野外音楽フェス「hoshioto Camp’23」〜 “最高の星空の下で最高の音楽を”ワクワクから地方創生へ

日本で開催される野外音楽フェスティバルの代名詞といえば、ご存じ『FUJI ROCK FESTIVAL(フジ ロック フェスティバル)』(以下フジロック)。

では、岡山で開催される完全インディペンデント(スポンサーに頼らず自主的におこなう)のローカル野外音楽フェスティバルといえば……?

「え?岡山で野外音楽フェスやっているの?」と、いまだ知らぬかたにぜひ紹介したいのが、岡山県井原市で毎年5月に開催される『hoshiotoホシオト)』です。

2023年10月に開催される『hoshioto Camp’23ホシオト キャンプ)』についての紹介と、開催までの経緯など主宰者の藤井裕士ふじい ゆうし)さんへお話を聞きました。


野外音楽フェスティバル『hoshioto』の概要

(写真提供:hoshioto実行委員会)hoshioto

『hoshioto』は地元密着型、完全インディペンデントのローカル野外音楽フェスティバルです。

2012年より星空が綺麗な町、岡山県井原市にて「最高の星空の下で最高の音楽を」をコンセプトに手作りで開催しております。
2017年から現在の開催場所である井原市青野町葡萄浪漫館に移動し、家族でも個人でも仲間とでも参加しやすいフェスティバルを目指しております。
音楽だけではなく、キッズエリアやワークショップ、出店も充実させ、さらにはキャンプも可能になってます。

コロナ禍で開催が見送られた年もありましたが、そんな困難も乗り越えインディペンデントながら通算12年目に突入しました。


筆者のhoshiotoとの出会い

私は普段、ストリーミングサービスを利用して四六時中音楽を聞いていますし、好きなアーティストのワンマンライブへ年に数回行くぐらいの音楽好きです。

しかし、自称音楽好きながら『hoshioto』に出会うまで、興味はあるものの「野外音楽フェス」に参加したことはありませんでした。

その心は、遠いし高いし…宿泊が…交通費が……子どもが小さいし……そんな言い訳を並べ立て、YouTubeのリアルタイム配信の視聴にとどまっていました。

そんなある日、プレイガイド内をネットサーフィンしていてふと目にした、岡山の野外音楽フェスhoshioto』の情報。

出演アーティストを見ると、なんと前年に県外でのライブにも行くほど好きなバンドが来るとのこと。

岡山に来るなんてもう二度とないかもしれないと思い、即決で行くことにしました。

野外音楽フェスで“天国”を錯覚

当日は「岡山の野外音楽フェスっていったいどんなものだろう」という、ごくごく淡〜い期待はありましたが、長居をするつもりはありませんでした。

正直、自分の好きなアーティストを観るだけで帰ろうかなとさえ思っていました。

ところが、そこには予想を超えた事態が待っていました。

(写真提供:hoshioto実行委員会)hoshioto

井原の山の上で、クオリティがめちゃめちゃめちゃめちゃ高い

会場内には6つの特設ステージが組まれています。

大規模なものから小規模なものまで、どんなアーティストにも応えられそうな体勢であることや、リハーサルのようすからもうかがえる音響設備の本気度にまず圧倒されました。

さらに、エントランスからはじまり、森を彩る装飾も抜け目なくおしゃれ。

小さな子どもたちが遊べるスペースも用意されている。

(写真提供:hoshioto実行委員会)hoshioto

こだわりのおいしい屋台が並び、おなかが空いても大丈夫。

お天気に恵まれキラキラ輝く新緑を背景に、みんな笑顔で、自分のペースでそれぞれに音楽を楽しみ、木陰のハンモックでリラックス、子どもたちが駆け回り、森のほうぼうからかすかに響くメロディやこだまするハッピーな歓声……。

