社説:ノーベル平和賞 社会変革へつなげる契機に

 女性の人権はもちろん、世界各地で抑圧を受けながら、自由を求めて活動する人々を力づける授賞だと言えよう。

 今年のノーベル平和賞に、イラン人の女性人権活動家、ナルゲス・モハンマディさん(51)が選ばれた。

 モハンマディさんは非政府組織(NGO)「人権擁護センター」の副代表を務める。厳格なイスラム体制下のイランで女性の抑圧や人権侵害を告発し、イランで頻発している死刑に反対し続けてきた。

 これまで13回の拘束、5度の有罪判決で計31年の禁錮刑や154回のむち打ちを宣告された。現在刑務所に収監中だが、屈せずに声を上げている。

 ノルウェーのノーベル賞委員会は授賞理由に「イランにおける女性の抑圧との闘いと、全ての人々のための人権や自由を促進する闘い」などを挙げた。

 イランでは1979年の革命以降、イスラム教シーア派の宗教指導者が最高位に君臨し、政教一致で統治する。

 表現や言論の自由が制限され、女性には国籍や宗教を問わず公共の場で髪を隠すヘジャブ(スカーフ)の着用を法的に義務付けている。

 保守強硬派のライシ政権は昨年9月、ヘジャブのかぶり方が不適切だとして女性を拘束。女性は3日後に死亡し、各地で「女性、命、自由」を掲げた抗議デモが広がった。

 モハンマディさんは獄中からSNS(交流サイト)で支持を呼びかけ、運動の主導的な役割を担ってきたと評価された。

 ノーベル賞委員会はモハンマディさんの即時釈放を求めるが、イラン当局はかたくなな姿勢を崩していない。

 当局は普遍的な価値である基本的な人権と平等を求める国民や、国際社会の声に真摯(しんし)に向き合うべきだ。

 世界では児童婚問題や、性被害を告発する「#MeToo」運動が広がる実態がある。

 米欧や日本でも教育機会の不平等、交際・結婚相手からの暴力など課題は山積している。自分事として連帯を広げたい。

 ノーベル経済学賞では、男女間に賃金格差が生じる要因を解明した女性で、米ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授(77)が選ばれた。

 ゴールディン教授は授賞会見で、日本についても言及。非正規など女性の短時間労働が多いとして、「労働力として働かせるだけでは解決にならない」と話し、女性の社会参画が遅れていると指摘した。

 長い歴史のあるノーベル賞で、千人近くになる授賞者のうち、女性はわずか6%程度に過ぎない。その背景にも雇用や教育、家庭などで社会に根強く残る男女格差の実態が浮かび上がる。

 両名の受賞が、女性をはじめ誰もが人間らしく生きる権利を得られるよう、社会変革につなげる機会としたい。

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