクーターに乗って移動します。そのため、パドックの至る所にスクーターが並べてあります。その中でも目を引いたのは、アプリリアのピットボックス近くにあったスクーター。アプリリアと同じピアッジオグループであるVespaのカラフルなスクーターが並んでいてかわいかったです。

アプリリアのピット付近に並ぶVespaのスクーター。

 ホンダやヤマハのチームのピットバイクは、電動スクーター。ピットスクーターもどんどんEV化されていくようです。

ヤマハのピットスクーターは電動のE01。

 パドック内には、チームオフィスと並んで、装備類のレーシングサポート専用の部屋があります。木曜日にお邪魔したアルパインスターズのレースサービスでは、Yamahaのテストライダーで今回スポット参戦していたカル・クラッチロウのツナギをはじめとする新品ツナギがいくつかかかっていました。ツナギの他に、新品のブーツもいくつか床に並んでいましたが、これらのおニューのギア類は、レースウィークに使用するために各ライダーの元に持っていかれるので、この光景は木曜日ならではのものでした。

アルパインスターのレースサービスに並ぶ新品スーツ。

 韓国のヘルメットブランド・HJCのレースサービスでは、日本人の長谷川さんが働いています。長谷川さんはヘルメットサービスながら「ヘルメットに関わる部分だけでなく、ライダーの視界を良くするためならなんでもしてあげたい」と話していたのが印象的でした。

 実際、前戦のインドGPでは、髪から汗が垂れる、というライダーの発言を受けて、バイザーケースを使用してオリジナルのヘアバンドを作ってあげたそうです。

「ヘルメットは規格があるから大きくはいじれないし、ヘルメットに関しては文句は言われても『ヘルメットのおかげで勝てた』と言ってもらえることはない。でも、それ以外の部分で何かしてあげると分かりやすく喜ばれるから嬉しい」とのことでした。レースサービスは装備をきれいにしたり修復したりするだけでなく、ライダーの要望になるべく応えることで、信頼関係を築いていくことも重要なんだと感嘆しました。

実は絵が上手いというファビオ・クアルタラロ選手にミニオンを描いてもらったキャップを、大切そうに見せてくださった長谷川さん。ライダーとの仲の良さが伺えます。

 パドックの裏側にあるアライのレースサービスには、いつ行っても誰か人がいることに少し驚きました。ライダーだけでなく、レジェンドライダーやライダーの家族、関係者などがアライの部屋で走行を見たり、おしゃべりをしたりしていて、みんなの集まる拠点のようになっていました。

 今回、パドックではMoto2、Moto3に参戦する日本人ライダー中心に、コメントを取らせてもらう機会がありました。その中で、中上貴晶選手、小椋藍選手、佐々木歩夢選手の日本GPスペシャルヘルメットは別の記事で紹介できたのですが、実はもうひとり、山中琉聖選手も、日本GPに向けてオリジナルヘルメットを作成していました。

 このヘルメットは、トップのダルマを中心に、侍や相撲、寿司など、日本らしいイラストがポップに描かれたもの。「表彰台を取って、パルクフェルメでこのダルマに目を入れたい」とのことでした。今年は残念ながら実現しませんでしたが、来年に期待です。

ヘルメットを手に笑顔を見せる山中琉聖選手。
山中琉聖選手の日本GPオリジナルヘルメット、特徴は兜を被ったダルマです。

 パドックエリアで注目したいのは土曜日と日曜日の朝にビクトリーコーナー内側の激感エリアのそばで開催されていた「HERO WALK」。パドックパスやスイートパスを購入したお客さんが入場可能で、レッドカーペットのような場所に、ライダーが自らファンサービスをしに訪れてくれるという、ファンにとってはありがたすぎる場所。

 今年から全レースで開催されているようです。特に日曜日は、MotoGPクラスのパレード終わりにライダー全員がここに来ることになっており、多くのファンが詰めかけてライダーとの交流を楽しんでいました。

 ただ、ヨーロッパのGPではピットウォーク同様にHERO WALK用のパスがあるのに対し、日本GPではエリアの都合上かパドックに入れるパスを持った人しかHERO WALKを楽しむことができない点については、少しがっかりしました。

日曜日の朝開催されていたHERO WALKには多くのファンが集まっていました。

 そのほか、パドックの内外では、歩いているライダーがファンサを求められている場面を多く見かけました。特に母国GPを迎えた日本人ライダーは大人気で、見るたびに囲まれていました。

プレイベントの後半サービスをする小椋藍選手。ハートの色紙にタジタジでした(笑)

 各クラスのレース後は、表彰台に上がったトップ3のライダーによるプレスカンファレンスが実施されます。進行はすべて英語で、司会による質問の後に記者が質問し、その後それぞれのライダーのもとで囲み取材、という流れです。

 ここでライダーが座る椅子には名札が貼り付けられているのですが、各ライダーの名前がアルファベットで、MotoGPオリジナルの書体で書かれているのに対し、日本人ライダーのものだけはひらがなで書かれており、謎の可愛さにクスッとしてしまいました。

 Moto3のプレスカンファレンスの間にMoto2のレースがスタートしてしまったのですが、ライダーたちはMoto2のスタートの様子が気になって質問に答えられないので、スタートから1周目の途中までは一旦中断。最初の部分をみんなで会場内のスクリーンで見届けてから再開、という場面も見られました。

レース後のプレスカンファレンスの名札。

 パドックを出て観客席の方に向かうと、各ブース、様々な展示やトークショーなどを催して盛り上がっていました。

 ホンダのブースの目玉は、メリーゴーラウンドのように回るバイクのまたがり体験。レプソルホンダのRC213Vをはじめとする4種類のバイクにまたがることができ、そのうち3つはコーナリングの姿勢で乗車できました。

 私も体験してみましたが、意外とキツい……。約1分間、この姿勢のままで2周回るのですが、後半は腕も太もももプルプルしていました(笑)。3月に行われた第50回東京モーターサイクルショーや7月の鈴鹿8耐でも同様のものがブースで行われていたようですが、今回はコーナリング姿勢のものを増やしたということもあり、常に長蛇の列ができていました。

マルケス号でハングオン!

