第百一回「最良のロック・ミュージックとは、ローリング・ストーンズの『レット・イット・ブリード』のことを言う」

ローリング・ストーンズが新しいアルバム(『ハックニー・ダイアモンズ』)をリリースします。先立ってシングル「アングリー」という曲がラジオで流れてきました。ミュージック・ビデオもあったので見てみますと、セクシーな女性が車の後部座席にいて、うねるように踊り、車の走る前方には、次々とストーンズの看板があらわれ、そこには昔のストーンズのライブやアルバム・ジャケットが映っていて、その中のキースやミックが動き出すといった、たいへん凝った作りになっていて、ミックやキースは、やはり格好良く、ミュージック・ビデオも面白いものでした。それにキースのギターはやっぱりキースの音で、あの人、本当にとんでもないギタリストなのだと感じる次第です。

しかしこのような面白いミュージック・ビデオを見たり、キースとミックとロン・ウッドが歩いているアルバムの宣伝写真を見たりすると、ブライアン・ジョーンズはいないのかとか、チャーリー・ワッツも亡くなってしまい、ベースのあの人もいないんだとも思えてくるのでした。 なにはともあれ現役で活動しているのは凄いし、2023年になってストーンズの新曲を聴けるとは思ってもいませんでした。けれども、この新曲を聴いていたら、それ自体に興奮するというよりも、過去のストーンズの音楽を無性に聴きたくなってきました。

そこでわたしは、『レット・イット・ブリード』と『山羊の頭のスープ』を聴きました。それにしても、『山羊の頭のスープ』って、相当にカッチョ良い題名だとは思いませんか? 英語だと“Goats Head Soup”で、そのまんま“山羊の頭のスープ”なのですが、不穏で意味のわからない感じが最高です。 漫画家の根本敬さんの漫画に『亀ノ頭のスープ』というものがあって、『山羊の頭のスープ』以上にぶっ飛びまくっていて、凄い作品なのですが、これもいい名前だな、そもそもわたしは、スープと名前が付くものが好きなようで、拙著で申し訳ないですが、わたしの最初の本は、『まずいスープ』というものでした。

でもって、今回紹介したいのは『山羊の頭のスープ』といいたいところですが、『レット・イット・ブリード』が良いかと思います。このアルバムは、とにかく名曲だらけで、どの曲が良いとか決められません。ロバート・ジョンソンのカバーもあったりして、聴くほど、最良のロック・ミュージックってこういうものなんだと、思えてきます。 余談ですが、アルバムの最後の曲、「無情の世界」(You Can't Always Get What You Want)は、映画の『ミニオンズ』で、ミニオンズたちがカバーしていて、これも良いのです。ミニオンズという、あのわけのわからない生き物がカバーしても良いのだから、名曲に決まっています。 それで今回の新しいストーンズのアルバムは、もちろん、ストーンズのことをずっと好きだった人たちは嬉しい限りですが、これでストーンズを知る若い人たちは、どんな感じなのでしょう? もし、このアルバムが初めてのストーンズだという方々には、どんどん掘り下げて、他のアルバムも聴いて欲しいと思うのは、わたしだけでしょうか。

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