自民が杉田、松川両議員を重用 「歴史戦」担い手で共通 対外的に懸念 

国会議事堂(資料写真)

 自民党が杉田水脈、松川るいの両議員を要職に起用し波紋を呼んでいる。杉田議員はアイヌ民族や在日コリアンの人々をやゆした投稿を札幌法務局が「人権侵犯」と認定。松川議員も党女性局によるフランス研修で批判を集めたためだ。実は、2人は日本軍「慰安婦」問題などで歴史修正主義的な主張を広める「歴史戦」の有力な担い手という点で共通しており、重用は外交の場での「歴史戦」重視の表れとの見方がある。日本による植民地支配や侵略戦争の犠牲者の尊厳を踏みにじるメッセージを対外的に発信しかねないとして、懸念が広がる。

 自民党は杉田議員を党環境部会長代理、松川議員を副幹事長と国防部会長代理に起用した。「2人ともコア(核)に『歴史戦』がある」と指摘するのは、「慰安婦」問題を中心に官民の歴史否認の問題を研究する米モンタナ州立大准教授の山口智美さんだ。

 「歴史戦」とは「慰安婦」や南京大虐殺などの歴史問題について海外で日本に批判的な歴史認識が通用しているとして、「政権の認識」を主張しようとする動きだ。

 海外で政府が「慰安婦」関連の碑や像の撤去を求める動きもこの一環だ。2022年1月にはNHKが、安倍晋三元首相が第2次安倍政権以降に「歴史戦チーム」を官邸につくったと報じている。

◆歴史修正主義で人気

 「出世するきっかけから全て、『歴史戦』が絡んでいる。それまで主に右派では男性が活動していた『慰安婦』問題に女性であることを打ち出しながら関わり、盛り上げる役割を大きく果たした」。これが山口さんの杉田議員評だ。

 12年の衆院選で日本維新の会から当選した杉田議員は、翌13年に「慰安婦」をモチーフにした「平和の少女像」が設置された米国・グレンデール市を訪問して撤去を要求。14年2月の衆院予算委員会では少女像に触れながら〈私たちが対峙(たいじ)しないといけないのは、うそも百回叫べば真実になると言っている中国や韓国の報道活動、政治宣伝〉などと発言し、「神質問」と右派の注目を集めた。

 党分裂で次世代の党に移り、14年に落選した後も積極的に右派論壇誌への執筆など「歴史戦」活動を続けた。16年には「慰安婦」問題について右派の立場から働きかけようと、国連の女子差別撤廃委員会に参加。なお、その際にブログに投稿した〈チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場〉〈同じ空気を吸っているだけでも気分が悪くなる〉との発言が今年9月に「人権侵犯」と認定された。

 一連の活動が安倍元首相の目に留まり、17年に自民党の公認候補として衆院選比例ブロックで当選、政界に返り咲いた。

 熱心に取り組んだ「慰安婦」問題では「性奴隷ではない」「強制連行はなかった」などと歴史修正主義者が繰り返してきた典型的な正当化論を唱えた。

 数々の発言の中でも山口さんが「圧倒的にすごい」というのは、共著書「『歴史戦』はオンナの闘い」(PHP研究所、16年)での「慰安婦」像に関する記述だという。

 〈建つたびに、一つひとつ爆破すればいい〉

 「爆破テロを呼びかけるようなとんでもない内容。浪人中の発言だから問題ないという人もいるが、彼女は現在もあの発言を反省も撤回もしておらず、開き直ったような交流サイト(SNS)の投稿が残っている」と山口さんは指摘する。

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