北九州市はなぜサーチファンドと連携できたのか?関係者に聞いた

遠藤大介 北九州市産業経済局地域経済振興部中小企業振興課長

北九州市が全国の自治体として初めてサーチファンドと連携協定を結んだ。サーチファンドの仕組みを活用して市内企業の事業承継を後押ししようというのがその狙いだ。

そこで、担当部署である北九州市産業経済局地域経済振興部中小企業振興課の遠藤大介課長に連携協定締結に至った経緯をお聞きするとともに、協定を結んだ山口キャピタル(山口県下関市)の伊藤忠志代表取締役と、Growthix Capital(東京都中央区)の中島光夫代表に、北九州市への思いやビジネスの可能性などをお聞きした。

2社とタッグを組み事業承継問題解決へ

遠藤大介 北九州市産業経済局地域経済振興部中小企業振興課長

―事業承継にサーチファンドを活用することになった経緯をお聞かせ下さい。

北九州市では平成29年度から事業承継支援に取り組んできました。経営者や後継者の方向けに、事業承継にあたっての準備や手続きなどに関するセミナーや相談窓口の開設、M&Aの仲介手数料や事業承継計画策定のコンサルティング費用などの助成を行っています。

昨年、市が市内中小企業約2万7000社を対象とするアンケートを行い、回答いただいた約9000社のうち約42%の方が「後継者がいない」という回答でした。ボリューム的には3700社が後継者不在の状況にあり、その内、約23%の企業が「社外の第三者への事業承継を検討する」という回答でした。

こうした第三者への事業承継を検討されている中小企業に対して、行政として何か支援できないかと考える中で、サーチファンドという手法に注目しました。

いろいろとリサーチする中で、北九州を地盤とする金融機関グループの一員である山口キャピタルさんが、サーチファンドを立ち上げておられ、しかも国内の案件成立第一号が北九州市内の企業であることを知りました。

また、Growthix Capitalの中島代表は北九州市のご出身ということもあり、北九州市の事業承継の課題解決に大変熱意をお持ちで、この2社とタッグを組むことで、市内の中小企業の事業承継問題を解決に導けないかと、昨年度から検討を進めてきたというのが経緯です。

-自治体としては全国初の取り組みです。何か問題はありませんでしたか。

特に大きなハードルといったものはありませんでした。サーチファンド事業者である両社と連携協定を締結したという点では全国初ですが、すでに福井県さんが令和4年度からサーチファンドと事業承継支援に取り組まれているという事例がありましたので、参考にさせていただきながら、今回、連携協定という手法を選択しました。協定締結には、お互いの役割をしっかり明確化したいと思いがありました。

-今後の取り組み計画をお教え下さい。

9月に連携協定を締結しましたので、実際の活動は10月以降になります。今年度は立ち上げの時期になりますので、まずはセミナーなどの開催により、サーチファンドとはどういった仕組みなのか、実際にサーチファンドを活用して事業承継された事例、経営者になられた方のお話などについて、市内中小企業の経営者の方々に知っていただくことに取り組みます。

-成果についてはどのような目標をお持ちですか。

年度内に2件程度、マッチングの場を提供できればと考えています。本格的にマッチング件数を増やしていくのは、次年度以降のステージになります。マッチングを含め、事業承継は丁寧に進めていく必要がありますし、相応の時間を要するものと考えています。

-他の自治体の方へのアドバイスをお願いします。

サーチファンドを活用した事業承継は、国内ではいまだ黎明期にあると思います。そうした状況の中で、私たちが早期に取り組むこととしたのは、全国から優秀な経営者候補人材をなるべく早く北九州市に呼び込むことで、企業の成長や地域の活性化につなげたいという狙いがあります。

他の自治体さんについては、それぞれ地域の産業構造なども異なるかと思いますので、地域の実情を踏まえながら制度設計を行うことになるのではないでしょうか。


ハードルはあまり高く考えないで

中島光夫 Growthix Capital代表

-今回の連携についてどのような思いをお持ちですか。

私は28歳のころに、事業承継問題に寄与したいという一心で仲間と共に今の会社を起業しました。その時からずっと地元、北九州市のことが念頭にあります。

地元の友人の話しを聞いたり、さまざまなデータを見て、北九州市の現状は分かっていました。事業承継は全国の問題であり、日本の経済復興や雇用を守るといったことへの思いはありますが、やはり地元に貢献したいという気持ちが強くあります。

今回、北九州市と連携協定を結ぶことができて、言葉にすると大変シンプルですが、「嬉しい」「地元のためにがんばる」という気持ちですね。

-ビジネスとしてはどのような位置づけなのでしょうか。

M&Aに従事してきた人間として、企業に会社を譲渡するのに、どれだけ時間がかかるのか、売り手と買い手が相思相愛になるのはどれだけ難しく確率が低いのかということを、経験しています。

このままでは事業承継が必要な会社を救うことができません。サーチファンドが普及し、個人が承継することでしか日本の事業承継問題を解決する方法はないと思っています。

-サーチャーを志す方にアドバイスをお願いします。

サーチャーは最終的に経営者になるわけですが、ハードルはあまり高く考えないでほしいと思います。日本では経営者保証をはじめ、さまざまな制約があり、経営者になるハードルが高すぎるきらいがありますが、みんなでサーチャーをバックアップしていきますので、挑戦してほしいと思っています。

中小企業を理解できるかどうか

伊藤忠志 山口キャピタル代表取締役

-今回の連携協定についてどのような思いをお持ちですか。

北九州市には関連会社の北九州銀行(山口フィナンシャルグループ傘下)の本店があります。また、サーチファンドの国内初案件は北九州市内の企業で、我々がこの案件にかかわりましたし、私自身も北九州市内で勤務経験があるため、北九州市とは深い縁を感じています。

北九州市はセミナーをはじめ、さまざまな活動に取り組んでおられ、事業承継支援に熱心な自治体だと思っています。サーチファンド自体はほとんどの方が知らない状況ですが、事業承継支援に積極的な北九州市と手を組ませていただくことで、サーチファンドの認知度を高め、企業のオーナー様とサーチャーの面談するハードルが低くなるのではないかと期待しています。

-ビジネスとしてどのように位置づけていますか。

サーチファンドは今までにない事業承継の枠組みです。これまでのM&Aや社内承継では実現できなかった事業承継を実現できる画期的な取り組みです。

事業承継の実績を出していくのはもちろんですが、それだけではなく、企業が持続的に成長し、地域を代表する企業になれるようにサーチャーを中長期的に支援していくことで、北九州市の経済活性化や新たな雇用創出にも貢献していきたいと思っています。

-サーチャーを志す方にアドバイスをお願いします。

サーチャーの向き不向きというのは、知識だけではなく、中小企業を理解できるかどうかが一番重要だと考えています。中小企業で働いている人、そしてその周りの地域、取引先のことをきちんと理解できる方が、中小企業の経営者として向いているでしょう。

また、自身のビジネス上の経験・強みをいかに地方の中小企業に生かせるかが、成功のポイントになるかと思います。そこはサーチ活動・プレサーチ活動(兼業可)を通じたオーナーとの対話やインターンシップにて見極めて欲しいと思っています。

文:M&A Online

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