「実際に起きたことを目撃して欲しい」人間の対立と凶暴性を描く、世紀の問題作『ヨーロッパ新世紀』

『ヨーロッパ新世紀』©Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022

『4ヶ月、3週と2日』で「カンヌ国際映画祭」パルムドールを受賞し、世界に注目されたルーマニアの巨星クリスティアン・ムンジウ監督の最新作『ヨーロッパ新世紀』が、10月14日(土)より全国順次公開される。このたび、17分間におよぶ怒涛の長回しショットの冒頭映像が解禁となった。

映画の基になった実際に起きた事件とは?

ルーマニアを代表する俊英クリスティアン・ムンジウ監督による、6年ぶりの待望の最新作『ヨーロッパ新世紀』は、ルーマニア中部トランシルヴァニア地方の小さな村の工場が、アジアから出稼ぎ労働者を迎え入れたことを発端に、住人たちの間で深刻な紛争が巻き起こる戦慄の社会派サスペンス。

幾多の火種を抱えたヨーロッパの不穏な新世紀、そして分断された世界の今をあぶり出し、2022年の「カンヌ国際映画祭」コンペティション部門出品の他、数々の映画祭で絶賛を博した。今年4月にアメリカで公開され、映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では【96%フレッシュ】の高評価を得ている(2023年10/6現在)。

舞台となるトランシルヴァニア地方は、ブラム・ストーカーの古典的な恐怖小説「吸血鬼ドラキュラ」の舞台になったことで有名。古くからの伝統行事が受け継がれ、ヨーロッパ有数の野生動物の生息地でもある。ルーマニア人とハンガリー人、少数のドイツ人やロマの人々が暮らし、ルーマニア語、ハンガリー語、ドイツ語、英語、フランス語といった多言語が飛び交う特異な地域である。

本作は、実際に起きた事件を基に、フィクションとして作られている。「2020年ディトラウ外国人排斥事件(2020 Ditrău xenophobic incident)」として当時BBC等でも報道されたこの事件は、トランシルヴァニアのディトラウという村のパン工場に、スリランカから3人の労働者が来たことに対して、住民による抗議運動がおこり、外国人労働者を雇用しないよう求める1800人もの署名まで集まった事件だ。外国人労働者を排斥する動きは次第に過激化し、村の住人全体が話し合う集会が行われたが、その集会を撮影したビデオがインターネット上に流出し、国家的な大問題にまで発展した。ムンジウ監督は、ルーマニアでの本作の初上映をこの村で行ったという。

「実際に起きたことを目撃して欲しい」

本作の最大の見どころは、17分におよぶ固定カメラの長回しで撮影された村の住人が一堂に会する文化センターでの緊急集会シーン。映画の中心人物をはじめ、村長、神父、警察署長、フランスから来たNGO職員、報道関係者も立ち会い、住人たちの激論が展開する。

ルーマニア語、ハンガリー語、フランス語、英語で交わされる討論では、外国人労働者を“異物”と見なした住人たちが容赦なく彼らに向ける偏見の視線、攻撃的に差別する言葉、民族、宗教、貧富の格差、EUが推進するリベラルな政策やグローバル資本主義の歪み、西欧と東欧の問題、民主主義の危機…などに根差した住民の鬱憤、不満が爆発する。その恐ろしいまでのリアルな描写は臨場感にあふれ、圧巻のひとこと。私たち日本人にとっても他人事ではない有様が鮮烈に映像化されている。

映像は、その冒頭部分だ。「平和な村で90年代以降民族紛争はありません」という村長の発言から始まる集会が、次第に暴発していく様子が垣間見られる。26人の登場人物が話す17分間ものワンシーンをワンテイクで撮影したムンジウ監督は、17分の長回し撮影を行った理由を、「観客がまるでその場で集会を体験するような映像にしたかったし、実際に起きたことを目撃して欲しかったから」と言う。

『ヨーロッパ新世紀』は10月14日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

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