馬と暮らす昭和30年の十勝を再現した短編映画「馬橇の花嫁」逢坂芳郎監督インタビュー

クラウドファンディングで支援を募る短編映画「馬橇(ばそり)の花嫁」が2024夏公開予定

馬と人が一緒に暮らしていた昭和30年の北海道十勝の農村を舞台に、当時を生きた人たちの姿を映画で伝えるプロジェクトがあります。作品名は「馬橇(ばそり)の花嫁」。白黒短編映画で、25分程度の作品になる予定です。

「馬橇の花嫁」は秋編の撮影が完了し、編集と来年冬のシーンの撮影準備を進めています。完成は2024年夏。自主制作作品のため、制作協力への支援を募っています。監督の逢坂芳郎さんにプロジェクトへの想いを聞きました。

(聞き手:SODANE編集部 松倉英男)

映画「馬橇の花嫁」あらすじ

昭和30年、十勝の農村。家族や村人たちは馬と共に汗を流し、農作業に励んでいた。家族の中で頑張りものの長女一子(かずこ)は、青年部の納会で若きリーダー・豊に惹かれる。

村祭りで一子は歌を歌い、豊かと心を通わせ、二人は丘で身を寄せ合う。冬の終わり、花嫁姿の一子は家族に見送られながら馬橇に乗り、豊の元へ走りだすー

逢坂芳郎監督インタビュー

― (松倉)この映画はどういうきっかけで制作を?

逢坂:5年前ぐらいに出会ったこの写真がきっかけです。

帯広のパン屋さん「満寿屋本店」にパンを買いに行ったときに、たまたま掲げられているのを見たんです。今まで見たことがないような写真に「スゴイ映画的だな」と直感で思って。これ映画に出来ないかなというのが制作の始まりでした。

― 映画的というのは?

逢坂:この景色にこの花嫁、ジャパニーズ着物を着たブライド(花嫁)が雪の上で走っていくっていうのは世界的に考えても見たことがない。映画のラストシーンにスゴイ合うと直感的に思って「これいつか映画にしたい」と思ったところから始まります。

― たしかにドラマチックですね

逢坂:そうなんです。でもそのきっかけから"バーン"と動いたわけではなくて。まずは実際にこう言った嫁入りをやったことがある人にお話を聞こうというところから始めました。知り合いの知り合いの知り合いを辿って、何人か当時の花嫁、今では90歳前後のおばあさんと会って、その時の話を聴いてたんですよね。

そんなタイミングでコロナがあって。ちょっと中々映画を撮れる環境になかったので、一旦制作をお休みして違うことをやっていたのですが、またこれを撮るために北海道に移住してきました。地元の方にこのプロジェクトの話をすると、結構「うちの祖母とか母がそれで嫁いでいきました。懐かしい」とか、関心を持ってくれる人がスゴイ多いなと感じてきて。

初め元々個人的に僕がこれを見て「やりたい」と思っていた部分があるんですけど。地域の人たち、先輩方、この時代を支えてくれた先輩方に「恩返し」みたいな気持ちもモチベーションになってきました。そういう気持ちと、この写真とが段々重なってきて。進んだプロジェクトだと思います。

昭和35年頃までいた「馬橇の花嫁」

― 馬と暮らし、馬橇で嫁ぐ。こういった風習はいつ頃まで?

逢坂:(十勝の農家が)馬で馬耕していたのは昭和35年ぐらいがピークで、それ以降はトラクターが一気に普及しました。40年入る前に馬耕ほぼなくなるんですけれども、それまではやってた風習です。

― もっと前の話かと

逢坂:この写真自体は昭和31年か30年なんで、まだ(馬橇は)やってましたね。もっと前の時代、うちの祖母とかは昭和25年に結婚してるんで「結構周りはやってたよ」って言ってました。ただいつ始まったかがわかってないです。

― そうなんですね!

逢坂:だいたいいつ頃この風習が終わっていったかはこのような馬での農業が終わったと共に、というのでわかるんですけど、始りはいつなんでしょうね。

― どのような映画なんですか

逢坂:短編、そして白黒の25分ぐらいを目指して創ろうと思っています。この花嫁が馬橇に乗って結婚式の当日に馬橇に乗って出発していくっていのがクライマックス、エンディングなんです。それまでの農家の家族のポートレートというか、農作業のシーンがあったり。「豊」っていう男性との出会いというか、恋に落ちるシーンがあったり。結婚の挨拶があったり。すごく、なんていうんですかね。その当時のポートレート的な、家族の典型的なシーンを繋ぎ合わせて、映画になっていきます。撮影は8割がた終わって、あとは冬の撮影を残すだけです。

昭和の暮らしを令和に再現

― 昭和30年代を再現するのは大変では?

逢坂:衣装や美術にはだいぶ時間をかけてます。まずその家。北海道のあの頃の家は手入れをしないと毎年の冬ごとに悪くなっていくので、ほとんどが潰されてしまっていました。残っているものはやっぱり少なくて…。だいぶ探して探して大樹町に見つけたのがロケ地です。家主が趣味でも使っているという家だったので形は良くて。中もちらかってたんですけど、アライグマとか入ってて(笑)。しっかり掃除しました。

― アライグマが!

逢坂:あと馬小屋。これは家と馬小屋が隣接してるっていう映画にとって必要なものが揃っていたのですが、屋根と壁が現代のものでリフォームされてまして…。それを逆に戻すという作業をしました。当時の家を解体している家の現場に行って「その屋根、解体する前にもらっていいですか」と聞いて(笑)。一枚一枚剝がして、ロケ地の馬小屋につける作業をしたり。

― 屋根は鉄板ですか?

