北村薫さん、朝比奈秋さん 第51回泉鏡花文学賞

北村薫さん(新潮社提供)

  ●「水 本の小説」と「あなたの燃える左手で」 8年ぶり2作選出

  ●「中学時から敬愛の作家」「生誕150年の節目に光栄」

 金沢市が制定する第51回泉鏡花文学賞は12日、北村薫さん(73)の「水 本の小説」(新潮社)と、朝比奈秋さん(42)の「あなたの燃える左手で」(河出書房新社)の2作品に決まった。同時受賞は2015年の第43回以来8年ぶり。電話取材に応じた北村さんは「鏡花は中学生の頃から敬愛していた作家だ」と話し、朝比奈さんは「鏡花生誕150年の大きな節目に受賞できて光栄」と喜びを語った。

 北村さんの受賞作は7編からなる短編集。表題作の「水」は金沢を舞台としており、「鏡花には『高野聖(こうやひじり)』をはじめ独自の表現に感銘を受けた。鏡花ゆかり、そして水の美しい金沢の賞をもらえてうれしい」と述べた。

 朝比奈さんも「高野聖」を読んだことがあるとし、「妖(あや)しく、美しく、きれいで独特のリズムがある」と鏡花の印象を語った。クリミア半島へのロシアの侵攻を題材とした受賞作については「全ての登場人物に敬意を払って一歩ずつ書いた」と創作過程を振り返った。

 北村さんは自宅で夕食中、朝比奈さんは美容室で髪を切っている時に、それぞれ受賞の連絡を受けたという。

 選考委員会は都内で開かれ、五木寛之、村田喜代子、村松友●(祇の氏が見)、嵐山光三郎、山田詠美、綿矢りさの6氏全員が出席した。

 山田氏は「熟練したベテランときらりと光る若手。対照的な作家を同時に選ぶことができた」と選考結果に胸を張った。村松氏は「どちらも落とせない力がある作品だった。意義深い同時受賞となった」と強調した。

 泉鏡花文学賞は1973(昭和48)年、金沢市が全国で初めて自治体主催の文学賞として制定。今回は昨年8月1日から1年間に単行本として発行された文芸作品から「ロマンの香り高い作品」を選考した。

 北村さんと朝比奈さんには八稜鏡(はちりょうきょう)と、今回から50万円増額された副賞150万円がそれぞれ贈られる。

 

 ★「水 本の小説」 「手」「糸」「水」など7編からなる短編集で、全編を通じて本の新たな「読み方」を提示している。犀川、浅野川が流れる金沢を舞台にした表題作「水」は、徳田秋声について昭和の文学全集を糸口に評価し、金沢が文学の街であることを筆者の視点で示した。

 ★きたむら・かおる 1949年、埼玉県生まれ。早大第一文学部卒。91年に「夜の蝉」で日本推理作家協会賞、2006年に「ニッポン硬貨の謎」で本格ミステリ大賞、09年「鷺と雪」で直木賞を受賞した。

 

 ★「あなたの燃える左手で」 ハンガリーの病院で看護師として勤務していた日本人アサトは誤診で左手を切断され、後遺症に苦しむ。ジャーナリストの妻が紛争により死亡する中、他者の左手を接合する手術を行ったアサトは、やがて自身の体で拒否反応を起こす手から、自他の境界や曖昧な大陸間の国境線に思いを巡らせる。

 ★あさひな・あき 1981年、京都府生まれ。医師として働きながら2021年に「塩の道」で林芙美子文学賞、23年には「植物少女」で三島由紀夫賞を受賞した。ほかの著書に「私の盲端」。

朝比奈秋さん(撮影/石渡朋)

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