合言葉は「刺しゅう文化をアップデート」 建築学んだ3代目の思いとは

新工場のギャラリースペースでファブリックパネルを紹介する山下さん(舞鶴市福来)

 6月に完成した新工場2階に、ギャラリースペースを設けた。スペースは明るく開放的で、ファブリックパネルやクッションが室内を彩る。幾何学模様や抽象画のようなデザインなど見た目はさまざまだが、全て刺しゅうで作られたものだ。

 1966年に創業した京都府舞鶴市福来の刺しゅう会社「三葉商事」の3代目、山下正人さん(32)=同市倉谷。西舞鶴高から京都工芸繊維大に進学し、建築を学んだ。大手ハウスメーカーに就職後は約6年間、福井県で仕事をしていたが、新型コロナウイルス禍で思うように営業活動ができず、2020年に舞鶴へ戻り家業を手伝うようになった。

 「いつかは家業に入ろう」と就職前から思っていたものの、刺しゅうに関しては素人同然。工場で一から作業を学びながら、後継ぎとして経営や企画にも関わっていった。

 父で社長の武志さんはアパレルメーカーの海外移転に伴い売り上げが激減したことを受け、下請けだけではない刺しゅう会社のあり方を模索。お守りや子どもの名入れグッズなどの直接販売に力を入れてきた。

 正人さんはそれらに加えて、刺しゅうの新しい可能性として「空間を彩る」ことを追求する。大学や就職先で建築に関わってきたからこその発想だ。インテリアのアクセントに刺しゅうを取り入れ、独特の風合いや重厚感を楽しむことをギャラリーで提案している。まだ試作段階だが、販売への具体化も進んでいるという。

 家業に入り約3年、刺しゅうは単なる加工技術ではなく、発注者や作り手の思いを表現する一つの文化であるとの思いが強まった。「刺しゅう文化をアップデート」を合言葉に試行錯誤を続けている。

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