(写真提供:hoshioto実行委員会)hoshioto

圧倒的非日常の空間で、ここは天国かと錯覚しました。

純粋に“音楽”にゆだねられる

そして、自由にただ音楽を楽しめる空間でもあるということ。

ファンじゃなくても、彼らを知らなくても、ただただ純粋に音楽に身をゆだねるだけで、“もらえるもの”があるんだと知りました。

(写真提供:hoshioto実行委員会)hoshioto

野外という環境のせいなのか、アーティストたちのエネルギーがなせるものなのか、どんなジャンルであっても素直に触れてみようと自然に思えました。

これらの体験が岡山で叶うという奇跡、交通費をかけなくても泊まらなくても行ける天国がある……!


『hoshioto Camp’23』令和5年10月28日(土)開催決定!


『hoshioto』に対して、ややゆる〜りとしたコンセプトの『hoshioto Camp ‘23』が、令和5年10月28日(土)に開催されます。

『hoshioto Camp』は2023年で3回目です。

もともと、コロナ禍で2020年、2021年と2年間中止となった5月開催の『hoshioto』のリベンジとして、2021年の10月に開催したのが始まりです。

『hoshioto』代表の藤井裕士ふじい ゆうし)さん曰く「やってみたら気候がすごく良くて過ごしやすく、10月なんで日暮れが早いこともあり、5月開催の『hoshioto』よりも早い時間から星をいっぱい見ることができるんです」と。

星空が最高なのでキャンプはおすすめですが、しなくてもOK!

宿泊キャンプは必須条件ではなく、単にイベントを観に来るだけでもOKです。

「ステージ数は少なめなので、ガッツリ音楽を聴くというよりも、ゆっくりのんびり、非日常をゆるやかに味わってもらえたらなと思います。

星空メッセンジャーという星の解説者のかたも来られますし、音楽について語る討論会や、フェス研究の第一人者を招いたトークショーも企画しています。

友達同士や家族はもちろん、一人で来られるかたもたくさんいらっしゃいますし、みなさん思い思いに過ごされます。

ご飯も食べられますし、音楽以外のことも楽しめて、時間はあっというまに過ぎますよ」(藤井さん)

(写真提供:hoshioto実行委員会)hoshioto Camp

当日は車で行くこともできますが、井原鉄道の井原駅から会場までのシャトルバス(予約不要)と、JR福山駅から会場までのシャトルバス(要予約)も出ています。

場内駐車場付前売券は数に限りがあります。そのほか駐車場に関する最新情報はWebサイトから確認してください。

ところで『hoshioto』を主宰する代表の藤井裕士さんとは何者なのか、その秘密に迫るべくインタビューをしました。


『hoshioto』代表の藤井裕士さんにインタビュー


改めて『hoshioto』を始めた経緯や、初開催から12年を経た今の想いなどを、会場となる葡萄浪漫館でお聞きしました。

『hoshioto』代表の藤井裕士さん

──『hoshioto』を始めた経緯を教えてください。

藤井(敬称略)──

いろいろな経緯があるのですが、僕が2001年にフジロックに行って衝撃を受けてこれが地元でできたらいいなと思ったことがきっかけです。

大学で県外に出て戻ってきて、地元井原で会社員をしていたのですが、このまま住み続けるとして、何かおもしろいことができないかな〜と考えていました。

2010年ぐらいから会場を探すようになり、たまたま美星町のキャンプ場の管理人をやり始めた知り合いから、なんか企画やってよって言われたんです。

早速友人らと見に行って「ここを会場にできるんじゃない?」って、そこからいろいろなタイミングや縁が重なって、やがて2012年の初開催に至りました。

右も左もわからないのに、なぜかできるイメージがあった

──立ち上げた実行メンバーは藤井さんをはじめ、本業は音楽関係者ではないんですよね。

藤井──

最初は本当に右も左もわからなくて、ステージどうやって作ったらええん?チケットどうやって売ればいいの?導線は?音響は?って。

バンド活動をやっていたので、ステージになじみはあったんですけど、企画を一からやっていたわけではないので、アーティストのブッキングのやりかたもわからなくて、一時期ネットで調べまくっていました。

