TK・V系・ビーイングも!「90年代 J-POPの基本」がこの100枚でわかる!ってホント?  リアルタイムの高揚感が蘇ってくる90年代 J-POPのディスクレビュー

豊富な知識を生かした90年代J-POPディスクレビュー

近年、平成を懐かしむ風潮が一種のトレンドになりつつある。「平成レトロ」なんて安易なネーミングはあまり好きにはなれないのだが、それだけ平成も遠くになりにけり、ということか。

そうした流れの一環として、平成、とくに90年代の音楽を振り返る趣旨の企画をよく目にするようになった。今回紹介する『「90年代J-POPの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社新書)もその中の1冊だと言えるだろう。

著者の栗本斉さんはCDバブル華やかなりし90年代に実際にレコード会社に勤めていた経歴を持つライターだ。いわば当時の熱狂を渦中で見つめていた立場であり、豊富な知識を生かしたディスクレビューはリアルタイムの高揚感が蘇ってくるようで読み応えがある。

一世を風靡したメジャーシーンにも満遍なく光を当てて紹介

本書で扱うのはシングルではなくアルバムだ。ただし、漫然と100枚を紹介するのではなく、著者は3つのルールに基づいて選盤したという。

①1990〜1999年まで、毎年各10枚ずつを選ぶ。
②年間チャート上位ということではなく、その年を代表すると思われる作品を選ぶ。
③1アーティストにつき1作品、一番売れた作品ではなく代表作と言えるものや、シーンに影響を与え、時代を象徴すると言えるものを選ぶ。

似たような企画は音楽専門誌や各種Webメディア、あるいは音楽ライターのブログやYouTubeチャンネルでも度々目にすることはあるが、本書は独自のルールと、1枚あたり2ページ分を割いた丁寧なレビューによって差別化に成功している。

また、タイトルで「J-POPの基本」と銘打っているように、専門誌やマニア筋には敬遠されがちなビーイング系、TKサウンド、ビジュアル系といった一世を風靡したメジャーシーンにも満遍なく光を当てているのが本書の最大の特徴である。

たとえばglobeのファーストアルバム『globe』は当時社会現象ともいえるメガヒットを記録したにもかかわらず、この種の企画でフィーチャーされているのを見たためしが無い。だが「時代を象徴する」という意味で外せない1枚であることは異論を挟む余地がなく、こうしたメガヒット作品を斜に構えずにセレクトしているところに本書の誠実な姿勢が垣間見える。

あとがきで著者自身が指摘しているように、ルールを設定したために外さざるを得なかった名盤が幾つも存在するのはやむを得ないことだろう。たとえばサザンオールスターズは90年代に4枚ものスタジオアルバムをミリオンヒットさせているが、そのうち1枚を選ぶとなれば、人それぞれ好みが分かれるのは仕方あるまい。果たして本書ではどの作品が選ばれているのか? 予想しながら読み進めるのも一興だろう。

90年代の商業音楽とは一体なんだったのか?

本書が画期的なのは、時系列の選盤を通して90年代の商業音楽とは一体なんだったのか? その現象自体を暴こうと試みている点だ。「あの時代はとにかくCDが売れまくり、音楽シーンが賑やかった」という漠然とした認識こそ抱いているものの、あらゆるジャンルを包括しながら体系的に説明した本はこれまで無かったように思う。

しかもそれをディスクレビューという馴染み深い形式でおこなっているのだ。『「90年代J-POPの基本」がこの100枚でわかる!』という強気なタイトルも、なるほど納得の内容である。

それにしても、あらためて90年代の音楽的な多様性には驚かされる。「イカ天」に端を発するバンドブームに始まり、空前のタイアップ競争、TKサウンドを軸としたダンスミュージックの台頭、さらに沖縄から次々とトップアーティストが登場したかと思えば、テレビのリアリティショーから破天荒なアイドルグループが飛び出し、幕を閉じた時代――。

これだけでも相当カオスなのに、そこにビジュアル系、R&B、メロコア、ヒップホップといった、従来アングラで支持を得てきたマニアックなジャンルが次々と表舞台に現れ、爆発的な勢いとともにミリオンヒットを成し遂げていくのだ。

全国各地、どこの町にもあったCDショップはまさに音楽ジャングル。さまざまなジャケットを目にし、視聴し、手に取ることでセンスが磨かれ、教養を身につけていった。CDを買うという行為が自己表現の一種だった時代。そんな奇跡のような90年代のJ-POPを楽しむための入門編として、本書は最適な1冊といえるだろう。

カタリベ: 広瀬いくと

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