松尾芭蕉ゆかりの茶屋が11月末で閉店 福井県敦賀市の「孫兵衛」 名物とろろそば、閉店惜しむ人が次々

11月末で閉店することになった「民芸茶屋 孫兵衛」と西村夫妻=福井県敦賀市新道

 県内外から俳句愛好家も集った、かやぶき屋根の食事処「民芸茶屋 孫兵衛」(福井県敦賀市新道)が11月末で閉店する。店主は、国の重要文化財に指定されている松尾芭蕉「おくのほそ道」の原本の継承と、滋賀県境との“峠の茶屋”の経営の二刀流を続けてきたが、体力的な理由もあり、50年の節目に合わせて決断した。閉店を惜しむ人たちが名物のとろろそばをすすりに訪れている。

 孫兵衛は西村久雄さん(68)が妻の信美さん(65)らとともに切り盛りしている。久雄さんは、国道8号が塩津街道として敦賀港の荷が京都、大阪へと運ばれた時代から、近江商人の中継問屋として栄えた西村家の16代目。店は15代目の弘明さんが1964年に支配人を引きうけた旅行会社が造ったドライブインがルーツ。73年に滋賀県から築190年の古民家を移築して独立、屋号を店名にした。

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 名物とろろそばは、平安末期の説話集「今昔物語」に記され、芥川龍之介が説話を題材にした短編小説「芋粥(いもがゆ)」のいもが新道付近の山芋だったとされることから、ドライブイン時代からメニューに並べてきた。久雄さんは独立当初から、大阪の調理師学校に通いながら、週末に帰福し腕を振るった。80年に北陸自動車道敦賀―米原(滋賀県)間が開通するまでは右肩上がりで繁盛していったという。

 西村家は松尾芭蕉の「おくのほそ道」の原本とされる、国の重要文化財「素龍本(そりゅうぼん)」などを所有していることから、北陸道開通後も県内外から俳句愛好者が訪れた。久雄さんは所有者として説明役も引き継ぎ、「中秋の名月」の時期にはバスツアーなど団体客も受け入れてきた。

 近年は他業種同様に従業員確保に苦慮することも。久雄さんは体力的な衰えを感じるようになってきたことから「余力のあるうちに」と閉店を決断。店頭に張り紙を出すと閉店情報はSNSや口コミで広がった。惜しむ声も少なくないが「自分としては精いっぱいやってきた。やり切った」とすがすがしい表情で語った。

 営業時間は午前10時~午後2時50分。火曜、水曜定休で11月は土日に休業する場合がある。11月22、29日は水曜だが営業する予定。11月には平日のみ、現代風に復活させた冬季限定メニュー「いも粥」の提供も予定している。問い合わせは孫兵衛=電話0770(27)1653。

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