──一般人が「野外音楽フェスティバルをやりたい!」と思ったとしても、本当にやる人はまずいないと思うんです。行動力に驚きです。

藤井──

ノウハウを知っていたわけじゃないですけど、井原市で開催されていた野外コンサートを手伝っていた経験から、なんとなくできるんじゃね?というよくわからない自信がありましたね。

あるアーティストのマネージャーさんからも「よくわからないけど、藤井君、あの頃、謎の自信があったよね」と言われて。

振り返ると不思議なんですけど、なぜかできるイメージがすごくありました。

──初開催はどんな結果だったのでしょうか。

藤井──

当時はチケットの販売をシステム化できなくて、お客さんとメールでやりとりして口座に振り込んでくださいというすごいめんどくさいやり方で、前売券はあまり売れませんでした。

その代わりに当日券が想定していた枚数の倍ぐらい売れたんですよ。

会場前にお客さんがダーって並ばれたのを見て、スタッフで「ええーーー!」ってなって。

そういう意味では成功だったと思います、内容の反省点はいろいろありましたけど。

まずは5年間、できるところまで自分たちでやるしかない

──イベントを立ち上げた当初の反響はどうでしたか。

藤井──

2012年当時、地方ではフェスという言葉はまだまだ浸透していませんでした。

ロックとか音楽とか外でやるなんて、よくわからない奴が何やってんの?って、理解されない雰囲気もありました。

悔しい思いもしましたが、実績のない何者かわからないものから協力してくださいって言われても難しいですよね。

とりあえず、できるところまで自分たちでやるしかない、5年間は頑張ろうって決めました。

──そして12年間、続けて来られているのですね。

藤井──

5年間という目標を達成したとき、一瞬本当にやめようかと思いました。

会場を葡萄浪漫館(井原市青野町)に移動し6年目の開催となった2017年、どかーんと赤字になって、やばいなー、もう5年やったしやめようかなーって、ライブ見ながらやめるつもりでいました。

でも、その日出演したアーティストさんから翌日にメールがきて「言うの忘れていたんですけど、実は私フジロックに出ることが決まったんです。でも私が初めて出たフェスはhoshiotoなんです。頑張ります」と。

マジかあ……と。

今、そのかためちゃくちゃ売れちゃったんですけど。

ちゃんと見てくれている人がいるんだなあって、もうちょっと頑張ろうと思い直しました。

(写真提供:hoshioto実行委員会)hoshioto

──そういったアーティストのかたからの声は励みになりますね。

藤井──

応援してくださるお客さんも多くて。

これまでもギリギリで続けてきたのですが、2023年も赤字になると発表させていただいていたら、当日たくさん励ましの声をかけられました。

「何かできることがあればしたいです」とメールをいただくこともあります。

そんな声にあと押しされたこともあり、悪あがきしてみようとクラウドファンディングに挑戦してみたら、びっくりするぐらい集まりました。

目標達成はしなかったものの、なんとか今年の『hoshioto Camp』開催にはこぎつけることができました。

設営前の会場(葡萄浪漫館にある広場)

お客さん、アーティスト、スタッフに還元したい

──イベント自体のクオリティもさることながら、ソフト面としてWebサイトやアフタームービーも素敵だし、グッズのグラフィックデザインもかわいいですよね。

藤井──

それらを作ってくれているのは、もともと全員『hoshioto』のスタッフなんです。

フライヤーはカメラマン希望で入った子がデザインもやっていて、めちゃくちゃ良かったんでお願いしました。

Webサイトは独立予定のデザイナーから、ぜひやりたいと申し出があって。

Tシャツのデザインもイラストやっている子がいて、じゃあ任せるよって、若くてセンスのある子にどんどんやってもらっています。

(写真提供:hoshioto実行委員会)参考:hoshioto’23のグッズ

──本業が会社員で、音楽関係者ではないからこその強みや利点はありますか?