逢坂:鉄板です鉄板です。鉄板というかブリキみたいな雰囲気のやつですね。こういった、家屋の時代を遡らせるような作業をしました。それはでも地元の大工さんがボランティアでしてくれたんですけど。

― 手弁当のプロジェクトでそこまでやるのは大変ですね

逢坂:そこも僕はすごく思っています。このように手を貸してくれる大工さんがいたり、ヘアメイクも今回十勝の方なんです。この方はヘアメイクが好きな人で、昭和のヘアアレンジをするのが趣味な人なんですよ。こういった方がいてくれたので、普段からその業界に関わっている方ではなくても大丈夫!というのは思っていました。それで(映画を)創れますよ、というのを示したかったのもあります。なので全然。東京から来たスタッフが大工が作ってくれた屋根を見て「これ、やったんですか…!」みたいな。スゴイって言って驚いいてましたけど。へへへへ(笑)。大変なんですけど、楽しみながらやりました!

― 役者の皆さんは?

逢坂:主人公二人は道外の人なんです。(花嫁役の)東盛あいかさんは一番遠い沖縄の与那国からの参加です。与那国をベースにして役者兼監督で活躍している方で、2年か3年前に学生や若い人の登竜門になっている映画祭「ぴあフィルムフェスティバル」で、京都の造形大在学中に卒業制作で創った与那国の映画がグランプリを獲りました。僕たまたまその映画を観たんですけが「すごく存在感がある人だなぁ」と思ってたんです。この話にもすごく合いそうだなぁってその時から思っていて。今回お声がけして来てもらったという感じです。

(夫・豊役の)田中陸君は東京で俳優をやっている人。田中君もおなじように映画祭で見かけて、その時代にピッタリな風貌だったんで。ハイ。映画祭の時点でちょっと声かけて「こういうこと考えていていつかやろうと思っているから、決まったら連絡していいですか」って声をかけておいたんですよね。そういう二人です。

逢坂:そういった若くて才能のある人たちを呼びつつ、お父さんお母さん役となった(父親役の)八下田智生さんは十勝の人で、(母親役の)磯貝圭子さんは札幌の劇団の方。阿部浩貴さん竹森巧さんは(お笑いコンビ)「アップダウン」のお二人という、若手からベテランまで、東京と地元もこう…混ぜた感じ。

スタッフでいうとカメラマン、音声は東京から。カメラマン以外の撮影部と照明部は札幌からという感じですね。衣装も札幌。でもヘアメイクは十勝。

― 相当お金が要りそう。それでクラウドファンディングを

逢坂:そうですね、そうです(笑)。今月末で一回、クラウドファンディングは締切にしようと思っているのですが、クラファンを通じてこの話を知った高齢者の方はすごく興味を持ってくださることが多くて。支援したいと言ってくださる方も多いんですけど、クラファンのやり方がわからない方向けに急遽今回チラシを作りました。これ(口座振込)もできるようにしたんですよね。口座振り込みは今月末締切ってわけではなく、ずっと募るという感じで。映画を創っています。

馬がいると優しい気持ちになれる

― このインタビューの読者の方にメッセージを。

逢坂:今支援してくださっている方には馬のコミュニティの方が多いんです。現時点のクラウドファンディング支援者の3割ぐらいだとおもうのですが、馬文化を守りたいという思いを持つ方や、実際に出ている役者馬「桃姫」のファンの方。そういった馬のコミュニティの人たちは、結構楽しみにしてくれていると思います。そういった方々には、こういう映画を今作ってますよ、というのはスゴイ届けたいと思っています。やっぱり撮影していて、この映画に携わる中で馬としばらく過ごして思ったんですけど、馬がいる前ではなんか争いが起きないっていうか喧嘩も起きない。なんか"みんな優しい気持ちになれる"みたいなことを感じます。すごくいい雰囲気だったなぁと思うし、馬の存在の大切さっていうのはすごく僕たちも撮影していて感じました。もっと広く言うと動物だと思うんですけど、「馬との暮らし」っていう感覚をこう、共有したいなぁという想いはありますね。

― 馬との暮らし!

逢坂:あとは昭和30年代の風景。これは地元の人たちに向けた、北海道の人たちに向けたようなメッセージなんですけど。その頃の時代、時代の風景を映像で復活させるという機会はなかなかないと思うんで。ぜひ、ご支援をお願いという感じですね!どっちにしろ頑張って完成させますけれども、ご支援いただけると、ほんとありがたいです。

「馬橇の花嫁」支援者募集中!

馬と生きた昭和30年代の北海道十勝の暮らしを映像で再現するプロジェクト。逢坂芳郎監督の短編映画「馬橇の花嫁」は2024年夏の完成予定です。制作への支援をクラウドファンディングで広く募っています。下記CAMPFIREのサイトでも逢坂監督が映画に注ぐ熱い想いが語られていますのでぜひチェックしてみてください。

CAMPFIRE「先代が培ってきた十勝の歴史。映画として残すことで、過去と未来をつなぐ財産にしたい」:https://camp-fire.jp/projects/view/687572

逢坂芳郎監督 プロフィール

1980年北海道・幕別町生まれ。ニューヨーク市立大学ブルックリン校で映画製作を学び学士号を取得。帰国後、フリーランスの映像作家として東京を拠点に活動を開始。CM、ドキュメンタリーなど多岐にわたるジャンルの撮影・編集・製作を行う傍ら、自主映画を製作。近年はアジアを舞台としてプロジェクトに参加。2014年と2016年に十勝の魅力を発信する短編映画『my little guidebook』を製作し、共に札幌国際短編映画祭で北海道監督賞を受賞。2021年にコロナ禍のカンボジアを舞台とした『リトルサーカス』を製作。国内外10以上の映画祭で上映され、上海国際映画祭金爵賞短編部門に選出。2022年より帯広市在住。

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