 ヤマハのブースでは、発売予定の新車が展示されていました。その中でも、『XSR125』というバイクがクラシックスタイルで可愛くて気になりました。実際にまたがってみたところ意外と車高が高くて驚きましたが、乗る分には問題なく、私の気になるバイクリストに追加されました! このバイクは2021年に欧州向けに発売されたもので、日本でも近いうちに発売されるようです。

日本でも発売予定のXSR125。クラシックでかわいいバイクでした。

 今回の日本GPのブースの中でも特に、「日本人ライダー応援ショップ Go! Japan Rider!」が気になった人は多かったのではないでしょうか。このショップは故・加藤大治郎さんのグッズを取り扱うDaijiro.netのショップに併設されており、Moto2、Moto3の日本人ライダーの応援グッズが並んでいました。ブースは盛況で、金曜日の午後に訪れた時にはすでに小椋藍選手のシャツの一部サイズは完売、その他品薄なものがいくつか出てきていました。

 このブースに関しては、ひとつ隠れネタがあります。日曜日のMoto3クラスの決勝で2位表彰台を獲得した佐々木歩夢選手が、故・加藤大治郎さんの使用した日本国旗をウィニングランで振ったというのは多くの人が知るところだと思いますが、実はその旗は、金曜日の時点ではこの日本人ライダー応援ショップに飾られていたのです。加藤大治郎さんが使用し、金曜日にはお客さんを出迎えた日本国旗が、レースの後、日本人ライダーによって振られていたというのは、なんとも胸熱な話だ……と感動しながら、佐々木選手のウィニングランを眺めていました。

故・加藤大治郎さんが使用した日本国旗がなびく日本人ライダー応援ショップ。この側が日曜日には……。

 観客席の方では、美味しそうな食べ物の露店が並んでいます。ヨーロッパのいくつかのサーキットでMotoGPやSBKを観戦しましたが、間違いなく言えるのは、サーキットグルメは日本GPが圧倒的No.1ということです。ヨーロッパのGPでは各観客エリアにつき食べ物のお店が大体ひとつのみ。どこも同じものしか置いておらず、ピザやサンドウィッチ、ポテトチップスと飲み物類だけであることがほとんどです。たまにアイスクリームショップを見つけると嬉しくなるレベルでした。

 ところが、日本GPでは選ぶのがほんっっとうに大変なくらい選択肢が多く、しかもどれもとても美味しそう。グランドスタンド裏の露店だけでなく、特設されたビクトリースタンドの裏にも、素敵な匂いを漂わせるキッチンかーが並んでいます。

 私も、取材のために向かったのにも関わらず、大好物の牛タンを見つけて思わず購入。サーキットでこんなに美味しいものが食べられることがいかに素晴らしいことか……と噛み締めました。

ホスピタリティガーデンの牛タン串、美味しかったです!!!

 この辺りでは、何人かの観客の方にインタビューを試みました。海外からのお客さんにも留学で身につけた(?)英語やスペイン語を活かし、頑張って話しかけました。意思の疎通はバッチリできたのでひと安心。世界中からのユニークな観客と話すことができて、とても良い経験ができました。

 入場口の外に出ると、金曜日から日曜日まで、1日2回ほど、KTM所属のRed Bullアスリート・アルナス・“アラス”・ギビエザがスタントショーを開催していました。使用されていたバイクはKTMの『890 Duke R』。私もそのバイクに乗ったことがありますが、同じバイクとは思えないほど軽々しく飛んだり跳ねたりしていて驚愕しました。私が見た回は、ちょうど金曜日の走行終了後ということもあり、隣のステージで開催される前夜祭を見にきた人や帰ろうとした人が足を止めてスタントショーを見ていて、金曜日からとても盛り上がっていました。

レッドブルアスリート・アラスと彼のアシスタントと。

 そんなこんなで、レース以外にも内容盛りだくさんなMotoGP第14戦日本GPでした。余談ですが、木曜日の夜に、ギリシャのテレビ局の人から、日本でバイクがあまり人気ではないのはなぜか、という題材でインタビューを受けました。日曜日の決勝の合間に流れるトピックとしてのコンテンツらしく、「これで君はギリシャで有名人だね!」と言われました(笑)。

木曜日の夜、ホームストレートの端でインタビューを受けました。

 観客ではなく、取材する側としてサーキットに行くのは初めてでしたが、他の編集の方々や多媒体のジャーナリストの方などの仕事を実際に生で見ながら勉強でき、多くのことを吸収できた4日間でした。とはいえ、取材の場面で自分の力量に歯痒さを感じた場面も多くあったので、これからまた勉強の日々です。

 MotoGPは1週間のインターバルを経て、今週からインドネシア、オーストラリア、タイと3連戦です。最後6戦、タイトル争いも加熱してくるタイミングです。各ラウンド注目して参りましょう。

 最後まで読んでいただきありがとうございました!

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