藤井──

まず、驚かれて話が盛り上がるところですかね。

音楽関係者のかたもけっこういらしてくれるのですが、手作りで頑張っているからって応援してくださいますね。

こういった手作りのイベントが好きだからと出てくださるアーティストのかたもいらっしゃいます。

普段、何をしているかわからない人じゃないから、逆に信用があるのかなと思っています。

何かしらお客さんとアーティストのかたに還元できるように、もちろんスタッフさんへもですけど、そういうことばっかり考えています。

「フェスのその先へ」もっともっと地元をワクワクさせる

──初開催から12年を経て『hoshioto』への思いや、今後の展望について教えてください。

藤井──

これまで1年1年全力で、今年で終わってもいいやという気持ちでやってきました。

イベントをやって楽しかったね、それだけでももちろんいいのですが、今は「フェスのその先へ」思いを馳せています。

『hoshioto』をすることで、何か変わってくるのか、何か変えられることがあるのか、どういう影響を与えられるのかということを常に考えるようになりました。

10年もやっていると『hoshioto』があることで地元に誇りを感じてもらえていると聞くこともあって。

行政からも受け入れられるようになり、ちょっとずつ何か、地元に影響を与えられているんじゃないかなって。

気がついたら、いろいろな人から「藤井さんは地域創生されていますよね」と言われるようになりました。

でも僕は『hoshioto』を年に1回やるだけじゃ絶対ダメだと思っていて、もっともっと「地元をワクワクさせる」というのが、僕のこの先の野望というかテーマです。

──会社員のままで、2023年になって会社を設立されたとか?

藤井──

『hoshioto』もやるけれど、自分の住んでいる町がもっとおもしろくなるための「フェスのその先へ」を見据えたら、ちゃんとした母体があったほうがやりやすいのではないかと考えました。

何が答えなのかはまだわからないけれど、今がタイミングだと思い立ち上げました。

──とても元気の出るお話をありがとうございます。最後に、これから何かに挑戦しようとしているかたや若い世代に向けたメッセージをいただけますか?

藤井──

とにかくしたいことがあって、それをやっているうちに変わったとしても、最終的には結局つながります。

僕は大学ぐらいまでずっと野球をやっていて、音楽好きでCDショップでバイトを始めて、自分でバンドもやるようになり、友達のバンドのスタッフもやりました。

たくさんライブに通って、いろいろな人たちと出会って、そういった経験がイベントの主催をするにあたり、すべてプラスになっています。

10年後、20年後ぐらいに「あのときのあれー!」というのが絶対あるんですよ。

自分が動くことで得るものってめちゃめちゃデカくて、人がなんかやってくれるっていうスタンスだと何も起こらないと思います。

だから若いときに興味のあることにチャレンジするのは大切で、途中で失敗しても悩んでもいいと思うんですよね。

僕はまだ成功っていうものがなんなのか正直わからないですけど、自分が選んだ道が間違っていなかったと思えれば全然いいかなって思っています。

「あのとき、ああしておけばよかったな」って後で絶対思わないように、思いっきり好きなことをやっていけばいいと思いますよ。

インタビューを終えて

『hoshioto』での素晴らしい体験を通して藤井さんの存在を知り、ずっとお会いしてみたいと思っていました。

すでにさまざまなWeb媒体で『hoshioto』に関する藤井さんのインタビュー記事は見つけられますが、それらとは少し違った角度から紹介できたのではないかと思います。

「フジロックみたいな音楽フェスをやってみたい!」から、本当にやってしまう類まれな行動力。

ぶっ飛んでいるけれど芯がありあたたかい、そんなお人柄にも少し触れることができました。

深まる秋、『hoshioto Camp’23』で、最高の星空の下で最高の音楽をぜひ味わってみてください。

(写真提供:hoshioto実行委員会)hoshioto Camp

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