生と死をめぐる2つの物語を実験的アプローチで紡ぐ 小辻陽平監督の長編「曖昧な楽園」公開決定

2023年10月23日より開催される第36回東京国際映画祭のコンペティション部門に正式出品される、小辻陽平監督の長編デビュー作「曖昧な楽園」が、11月18日より劇場公開されることが決まった。

「曖昧な楽園」は、交通量調査員をしながら同居する母の介助をする達也と、宇宙基地のような巨大団地に住む植物状態の老人を世話するクラゲという、決して交わることのない生と死をめぐる2つの物語を、SF映画のような独特の雰囲気で描き出した167分のロードムービー。「曖昧で不確かな瞬間をこそ映したい」という監督の信念のもと、脚本作りから演出まで、”即興”を重視した手法が採用され、監督と俳優たちはつねに対話を重ねながら物語を構築したという。

また、一足先に本作を鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。

【コメント】

■諏訪敦彦(映画監督)
あなたがカメラの前に立ってくれて、私がそれを撮影する。あなたが映画のなかに存在することの感動。他には何もいらない。ただそれだけで奇跡的なことなんだ…。映画を撮っていてそう思えた瞬間があったことを思い出した。物語ることよりも大切な瞬間がある。死んでいることと生きていることの隙間を彷徨う者たちの静止したような時間が重ねられる中で、映画は彼らが「存在すること」と出逢おうとする。交通量調査をする達也にとって無為な時間に堆積する母親の抑圧が感情に点火する瞬間が訪れるが、雨とクラゲの場合、発火する感情もないまま死に接近し、生きているものと死にゆくものとの存在の差を測定するように彼岸への道行きを開始する。彼らは孤独であり、世界と断絶した闇の中にいるのかもしれないが、『曖昧な楽園』は希望を捨てない。映画=カメラはそれが誰であれそこに写る者を決して否定しない奇跡的な装置であることをこの映画がよく知っているか らだと思う。この果敢な挑戦を讃えたい。

■月永理絵(ライター、編集者)
時が止まったような巨大な団地。足元でかすかに点滅する光。車が行き交う灰色の道路。まるで遠い星のどこかを映したような無機質さにまず引き込まれた。そしてそこを行き交う人々はみなぼんやりと輪郭を失っていて、なるほどこれは SF 映画なのだと確信したが、その確信は間違いだったかもしれない。でもたしかにここに映るのは、どこかには存在するがどこにも存在しない場所であり、私はその曖昧さに惹かれたのだ。

■やまだないと(漫画家)
現実を生きる為の非現実。哀しみのない世界を夢みて悲しみを受け入れる。

■髙橋泉(脚本家)
生きていない生。死んでいない死。その曖昧な時間が見事に紡がれる。
時折り青く燃え上がり、音を立ててパチパチと弾ける。送り火を⾒守っている時のように、気持ちが澄んでいく。好みを超えて食らってしまった。

■小川あん(俳優)
実体を掴もうとするほど、するすると零れ落ちていく。思いを口にすると、自分の言葉じゃなくなってしまう。そんな時、内に残るのは“曖昧”な感覚。私は一生この感覚から逃れられないでいる。けれど、この映画はそんな “曖昧”が溶けていく。溶けて、音を立てず静かに消えていく。情緒の流れるところに。

■仙頭武則(映画プロデューサー)
『曖昧な楽園』には映画づくりに対する真摯な姿勢が映っている。それは、小辻陽平の日々を生きる姿。

■小原治(ポレポレ東中野)
生も死も、交わらない2つの物語も、翳りの中でスペクトラムに関わり合っている。
ショットの一つ一つ、その一秒一秒が、目の前からはぐれてしまった世界との関わりを取り戻そうとするかのように。
そこに映画の呼吸が生まれている。
全 10,063 秒。こんな呼吸を共にするために映画館の暗闇がある。
『曖昧な楽園』を映画館で味わってほしい。

【作品情報】
曖昧な楽園
2023年11月18日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

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